服用中にチーズを食べない方がいい薬って?|薬物相互作用クイズ
【日経メディカルAナーシング Pick up!】
NPO法人医薬品ライフタイムマネジメントセンター
処方とエピソード
<処方1>43歳の女性、内科
イスコチン錠 100mg 3錠 1日1回 朝食後 14日分
リファンジンカプセル 150mg 3カプセル 1日1回 朝食前 14日分
ピドキサール錠 20mg 2錠 1日2回 朝夕食後 14日分
ツベルクリンテスト陽性で結核が疑われた患者に、発症予防として上記薬剤が処方された。
患者がこれら薬剤を服用中に、赤ワインとともにパルメザンチーズ入りのパスタを食べたところ、30 分程経過した後、動悸、重篤な皮膚紅潮、結膜紅潮、頭痛、呼吸困難、頻回呼吸、発汗などが起こった。1 時間程度して症状はさらに悪化したため、ICU(集中治療室)に運ばれた。
◆問題◆
【1】<処方 1>のうち、チーズやワインとの併用に注意しなければならない薬剤はどれか?
【2】【1】の薬剤がチーズやワインとの併用に注意しなければならない理由は何か?
◇答え◇
【1】チーズやワインとの併用に注意しなければならない薬剤は「イスコチン」<イソニアジド>である。
【2】イソニアジドが併用注意である理由は、イソニアジドなどの MAO(monoamineoxidaseモノアミン酸化酵素)阻害活性のある薬剤を使用しているときに、チーズやワインなどのチラミン(tyramine: p-hydroxyphenylethylamine)を含有する飲食物を摂取すると、チラミンの代謝が阻害され、チラミン中毒(発汗、動悸、上腹部痛、頭痛、血圧上昇および悪心・嘔吐などの症状)が惹起される可能性があるからである。
解説
■イソニアジドとチーズやワインとの併用症例の詳細
問題の症例の詳細ついて以下に示す。
【症例】[文献 1)]
43歳の女性、物理学者。これまで特にこれといった病気をしたことはなかった。ツベルクリンテストで1985年3月に初めて陽性となり、結核が疑われた。
そこで、発症予防のために抗結核薬であるイソニアジド300mg/日、リファンピシン450mg/日およびピリドキシン40mg/日が処方された(服用時間は不明、なお<処方1>ではピリドキシンと同じビタミンB6であるピリドキサールとした)。
これらの薬剤を服用中の4月中旬に、赤ワインとともにパルメザンチーズ入りのパスタを食べたところ、30分程経過した後、動悸、重篤な皮膚紅潮、結膜紅潮、頭痛、呼吸困難、頻回呼吸、発汗などが起こった。
1時間程度して症状はさらに悪化したため、ICU(集中治療室)に運ばれた。その時点で、脈拍は130/分であり、収縮期血圧が100mmHgから130mmHgへと上昇していた。
ステロイド剤であるプレドニゾロンを静脈内に投与したところ、1時間以内に症状は改善した。原因物質と目されたイソニアジドとリファンピシンの服用は中止され、その日の午後に退院した。
上記症例ではイソニアジドとリファンピシンの投与が中止されたが、上記症状の原因は、イソニアジドなどのMAO(モノアミン酸化酵素)阻害活性のある薬剤を使用しているときに、チーズやワインなどのチラミンを含有する飲食物を摂取することによってチラミンの代謝が阻害され、チラミン中毒(発汗、動悸、上腹部痛、頭痛、血圧上昇および悪心・嘔吐などの症状)が惹起されたと考えられた。
イソニアジドによるチラミン代謝阻害の作用機序
チラミンは強い毒性があることが知られているが、正常時、チラミンは腸管壁中に大量に含まれているMAOによって代謝分解され、不活性化されるため毒性を示さない(図1、2)[文献 2、3)]。
しかし、イソニアジド存在下において、イソニアジドがチラミンを代謝分解するMAOを阻害することによって、腸管内のチラミンを分解できなくなってしまい、チラミンが体内に吸収され、循環血に乗り全身に行きわたることによってチラミンの有害反応が発現することになる(図3)[文献 3)]。
もし、食物中のチラミンが腸管から吸収されると、全身に存在するアドレナリン作動性神経終末部と呼ばれる部位に取り込まれ、ノルアドレナリンの放出を促進させ、その濃度を増大させる。
さらに、チラミンにはノルアドレナリンなどのカテコラミン類が代謝分解されるのを阻害する働きがあることから、ノルアドレナリンなどのカテコラミン類の濃度をさらに上昇させ、その作用を増強させることになる。
したがって、チーズやワインなどのチラミンを多く含む飲食物のみを摂取する場合には特に問題はないが、症例のように、これらチラミン含有物とともにイソニアジドを服用すると、チラミン中毒が起こる。
図1 チーズなどに含まれるチラミンの代謝マップの一部とイソニアジドによる代謝阻害部位 イソニアジドによってモノアミン酸化酵素(MAO)が阻害されるためチラミン中毒となる。[文献 2)を引用改変] |
図2 チーズ中に含まれるチラミンの消化管内における挙動 チーズに含まれるチラミン(○)は、消化管内では小腸上皮細胞に存在するMAO(モノアミン酸化酵素、┳)によって代謝されて分解物(●)になる。[文献 3)を引用改変] |
図3 イソニアジド存在下におけるチーズ中に含まれるチラミンの消化管内における挙動 イソニアジド(★)が存在すると、チラミン(○)のMAO(モノアミン酸化酵素、┳)による代謝は強く阻害され、チラミンは消化管内に残ってしまい、上皮細胞へと吸収される。これによりチラミンの上皮細胞内と血液中濃度は上昇することになる。[文献 3)を引用改変] |
チラミン含有飲食物とモノアミン酸化酵素阻害剤の相互作用
チラミンはチーズ、ワインのほかにビール、コーヒー、発酵させた大豆、加工した肉類・魚類、イチジクなどに含まれていることが知られている(表1)[文献 3-5)]。これらの飲食物をイソニアジドとの組み合わせで摂取する場合は、注意が必要である。
また、チラミンの含有量は飲食物によって異なっているため、多量に含むものは原則として摂取を控え、中等量では少量または制限量ならば摂取可とし、少量しか含まない場合では摂取可とするのがよいと考えられる。
表1 チラミンを含有する飲食物とモノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤の相互作用 チラミン含有量は飲食物によって異なっているため、MAO阻害剤となる薬を使用時の対応はそれぞれ異なっている。[文献 4, 5)を引用改変] ※クリックで拡大します。 |
[参考文献]
1)Toutoungi M et al., Lancet 326(8456):671,1985
2)米田和子 他, ファルマシア 23:173-176, 1987
3)澤田康文, 薬と食の相互作用, 医薬ジャーナル, 166-169
4)Yamreudeewomg W et al, Journal of Family Practice, 40:376-384,1995
5)中野弘一他, 臨床と薬物治搬, 14:919-921,1995
<掲載元>
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