国内初の慢性便秘症診療ガイドラインが登場|慢性便秘症の治療薬、使い分けのポイントは?
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増谷 彩=日経メディカル
今年10月、国内初の慢性便秘症の診療ガイドラインが登場した。臨床現場で使いやすい「慢性便秘症」の定義が明記され、個々の便秘治療薬の推奨度が明示されたのが特徴だ。内服薬の使い分けを中心に保存的治療のポイントを紹介する。
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日本消化器病学会の関連研究会である慢性便秘の診断・治療研究会は今年10月、『慢性便秘症診療ガイドライン2017』を発行した。
同研究会事務局を務めた横浜市立大学附属病院肝胆膵消化器病学教室の主任教授である中島淳氏は、「便秘と診断する技術を向上させるため、日本消化器病学会が主体となってガイドラインを作成するべきだということになり、研究会が発足した」と経緯を説明する。
慢性便秘症についての診療ガイドラインが作成されたのは、我が国では初めてのことだ。
便秘の定義は実臨床での使いやすさを優先
ガイドラインでは、便秘症を「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と実臨床で使いやすいシンプルな定義にした。
ここで定義される便秘症には、(1)排便回数や排便量が少ないために糞便が大腸内に滞っている、(2)直腸内にある糞便を快適に排出できない――という2つの状態が含まれる。
同研究会の副委員長を務めた鳥居内科クリニック(東京都世田谷区)院長の鳥居明氏は、「これまで便秘診療に当たる多くの医師は、便が大腸内に滞る内科的な状態を中心に考えていたが、今回は排出障害という外科的な状態にも注目した」と説明する。毎日排便があっても、患者に残便感や不快感があれば、治療の対象になるという考え方だ。
治療に関連する章ではクリニカルクエスチョン(CQ)をリストアップし、それぞれのCQについてエビデンスレベルをA(質の高いエビデンス)からD(非常に質の低いエビデンス)、推奨度を「(1)強い推奨」か「(2)弱い推奨」で表した。
治療は、保存的治療を基本としている(表1)。その手法として挙げたのは、生活習慣の改善、内服療法、バイオフィードバック療法、外用薬、摘便、逆行性洗腸法だ。外科的治療としては、直腸瘤の手術や、盲腸部分から肛門に向けて洗浄する順行性洗腸法、大腸切除術などを取り上げている。
<表1>
慢性便秘症の保存的治療とそのエビデンスレベル・推奨度(日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断・治療研究会『慢性便秘症診療ガイドライン2017』より一部改変) |
上皮機能変容薬は「効き過ぎ」にも注意
内服療法のうちエビデンスレベルA、「強い推奨」で、慢性便秘症に有用であり使用を推奨するとされたのは、上皮機能変容薬と浸透圧性下剤だ。中島氏は、「実臨床では、上皮機能変容薬と浸透圧性下剤は同列のものとして推奨しているということだ」と説明する。
上皮機能変容薬は便を柔らかくし、腸の輸送能力を促進するルビプロストン(商品名アミティーザ)と、便秘型過敏性腸症候群治療薬のリナクロチド(リンゼス)がある。ルビプロストンは妊婦には禁忌で、若年女性でも悪心が生じやすいので注意が必要だ。
一方、リナクロチドは今年3月に便秘型IBSを適応症として発売された薬剤であり、慢性便秘症の適応は現時点ではない。「今後エビデンスが蓄積され、慢性便秘症に適応が広がることが期待される。痛み刺激が抑制されるのが特徴で、腹痛を訴える患者には効果が期待できる」(中島氏)。
鳥居氏は、腸管に炎症や腫瘍といった器質的な疾患がないにもかかわらず、腹痛などの腹部症状と、便秘や下痢などの排便異常を慢性的に呈する患者の場合、ルビプロストンやリナクロチドを使うことが多い。「特に腹部症状が強かったり、ルビプロストンで悪心がある場合にはリナクロチドを使う」(鳥居氏)。
ただし、どちらも効き目がシャープだ。鳥居氏は、「リナクロチドは1錠だと効果が弱いが、2錠使うと効き過ぎてしまう人が多く、中には便失禁に至ってしまうケースもある」と話す。
患者には、処方時に「効き過ぎてお腹を下す可能性もある」と伝えたり、ルビプロストンは食事の直後、リナクロチドは食前と、副作用の症状を軽くできる可能性があるタイミングで服用するよう指導している。鳥居氏は、「新しい薬剤は効き目が強い分、厳密な服薬指導が求められる」と指摘。処方の際は、様子を見ながら用量を調節する必要があるという。
塩類下剤はマグネシウム値の測定を
一方の浸透圧性下剤には、塩類下剤や糖類下剤がある。ただし糖類下剤は日本において慢性便秘症への適応がほとんどないため、酸化マグネシウムなどの塩類下剤が中心となる。ガイドラインでは、塩類下剤に対し「マグネシウムを含む塩類下剤使用時は、定期的なマグネシウムの測定を推奨する」と記載した。
これは、腎不全患者や腎機能障害者が酸化マグネシウムを内服すると血清マグネシウム値が上昇することが報告されているためだ。鳥居氏は高齢者の採血を行うたびに血清マグネシウム値を確認。腎障害がある場合は毎月測定している。血清マグネシウム値が上昇するのは年間で2~3人程度と頻度は低いが、「腎障害のない患者でも起こり得るため、油断は禁物。中には、効果がないからと自己増量しているケースもあるので、服用の状況を診察時にしっかり聞く」(鳥居氏)。
また、酸化マグネシウムは活性型ビタミンD3やビスホスホネートなど骨粗鬆症治療薬との相性が悪いことにも注意したい。これは、骨粗鬆症治療薬がマグネシウムと難溶性のキレートを生成し、薬剤の吸収を阻害するためだ。さらに、酸化マグネシウムは胃酸と膵液で活性化する必要があるため、プロトンポンプ阻害薬などの胃酸分泌抑制薬を服用している患者や胃切除後の患者では効果が低下する。
「弱い推奨」となった刺激性下剤の使い方は?
他の治療法は、推奨度が一段低くなっている。エビデンスレベルはB(中程度の質のエビデンス)、推奨度は「弱い推奨」だが、日本の便秘診療でよく用いられるのが刺激性下剤だ。ガイドラインでは慢性便秘症に対して有効だと評価している一方で、習慣性、あるいは依存性といった問題も指摘している。
そのため中島氏は、「刺激性下剤は漫然とした連用を避けることが重要だ」と強調する。同氏は、下痢が生じたら量を減らすように指示した上で酸化マグネシウムや上皮機能変容薬などの緩下剤を出し、それでも十分な排便が得られなかった場合に使うよう説明して刺激性下剤を頓用で処方している。
処方薬の効果に満足しなかった患者は次の外来まで待つことができず、薬局でより刺激の強い下剤を購入し、依存してしまうことが少なくない。
そこで中島氏は、「1~3カ月後の次の外来までの間、処方した薬剤を使っていれば困らないように、緩下剤の常用に加えて刺激性下剤を頓用で処方しておくことが重要だ。この処方なら重症の便秘症の患者にもある程度対処できるため、次の外来まで患者が忍容できる。次の外来で状態を確認して薬剤を適宜調整し、患者の満足度を上げることが実地診療では大切になる」と話す。
鳥居氏も、刺激性下剤を組み合わせて便秘診療に当たっている。
「過敏性腸症候群の傾向が見られないケースでは、酸化マグネシウムと、刺激性下剤のピコスルファートを併用することが多い」と鳥居氏は話す。
ピコスルファート(ラキソベロン)は、効き過ぎてしまうと便失禁につながる恐れもあるが、就寝前に内服しておくと、起床後に排便する「計画排便」ができる点で有用だという。
鳥居氏は、「便秘を解消する他の努力をせず、刺激性下剤だけを漫然と連用するのは良くないが、必要なら毎日使うこともあり得る。
刺激性下剤のデメリットを強調しすぎると、患者が使用を恐れて1~2週間便秘を我慢し、腸閉塞に至ってしまうこともあるので、患者を不安にさせないような服薬指導が必要だ」と話す。
便秘患者の器質的疾患は定期的にチェック
内服療法以外の治療法として最近取り組む医療機関が増えているのが、「バイオフィードバック療法」だ。排便困難症状に対して高い効果が認められ、エビデンスレベルはAとなった。治療法として保険適用されていないが、今後国内で普及していくものと見られる。
骨盤底筋を適切に収縮できるように訓練するバイオフィードバック療法は、器質性疾患には無効だが、直腸肛門機能障害の人に有効だ。
つまり、便が軟らかくなる治療薬を使用しても肛門をうまく緩められずに排便しにくい人や、便失禁を起こしてしまうなど排便困難症状が強い人に効果が期待できる。
なお、内服薬による治療を継続している便秘患者が、加齢などにより別の器質的疾患を合併することもある。
「初診時は除外診断をしたり便潜血検査を実施したりして器質的疾患を除外するが、数年後に大腸癌や炎症性腸疾患など器質的疾患を来す場合がある。できれば1年に1回便潜血検査を実施したり、病状に変化が見られたら器質的疾患の鑑別を再度行うなど、状況を適宜確認すべき」と鳥居氏は注意を呼び掛けている。
<掲載元>
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