国内初の小児急性虫垂炎診療のガイドラインが登場 |「虫垂炎スコア」が小児急性腹症の診断を支援

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

 

中西 奈美=日経メディカル

 

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この夏、日本小児救急医学会がわが国で初めて小児急性虫垂炎の診療ガイドラインを公表した。そこでは救急対応時のアルゴリズムが示され、画像検査ではエコー検査を第一選択と位置付けた。

 

さらに、膿瘍を形成した虫垂炎に対し、まず抗菌薬で炎症を改善させ、計画的に虫垂を切除する「待機的虫垂切除」も治療法の選択肢に加えた。

 

エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017

 

『エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017』(日本小児救急医学会診療ガイドライン作成委員会編)

 

※購入については日本小児救急医学会事務局に問い合わせください。

 

日本小児救急学会が2017年6月に取りまとめた『エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017』は、小児が腹部症状を訴える疾患のうち緊急性の高い「急性腸炎」と「急性虫垂炎」を対象としたもの。

 

急性虫垂炎については、虫垂炎の評価スコア(虫垂炎スコア)に基づく対処法を示すとともに、確定診断のための画像検査として、CT検査よりも超音波(エコー)検査を推奨したのが特徴だ。

 

小児急性虫垂炎診療ガイドラインワーキンググループの座長を務めた聖マリアンナ医大小児外科教授の川瀬弘一氏は、「虫垂炎スコアに基づく評価は、経験数の少ない医師でも急性虫垂炎診療の役に立つはずだ。小児の急性虫垂炎は遭遇する頻度が高い疾患の1つであり、多くの医師に参考にしてもらいたい」と話す。

 

スコアリングで虫垂炎の可能性を判断

虫垂炎スコアとは、右下腹部に移動する痛みや、食欲不振などの臨床症状を点数化したもの(図1)。

 

【図1】スコアリング点数の評価

スコアリング点数の評価フローチャート

 (『エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017』より)

 

【表1】スコアリングの指標

スコアリング指標の一覧表

 

虫垂炎スコア評価には「Alvarado Score(MANTRES Score)」もしくは「Periatric Appendictis Score(PAS)」を用いる(表1)。

 

どちらのスコアリングでも、7点以上では画像検査の所見を加味することで急性虫垂炎と診断できるとした。7点以上の患者では画像検査を実施し、緊急手術も検討する。

 

PAS評価が7点以上の患者のうち、急性虫垂炎の陽性的中率は72%だったというエビデンスに基づいたものだ。

 

一方、3点以下では虫垂炎の可能性が低いと判断できるとした。救急対応は不要となるため、夜間や休日の救急外来では患児やその家族に翌日に小児科を受診するよう説明し、帰宅させることができる。

 

これは、PAS 3点以下で、虫垂炎以外の疾患だった感度は95%、特異度は83%だったという研究報告に基づく。

 

ただし川瀬氏は、「帰宅後に腹痛が強くなるようならば、翌日まで待たずに再度受診するよう説明することも必要だ」と注意を促す。

 

4点以上7点未満では、急性虫垂炎の可能性は高いものの、断定が難しいケースも含まれる。そのためガイドラインでは、急性虫垂炎かを見極めるための積極的な経過観察(Active Observation:AO)もしくは画像検査の実施を推奨する。

 

「アルゴリズムの登場で急性虫垂炎の診療がしやすくなるのではないか」と話す聖マリアンナ医大の川瀬弘一氏。

 

AOとは、経口摂取禁止の状態で輸液を行い4~8時間おきに身体診察や白血球数好中球数などの検査を繰り返すこと。重症化したり、何らかの処置が必要になる虫垂炎を区別するのが狙いだ。症状が軽減するようなケースでは、スコア評価が3点以下になれば帰宅可となる。

 

例えば、炎症の程度が軽い「カタル性虫垂炎」などは、AO中に症状が改善し虫垂切除の対象から外れていくことが多い。時間をかけてふるいにかけることで、軽症例や虫垂炎以外の疾患など、本来手術を行わなくてもよいケースへの手術を回避できる」と川瀬氏は説明する。

 

ガイドラインでは、単純性虫垂炎(カタル性虫垂炎や蜂窩織炎性虫垂炎の一部)では保存的に軽快する症例があり、超音波検査などで虫垂炎の進行度を評価し、保存的治療を選択することは、有効な手段であると指摘している。

 

ちなみに、保存的治療は絶食と輸液を基本とし、抗菌薬投与の有無に関しては医師により方針が異なるようだ。

 

画像検査ではまず超音波を

もう1つ、ガイドラインでは小児においては「画像検査ではエコー検査が第一選択」とし、安易なCT検査の実施に待ったをかけた。

 

急性虫垂炎をはじめとする急性腹症の確定診断に、画像検査は欠かせないが、CT検査は放射線被曝の問題がある。ガイドラインでは、放射線被曝による発癌リスクを考慮し、CT検査は「エコー検査の次に選ぶもの」と位置付けた。

 

「ガイドラインで推奨されたことで、『子どもの腹痛(急性腹症)にはまずCT検査』という流れを断ち切りたい」と徳山中央病院(山口県周南市)小児科主任部長の内田正志氏は話す。

 

「医者や患者家族にはエコー検査のことを“お腹の聴診器”と話している。子どもの腹症ではエコー検査の所見が有効だ」と話す徳山中央病院の内田正志氏。

 

「超音波検査は術者の経験や患児の状態に左右されやすいが、被曝の心配がないため、診断のほかに経過観察など様々な場面で使用できる有用なツール」と内田氏は強調する。

 

同氏は、上腹部から右下腹部への移動痛、嘔気・嘔吐筋性防御などに加えて、血液検査での白血球や好中球の増加が認められれば虫垂炎を疑い、まずエコー検査を行うことにしている。

 

「虫垂は形状や位置に個人差はあるが、部位とエコーの描出パターンをつかめば、診断は難しくない」と内田氏は言う。

 

右下腹部で腸腰筋と腸骨動静脈を同定し、回盲部周辺で蠕動がなく盲端に終わる管腔臓器が見つかればそれが虫垂だ。一般に圧迫しても潰れない短軸径が6mm以上の腫大が虫垂炎の診断基準といわれている。穿孔すると内圧は下がり、周囲の腸管との区別がつかなくなってしまうため、虫垂径は小さくなる傾向にあるが、糞石や限局性の膿瘍が見つかれば虫垂炎と判断できる。

 

 

虫垂炎穿孔に伴う限局性腹膜炎が疑われた男児の腹部エコー画像

【写真1】虫垂炎穿孔に伴う限局性腹膜炎が疑われた男児の腹部エコー画像(内田氏による)

8MHzでは虫垂の下に膿瘍と見られる低エコーの領域がはっきりと描出できたため、虫垂炎穿孔に伴う限局性腹膜炎と判断し、外科に紹介した。

 

なおガイドラインには、超音波検査が技術的に難しい場合や皮下脂肪の厚い肥満児などは造影CT検査を考慮するよう記載されている。

 

手術前の抗菌薬投与で合併症を減らせ

さらにガイドラインでは、診断後早期から抗菌薬を投与し、2~5カ月後に手術を行う待機的虫垂切除(Interval appendectomy)も選択肢として提示した。

 

「壊疽性虫垂炎や穿孔性虫垂炎など、経過観察では自然治癒しない不可逆的な急性虫垂炎では、再発予防の観点から外科的な処置が本質的な治療法だ。

 

だが、緊急手術では手術に関連する合併症が問題視されてきた」と東京都小児総合医療センター(東京都府中市)副院長の廣部誠一氏は話す。

 

川瀬氏の印象によれば、小児外科では緊急手術を選ぶ医師と待機的切除を選ぶ医師がほぼ半々に分かれるという。

 

待機的虫垂切除の適応としてガイドラインは「触診や画像検査で炎症性の腫瘤や限局性膿瘍の形成がある虫垂炎」を挙げる。総入院日数は待機的切除の方が長いが、手術時間は緊急手術より短く、合併症も起こりにくいと結論付けた。

 

ただし、虫垂が穿孔し、汎発性腹膜炎を発症した虫垂炎は待機的切除の対象外となる。抗菌薬は、セフメタゾールやスルバクタム・アンピシリン、セフトリアキソン、タゾバクタム・ピペラシリン、メロペネムなどの使用を勧めているが、投与期間や投与量、複数併用の可否などの詳細については、ガイドラインには明記されていない。

 

一例として、東京都立小児総合医療センターで実施されている、急性虫垂炎に対する待機的切除の治療プロトコルを紹介する。

 

「汎発性腹膜炎を起こしていない腫瘤形成虫垂炎では、抗菌薬を投与し炎症などを抑えてから虫垂を切除する方法が広く行われている」とコメントする東京都立小児総合医療センターの廣部誠一氏。

 

汎発性腹膜炎を起こしていない腫瘤形成虫垂炎に対して、アンピシリン・スルバクタムを静注投与し、3日ごとに患児の病態を確認する。

 

体温37℃以下が24時間持続、白血球数1万/μL未満、CRP 1mg/dL台を全て満たせば、抗菌薬投与は終了し、その後2日間の観察で再燃がなければ退院となる。

 

1~2週間以内にエコー検査を実施し、問題がなければ退院から3カ月後に虫垂切除を行う。

 

同センターの研究では、発症から48時間以上経過した蜂窩織炎性虫垂炎・壊疽性虫垂炎に相当する患児を、緊急手術(10例)と待機的切除(10例)で比較したところ、手術時間は待機的切除で有意に短く、出血量は少なかった。

 

一方、入院期間は抗菌薬投与期間を加えても両者に有意差はなかった。手術関連の合併症は緊急手術では2例認められたが、待機的切除では1例も認められなかった(日小外会誌. 2016;52:1015-9.)。

 

「汎発性腹膜炎を起こしていない腫瘤形成虫垂炎では、抗菌薬を投与し炎症などを抑えてから虫垂を切除する方法が広く行われている」と東京都立小児総合医療センターの廣部誠一氏はコメントする。

 

今回のガイドラインにより、国内で初めて小児虫垂炎診療のアルゴリズムが示されことで、今後、虫垂炎診療の標準化が進むと期待される。

 

川瀬氏は、「さらにエビデンスが蓄積すれば、今後の改訂で待機的切除の適応が拡大する可能性もある」と話している。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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