便秘に関するQ&A
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『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。
今回は「便秘」に関するQ&Aです。
岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授
便秘の患者からの訴え
- 「便がなかなか出ません」
- 「便がしばらく出ません」
〈便秘に関連する症状〉
〈目次〉
- 1.便秘って何ですか?
- 2.食物が便になるまでの仕組みは?
- 3.排便のメカニズムは?
- 4.腸の蠕動運動はどれくらいの頻度で起こるの?
- 5.理想的な便量はどのくらい?
- 6.便秘の原因は何ですか?
- 7.大腸の機能的便秘ってどんなもの?
- 8.大腸の器質的便秘ってどんなもの?
- 9.便秘のアセスメントは?
- 10.便秘の観察ポイントは?
- 11.病気が疑われる便秘の特徴は?
- 12.便秘のケアのポイントは?
- 13.どうしても排便できない時はどうするの?
- 14.コラム『浣腸による事故』
便秘って何ですか?
人が食べたものは、胃・小腸で消化・吸収された後、大腸を通って肛門から排出されます。大腸内の便の通過が悪くなった状態を、便秘といいます。
何日も便が出ない状態だけでなく、排便があっても量が少ない、便がすっきり出た感じがしない状態、便が固くてなかなか排泄できない—といった状態も、便秘に含まれます。
食物が便になるまでの仕組みは?
口から食べたものは、胃で3〜4時間、小腸で2〜3時間かけて消化・吸収されます。つまり、食べてから約6時間程で大腸の入口にある回盲(かいもう)部に達するわけです。回盲部には回盲弁(バウヒン弁)があり、大腸の内容物が回腸に逆流するのを防いでいます。
今、夕食を食べているとすると、食事の間隔はおよそ6時間ですから、昼食に食べたものがちょうど回盲部の辺りまで来ていることになります。
この状態で夕食が胃に入ると、その刺激によって回盲弁が開き、回腸末端部での蠕動(ぜんどう)運動がさかんになって昼に食べたものが大腸に移動します。これを胃回盲(いかいもう)反射と呼びます(図1)。
大腸に入ったばかりの内容物はまだ液状です。しかし、蠕動運動によって10〜20時間かけて下行結腸まで移動する間に水分の吸収を受け、固形の便になります。
その結果、24時間以上前に食べたものが便として出てくるというわけです。
排便のメカニズムは?
便が大腸の終わりの直腸に溜まって直腸壁が押され、その圧が40〜50mmHg以上になると、直腸壁に分布している骨盤神経が刺激されます。
この刺激が排便中枢を経由して視床下部に伝わり、排便反射が生じます。さらにこの刺激は、大脳皮質の知覚領にも伝えられて便意が生じます。排便反射の結果、直腸の蠕動運動が起こり、内肛門括約筋が弛緩し、さらに自分の意志で外肛門括約筋を弛緩させると、排便が起こります(図2)。
便意は持続的なものではありません。排便を我慢していると、直腸壁の緊張が緩んで便意を感じなくなってしまいます。
腸の蠕動運動はどれくらいの頻度で起こるの?
小腸はいつも蠕動運動をして内容物を移送しています。これに対して大腸は、通常の蠕動運動では、結腸の便を直腸まで移送することはできません。便が直腸に移送されるためには、結腸全体でまとまって起こる、大蠕動という強力な蠕動運動が必要になります。
大蠕動は1日に1〜2回、多くは朝食後に起こります。朝食後に便意を感じる人が多いのは、このためです。大蠕動によって直腸に便が移送され、便意が生じた時に排便を我慢してしまうと、次の大蠕動までの間に大腸内で水分の吸収が進み、便が硬くなって便秘になりやすいのです。
理想的な便量はどのくらい?
理想的な便量は、1日1〜2回、バナナ2本分くらいの便が出るのが理想です。
便秘の原因は何ですか?
便秘の原因には、便が作られる過程や排便の仕組みに障害があって起こる機能的便秘と、腸そのものの病変によって起こる器質的便秘があります。
大腸の機能的便秘ってどんなもの?
便秘のほとんどは、蠕動運動の低下によるものです。原因としては、次のようなものが考えられます。
- ①便の成分になる食物繊維(用語解説参照)が少ない食事(肉類など)に偏りすぎた場合
- ②水分摂取量の不足(便の水分も少なくなり、便が硬くなる)
- ③胃下垂による蠕動運動の機能低下
- ④腸管の蠕動運動を司る自律神経の異常
- ⑤甲状腺機能低下症(粘液水腫)
- ⑥腸の蠕動運動が痙攣のようになり、逆に便をうまく移送できなくなった場合(下剤の乱用、過敏性大腸炎など)
- ⑦加齢や長期臥床による筋力や蠕動運動の低下
- ⑧便意を我慢したり、浣腸を乱用したりすることによる排便反射の低下
食物繊維とは、植物のセルロースなど、人の消化酵素では消化できないものを指します。消化・吸収されないため栄養素にはなりませんが、消化管の運動を適切に維持するのを助けます。
食物繊維は、水に溶ける「水溶性食物繊維」と、水に溶けない「不溶性食物繊維」とに分けられます。便秘に関係するのは、後者の不溶性食物繊維です。最近、食事の欧米化に伴って大腸癌の発生が増加しているのは、食物繊維の摂取が減少して便が大腸に停滞することが関係するといわれています。
ただし、食物繊維の取り過ぎは逆に下痢の症状を引き起こすので、注意が必要です。成人1日当たりの摂取量の目標は、およそ20g です。
大腸の器質的便秘ってどんなもの?
大腸癌やポリープなど、大腸自体に炎症や通過障害があると、腸の通りが悪くなって便秘になります。また、脊椎損傷などで排便にかかわる骨盤神経が機能しなくなると、排便反射が障害されます。
便秘のアセスメントは?
便秘のアセスメントでは、どれくらい便秘が続いているかなど、便秘の状態を確認します。通常、成人で1日100〜250gほどの排便があります。1回の量、硬さ、いきめる状況にあるかどうか、便意を感じるかなどもチェックしましょう。また、既往歴や食事・生活習慣、下剤や浣腸使用の有無も尋ねます。
便秘の観察ポイントは?
患者が便秘を訴えるときは、おなかの視診、触診、聴診を行います。
まずは視診でおなか全体を見て、腹部膨満がないかを観察します。
触診では結腸に沿って触れていき、便が大腸のどの辺りにあるのかをみます。直腸に便がないか、触れてみることも重要です。腹部を触る時には、患者がリラックスできるように声をかけると同時に、羞恥心に配慮しましょう。腹部の触診を行う時は、不快感を与えないように手を温めておきましょう。
聴診では、聴診器で腸管の蠕動音を聞き、動き具合をみます。また、重度の便秘では胃内容物の停滞や腸内細菌の過剰な増殖を引き起こし、悪心や頭痛などの症状を来す場合があります。
病気が疑われる便秘の特徴は?
便の硬さ、太さ、におい、色、混入物などを観察し、異常がないかを確認します。便に血が混じっている時は、大腸癌や潰瘍性大腸炎などの疑いがあります。
また、大腸癌で腸管の内腔が狭くなると、便が細くなることがあります。
また、全身状態や神経症状も観察します。過敏性腸症候群による便秘は「痙攣性便秘」ともいわれ、便秘と下痢が交互に発症します。痙攣性便秘は副交感神経が興奮している時に起こり、めまいや頭痛を伴うことが多いので、これらの随伴症状に注意します。
便秘のケアのポイントは?
患者がつらさを訴える時は腹部を温めたり、マッサージをして、腸管の蠕動運動を促します。
便秘を防ぐためには、生活習慣と食習慣を整えることが大切です。食物繊維をたくさん摂取し、水分を十分に取るように勧めます。便意がなくても、毎日、同じ時間にトイレに行くことも習慣づけましょう。
また、蠕動運動を活発にするために、適度な運動も効果的です。腹筋を鍛えたり、適度な散歩を日々の暮らしに取り入れたりするとよいでしょう。
出来るだけ自然な排便を促すことが大切ですが、便秘が重度な場合や原因によっては、下剤の使用も必要となります。
どうしても排便できない時はどうするの?
どうしても排便できない時は、摘便(てきべん)を行います。手袋をし、グリセリンなどの潤滑剤をしようして直腸や肛門を傷つけないよ うに注意しながら、指で便をかき出します。
排便は患者にとって、とてもデリケートな問題です。便秘に苦しむ患者に接する時は、羞恥心に十分な配慮をしましょう。
コラム『浣腸による事故』
浣腸は、便秘の時だけでなく、最も頻繁に実施される看護行為の1つです。しかし、その危険性についてはあまり認識されていません。
内痔核などがある人に、最も多く用いられるグリセリンで浣腸を行った場合、直腸粘膜を傷つけてグリセリンが血液中に入り、溶血を起こすことがあります。また、トイレで立ったまま浣腸を行って直腸の穿孔をきたしたという事故も報告されています。特に、ディスポーザブルタイプのグリセリン浣腸は先端が硬いので、これらの事故が起こる危険がより高くなると推測されています。
浣腸を行った後は、患者に変化がないか、しばらく注意深く観察することが必要です。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版