腎臓の構造と機能|捨てる(2)
解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、腎臓についてのお話の2回目です。
[前回の内容]
解剖生理学の面白さを知るため、身体を冒険中のナスカ。体内の細胞活動で生じたゴミを廃棄する仕組みについて知りました。
今回は、体内のゴミを分別する腎臓の構造と機能の世界を探検することに…………。
増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授
腎臓の構造
腎臓には、肝臓における肝小葉と同じ、ネフロンとよばれる構成単位があります(図1)。
図1腎臓の構造
ネフロンは、糸球体と尿細管でできていて、その数は片方の腎臓だけで約100万個。それぞれのネフロンは、ほかのネフロンの助けを借りることなく、独立して機能しています。
とはいえ、腎臓にあるすべてのネフロンがいつもフル稼働しているわけではありません。腎臓は通常、かなり予備能力を蓄えた状態で尿をつくっています。ですから、病気や生体腎移植で片方の腎臓を失った場合でも、残った腎臓のそれまで休んでいたネフロンが働き、腎臓の機能はほとんど低下しなくてすむほどです。
ネフロンの一部である糸球体は、腎動脈から枝分かれした毛細血管のかたまりです。杯状に広がった尿細管の末端部分にあたる、ボーマン嚢(のう)が取り囲んでいます。顕微鏡で見るとちょうど毛玉(球)のように見えることから、糸球体という名がつけられました(図2)。
図2ネフロンの構造
腎動脈は1本の輸入細動脈となってボーマン嚢に入ると、毛細血管網となって糸球体を形成します。そして、糸球体で血液をろ過した後、再び集まって1本の輸出細動脈としてボーマン嚢を出ます。
輸出細動脈は尿細管の周囲で再び毛細血管網をつくり、腎臓から出ると、下大静脈に注ぎます。このように、ごく短い間に毛細血管が2回直列に並ぶのは、腎臓の大きな特徴です(図3)。
図3腎臓の毛細血管の特徴
ネフロンは、糸球体と尿細管でできているっていいますけど、それぞれの形が違うっていうことは、役割も当然、違うんですよね?
糸球体はろ紙のようなもの。ほら、水道の蛇口に取り付ける、浄水器ってあるでしょ。あれを想像してもらうとわかるんだけど、グルグル巻きになった繊維の間を血液が通り抜けると、分子の大きなゴミは繊維にひっかかって、通り抜けられない。糸球体はつまり、分子の大小で、ゴミを選り分けているの
尿細管は何をしているんですか?
分子の大きさだけでは分類できないゴミを、エネルギーを使って分泌したり、再び吸収するためにくみ上げたりしているの
能動輸送を使っているんだ
そうよ。だから、尿細管の細胞にはミトコンドリアがたくさん。それだけエネルギーを使っている証拠ね
ネフロンにおける尿の生成
腎臓に送られた血漿は、糸球体の毛細血管を通過する間にろ過され、その20%がボーマン嚢に出てきます。このろ過液が尿のもと、すなわち原尿です。
糸球体では、「いるもの」と「いらないもの」の区別ではなく、物質の大小だけで判断します。いわば、目の大きなザルのようなものです。その目より小さいものは通り抜けるころができるのですが、大きいものは通り抜けられない仕組みになっています。
したがって、赤血球や白血球といった細胞、分子の大きなタンパク質はろ過されず、血漿の中に残ります。反対に、水分やグルコース、アミノ酸、電解質などはザルの目をくぐり抜け、原尿となります。
尿細管は、原尿に含まれる物質の中から必要なものを選別し、再吸収しています。同時に、血液中に残ったままになっているゴミを尿細管へ引き込む働きもしています。これを、分泌とよんでいます。
まとめると、腎臓の機能は「ろ過」「再吸収」「分泌」の3つ。これによって、確実に不要なものだけが、尿となって体外へ出て行きます(図4 )。
図4尿の生成
用語解説糸球体ろ過量(GFR: glomerular filtrate rate)
1分間に糸球体でろ過される血液の量をのことで、正常な場合は100~110mLである。
用語解説糖尿病と腎機能の関係
血糖値が高いと、グルコースの糸球体ろ過量も多くなる。あまりに多量のグルコースがろ過されると、再吸収しきれずに尿に糖が混じることがある。これを糖尿という。血糖値が正常でも、尿細管の再吸収能力に障害が起これば、糖尿は起こる。腎臓の機能障害によって起こる糖尿を腎性糖尿という。
健康な人が1日にどれくらいの尿を排泄するか、知っていますか?
わかりません
だいたい1.5Lといわれています
大きめのペットボトル1本分、か……
ところが、糸球体で1分間にろ過される血液の量は100~110mL。1日あたりに換算すると100mL×60分×24時間で、144Lにもなるの
ということは、144Lから1.5Lを引いた分が再吸収されているんですか?
そうなの。だから、原尿といっても実際に排出される尿の量とはほど遠くて、その99%は、再び体内へと戻るのよ
血圧と尿量の関係
尿生成の第1段階は、糸球体における血液のろ過だとお話しました。ろ過を可能にするのは、血圧の力です。
まずは、尿の生成と血圧の関係を示した図5を見てください。ポイントは、輸入細動脈は輸出細動脈よりも太いということです。入口が太くて出口が狭いということは当然、血液が押し合い・へし合いになり、血圧が上昇します。この高くなった血圧が、糸球体のろ過を助けるのです。
図5血液のろ過と血圧の関係
糸球体血圧は、一般の毛細血管血圧よりも高く、60mmHgぐらいです。一方、この血圧に対抗する力となる血漿タンパクの浸透圧は25mmHg、ボーマン嚢内圧は15mmHgです。
つまり、血漿がしみ出す力60mmHgに対して、合計40mmHgの圧力が血漿を引き止める力となり、ろ過にかかる圧力(有効ろ過圧)は次のようになります。
有効ろ過圧=糸球体血圧‐(血漿浸透圧+ボーマン嚢内圧)
=60-(25+15)
=20mmHg
仮に、出血により血液量が減ったり、心不全で血圧が下がり、糸球体血圧が40mmHgまで低下すると、有効ろ過圧はゼロになります。そのため、尿はつくられなくなり、老廃物が体内に蓄積して、尿毒症とよばれる重篤な病態となります。また、血圧が正常でも、尿細管に腎臓結石ができるなどしてボーマン嚢内圧が35mmHg以上高くなると、理論上、ろ過は止まってしまいます。
ところが現実には、腎動脈の血圧が80~200mmHgの範囲であれば、血圧が上昇しても低下しても、腎血流量や糸球体ろ過量に変化はみられません。これは、腎血流の自己調節作用とよばれ、平滑筋自体の機械的な性質によるものだと考えられています(図5)。
腎臓でゴミを捨てるのは、肺で二酸化炭素を捨てるほど簡単ではありません
どういうことですか?
腎臓を通る血液は、心臓の左心室から送り出された血液全体の4分の1。残りの4分の3は腎臓を通らずに心臓に戻ってきて、そのまま再び全身に送り出されてしまうの
じゃあ、残った血液にあるゴミはどうするんですか?
4分の1ずつ順番に腎臓を通って、最後はちゃんと捨てられます
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版