アシドーシスとアルカローシス|捨てる(3)
解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、腎臓についてのお話の3回目です。
[前回の内容]
解剖生理学の面白さを知るため、身体を冒険中のナスカ。体内のゴミを分別する腎臓の構造と機能について知りました。
今回は、アシドーシスとアルカローシスの世界を探検することに…………。
増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授
そのほかのゴミ処理業者
そうね、最後にそれを説明しましょう
肝臓が担当するのは、ちょっと変わった特殊なゴミです。肝臓に解毒作用があることは、すでに説明しました。肝臓は体内に入ってきた不溶性の物質を水溶性に変えることで無毒化し、胆汁に混ぜて小腸に分泌しています。赤血球中のヘモグロビンの分解産物であるビリルビンも、そうしたゴミの一種です。
現代では、好むと好まざるとにかかわらず、食事からさまざまな有害物質を取り込んでしまうことがあります。水銀やカドミウム、ヒ素、鉛をはじめ、缶飲料や鍋や釜、食器などから溶け出したアルミニウムなど。髪の毛は、身体にとって有害なこれら重金属類を体外に排泄する働きももっています。
1998年に和歌山市で起きた毒入りカレー事件では、被害者の髪の毛から大量のヒ素が検出されました。ヒ素が髪の毛のどの位置に含まれるかによって、ヒ素が体内に入った時期もわかったそうです。
また、皮膚の汗腺からも、汗とともにさまざまな物質が排泄されます。皮脂腺からは、皮脂の油に混じって、油溶性の有害物質が排泄されています。
皮膚からの排泄は、水分調節という意味でも注意が必要です。多量の発汗がある場合は、それだけ多くの水分や電解質が体内から失われるため、水分や塩分の補給が重要になります。
さて、身体がもっている捨てる機能については理解できたかしら?
肝臓も、腎臓も大変なんだなって、なんだかいとおしくなっちゃいました
では、ゴミ処理がうまくいかない場合、体内では何が起こるのか、を少しだけお話しします
少しだけ、ですかー
詳しくは、病理学や病態学でまた勉強してね
アシドーシスとアルカローシス
身体が正常に機能するためには、体液のpHは7.4±0.05(7.35~7.45)という非常に狭い範囲に保たれていなければなりません。二酸化炭素の量はこのpHに深く関係しています。
生理学では、体液が正常よりも酸性に傾いた状態をアシドーシス、アルカリ性に傾いた状態をアルカローシスとよんでいます。肺などの呼吸器が機能せず、二酸化炭素が体内にたまると、呼吸性アシドーシスとよばれる状態を引き起こします(図1)。
図1アシドーシスとアルカローシス
どういうことか、説明しましょう。体内にある二酸化炭素は通常、血漿などの水に溶けた状態で存在します。二酸化炭素は水に溶けると、
CO2 + H2O ⇄ H2CO3 ⇄ H++ HCO3-
となってH2CO3(炭酸)を介して水素イオン(H+)を放出し、体液を酸性にします。この反応は、状況によっては左にも進みます。
軽度のアシドーシスでは、体内のセンサーがそれを探知し、脳の指令によって呼吸を速め、二酸化炭素の排出量を増やそうとします。しかし、重度のアシドーシスになるとそれも機能しなくなり、やがて昏睡(こんすい)に陥ります。
反対に、ストレスなどで呼吸量が増えすぎると、先の反応が左に進み、二酸化炭素がどんどん体外へ排出されます。こうなると、水素イオンを失った体液はアルカリ性に傾き、アルカローシスとなります。
アルカローシスを起こすと、呼吸をするのが苦しくなります。そしてますます呼吸を増やし、アルカローシスが増強します。こうした病態を過換気症候群といいます。
過換気症候群の発作は、身体の中の二酸化炭素濃度が低下したことが原因なので、紙袋を口に当てて、二酸化炭素を多く含む呼気を吸い込むようにすれば治るとされていました。しかし、この方法では、逆に二酸化炭素濃度が高くなりすぎたり、酸素濃度が低くなりすぎる、といった理由で最近では行われなくなりました。アルカローシスにより手足や口唇周囲のしびれ、重度ではけいれんを起こすこともあり、てんかん発作と間違われることもあります。軽い発作であれば、しびれている手を握り、背中をさすりながら、「ゆっくり呼吸しましょうね」とやさしく声掛けして落ち着くのを待ちます。
コラム命にかかわる腎機能障害
腎機能障害は、生命に重大な危機をもたらします。腎臓が尿を生成できないと、余分な水分、酸、カリウムなどの電解質、アンモニウムなどの有害物質が次々と体内にたまってしまうからです。
こうした状態がもたらす重大疾患は尿毒症です。尿毒症になった場合、人工透析などの人為的な手段でゴミ処理を助けるしかありません。
また、水分が体内に貯留し、それが肺に貯留すると肺うっ血や肺水腫に、酸の排泄が低下するとアシドーシスに、カリウムの排泄が低下すると、高カリウム血症になります。
血液中のカリウム濃度が高くなりすぎると、心室筋が興奮しすぎて心室細動をきたすことがあります。高カリウム血症は頓死(あっけなく急死してしまうこと)の可能性を伴うきわめて危険な状態であり、治療によってすみやかに、カリウム値を下げなければなりません。
※編集部註※
当記事は公開時点で、一部誤りがございました。
2024年10月3日に、正しい情報に修正しました。修正の上、お詫び申し上げます。
(誤)CO2 + H2O ⇔ H2CO2 ⇔ H++ HCO3-
(正)CO2 + H2O ⇔ H2CO3 ⇔ H++ HCO3-
[次回]
- 体内の清掃業務|捨てる(1)
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版