体内の清掃業務|捨てる(1)
解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、腎臓についてのお話の1回目です。
[前回の内容]
解剖生理学の面白さを知るため、身体を冒険中のナスカ。大腸・肛門の仕組みについて知りました。
今回は、体内の細胞活動で生じたゴミを廃棄する世界を探検することに……。
増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授
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身体を構成する細胞のなかで行われている物質代謝の目的は、タンパク質をつくり、エネルギーを取り出すことにありました。細胞は毎日、そのために呼吸し、栄養素を分解しています。
ところが、こうした作業にはゴミがつきものです。モノを燃やせば灰になりますが、体内でこれと同じ現象が起こると、水と二酸化炭素、そしていくつかの代謝産物ができます。これらは、いわば燃えカスです。燃えカスは、人間社会のゴミと同じように、できるだけ早く処理しなければなりません。
私たちの身体には、個々の細胞から出た燃えカスを回収し、その種類に応じて適切なゴミ処理場まで運び、体外に排出してくれる仕組みが備わっています。ここでは、こうした体内の清掃業務についてお話します。
大きな街になればなるほど、ちょっとゴミを回収しなかったら、たちまち街がゴミだらけになります。人間の身体もこれと同じ。清掃業者がちょっとでも休んでいたら、大変なことになるのよ
それにしても、身体から出たゴミは、いったい誰が回収しているんですか?
ゴミを集めるのは血液なの。血液は、個々の細胞に必要な物質を届けると同時に、不要な物質を回収しているのよ
血液が集めたゴミは、どこで処理されるんですか?
えっ、皮膚や髪の毛も?
二酸化炭素の捨て場所──肺
細胞の活動によって生じるゴミには、揮発(きはつ)性のものと不揮発性のものがあります。このうち、揮発性のゴミにあたるのが二酸化炭素です。
グルコースなど炭素と水素でできた栄養素を、酸素を使って燃やすと、最終的には水と二酸化炭素ができます。1分子のグルコースを分解するには6分子の酸素が必要で、その結果できる水と二酸化炭素も、それぞれ6分子ずつです。
グルコース(C6H12O6) + 6O2 → 6H2O + 6CO2
こうしてできた水と二酸化炭素のうち、水はそのまま体内で再利用されます。二酸化炭素は血液によって肺へと運ばれ、呼吸運動によって肺から体外へ排出されます。
細胞から出た二酸化炭素を集めて心臓の右心房に戻ってきた血液は、右心室の働きで、肺へと送られます。肺胞の周囲には毛細血管が張り巡らされており、この毛細血管の中を血液が通過するとき、運ばれてきた二酸化炭素は肺胞へと拡散し、呼気とともに空気中に捨てられます。このとき、同時に肺胞中の酸素が血液中に拡散することで、空気中の酸素が血液に取り込まれます。
このような肺におけるガス交換の仕組みは、『肺の構造とガス交換』でお話しました。忘れてしまった方は、もう一度読んでみてください。
赤血球のコンテナは、体内を1周するたびに、肺で二酸化炭素というゴミを捨て、空になったコンテナに、酸素を取り込んでいるの
揮発性のゴミが二酸化炭素なら、不揮発性のゴミって何ですか?
いちばん多いのは尿素。あと代表的なものはアンモニアね
あの、尿に含まれる、くさーい物質ですか?
そうよ
不揮発性ゴミの代表──アンモニア
タンパク質を体内で燃やすと、アミノ酸の窒素からアンモニアがつくられます。アンモニアは、生物にとってきわめて有害な物質です。だから、なるべく早く、からだの外に排出しないといけません。
アンモニアは肝臓に運ばれ、アルギナーゼとよばれる酵素の働きで、尿素に作り替えられます。尿素は水に溶けやすく、アンモニアよりもはるかに毒性が少ないため、これは肝臓の解毒作用の一種ともいえます。
ゴミを分別する腎臓
体内から出る不揮発性のゴミは、水溶性のものと不溶性のものに分けられます。水溶性のものはそのまま腎臓へ運ばれて尿となりますが、不溶性のものは肝臓で水溶性のものに変えられてから腎臓へと送られます。
ゴミには、窒素や硫黄、リンなども含まれています。これら元素の大部分は再利用できるため、ゴミを捨てる場合には、「リサイクルできるゴミ」と「リサイクルできないゴミ」にも分けなければなりません。
面倒なゴミの分別を担っているのは腎臓です。学生のみなさんは、腎臓で尿がつくられることはよくご存知だと思います。しかし、腎臓の重要な機能は尿をつくることではなく、この分別です。
必要なものは体内に残し、不必要なものを身体の外に出す、その手段がたまたま、尿なのです。
驚いた。私たちの身体はゴミをちゃんと分別して捨てているんですね
使えるものはちゃんと再利用するし、とってもエコロジーでしょ
そういえば、古くなった赤血球から放出されたヘモグロビンも、最後はヘムとグロビンに分解されて再利用されるんでしたっけ
そうよ。ヘムから離れた鉄は、新しい赤血球のために、グロビンは新しいタンパク質のために利用されるのよね
腎臓の位置と血液量
皆さんは、腎臓が身体のどこにあるか知っていますか? 腎臓は下腹部にあるように勘違いされやすいのですが、実はもっと背中側の、腰より少し高めの後腹壁に付着しています。腹膜の中ではなく後ろにあるので、後腹膜臓器とよばれたりします。
腎臓は、脊柱の左右、ちょうど第11胸椎から第3腰椎の高さにあるソラ豆のような形をした左右一対の臓器です。右側は肝臓があるため、左の腎臓よりもやや低い位置にあります(図1)。
図1腎臓の位置
片方の腎臓の大きさはヒトの握りこぶしよりやや大きく、重さは120~150g。左右あわせても300gと、腎臓はさほど大きい臓器ではありません。
1分間に心臓から送り出される血液量(分時心拍出量)を5Lとすると、腎血流量(RBF : renal blood flow)は毎分1.25L。これを1日に換算すると、なんと1,800L、ドラム缶10本分にもなるの
腎臓はそんなにたくさんの血液から、「いるもの」と「いらないもの」を選り分けているんだ
そうよ。だから単純に見えて、けっこう重労働なのよ
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版