便検査|検体検査

『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、便検査について解説します。

 

高木 康
昭和大学医学部教授

 

〈目次〉

便検査とはどんな検査か

便を用い、潜血、寄生虫、脂肪あるいは細菌などを検査する(表1)。

 

摂取した飲食物は胆汁、膵液、腸液などの消化液により消化・吸収され、生成された食物残渣は、200mLほどの水分を含む固形便として排泄される。

 

胃腸管およびそれに関連した外分泌臓器(膵・肝など)の消化器疾患が疑われる場合に、便検査が行われる。

 

表1便の主要な検査一覧

便の主要な検査一覧

 

便検査の目的

便検査は、消化管内の出血の有無、肝・胆・膵疾患の有無、寄生虫の存在、あるいは下痢便での食中毒菌の検査を目的とする。

 

便検査の採便法および検体の取り扱い方

  1. 採便後、ただちに検査室に提出する。
  2. 容器は広口の吸水性のない、破損しにくい容器を使用し、乾燥させない。
  3. 赤痢アメーバなどの原虫検査は、粘液、膿性または血性の部分をとり、採便直後の温かいうちに検査する。
  4. 特殊な細菌学的検査の場合は滅菌容器を用いる。

 

便検査の方法

一般的検査

1)肉眼的性状

  • 便は時間が経つにつれて色調、反応などが変化し、また腐敗、発酵するので、採便後なるべく速やかに検査する。
  • 黒色タール様下痢便は上部消化管出血、赤色~鮮紅色の便は直腸肛門部出血の場合にみられる。
  • 粘液は、透明粘稠な液体で一般に小腸からのものは便に均等に混在し、大腸、直腸からのものは便の表面に付着していることが多い。赤痢、過敏性大腸炎、回腸・結腸炎などの腸の炎症に際して増加する。
  • 血便は、粘液と血液が混ざった便で、赤痢、潰瘍性大腸炎、カンピロバクター腸炎、腸結核、結腸癌などでみられる。
  • 膿は、下部腸管の化膿性炎症(赤痢、潰瘍性大腸炎、直腸癌など)に際してみられる。
  • 肉眼的観察だけでも表2に示すような情報が入手できる。

表2便の肉眼的性状

便の肉眼的性状

 

2)寄生虫検査 

寄生虫検査は、虫卵検査と虫体検査に分けられる。

 

①虫卵検査

 

  • 採便は新鮮な便を母指頭大ほど採り、乾燥を防げる容器に入れる。
  • 検査法は便の取り扱い方により直接塗抹法、集卵法(浮遊法、沈殿法)、蟯虫卵検査に使用するスコッチテープ法、糞便培養法などがある。
  • 直接塗抹法は、回虫卵の検出に適している。
  • 浮遊法は、比重の軽い鈎虫卵、東洋毛様線虫卵、回虫不受精卵、鞭虫卵、小型条虫卵、縮小条虫卵、無鉤条虫卵の検出に適している。
  • 沈殿法は、住血吸虫卵、大型吸虫卵、線虫卵、条虫卵の検出に適している。
  • 代表的な寄生虫卵を図1に示した。

図1代表的な寄生虫卵

代表的な寄生虫卵

 

藤田紘一郎監修:パラサイトワールドへようこそ、バイエル・ブックレットシリーズ41、1997より

 

②虫体検査

 

  • 虫体の検出は、自然にあるいは駆虫薬投与により排泄させ、便を大型のガラス筒に入れ、水道水で攪拌洗浄しながら行う。
  • 回虫、蟯虫、条虫などは便をよくかき混ぜて検出する。
  • 鈎虫のような小さい虫体は便をふるいに入れ、水を流し込んで調べる。

〈注意点〉

 

  • 採便後、速やかに検査室へ提出する(すぐに提出できない場合は4℃冷蔵保存し、できるだけ速やかに提出する)。
  • 便を乾燥させない。

3)細菌検査

  • 下痢便の原因を検索するのに大切な検査である。

 

化学的検査

1)pH

  • 健常者の便はほぼ中性で、肉食者ではアルカリ性、脂肪食、野菜食者では酸性になる。

2)便の潜血検査

  • 消化器(、腸管など)の癌、潰瘍、炎症での出血の診断を行う。
  • 大出血では、上部消化管の場合は黒色でタール様下痢便、下部消化管の場合は鮮紅色で血便となる。
  • 乾燥した便は、少量の蒸留水で便を溶かして検査する。
  • 下痢便も通常の方法で検査可能である。
  • 免疫学的方法と化学的方法があるが、化学的方法は検査試薬が製造中止になり自家調整する必要がある
  • 便潜血検査で陽性を示す主な疾患を表3に示す。

表3便潜血検査で陽性を示す主な疾患

便潜血検査で陽性を示す主な疾患

 

①化学的方法

 

  • 赤血球のペルオキシダーゼ様作用を利用して、グアヤックやオルトトリジンなどの色素が過酸化水素で酸化発色により判定する。
  • 方法・手順:便をグアヤックあるいはオルトトリジン試薬が吸着された濾紙上に塗り、過酸化水素を滴下する。陽性では青色に変色する。
  • この方法はヒトヘモグロビンに特異的ではなく、偽陽性反応を示すので注意しなければならない。
  • オルトトリジン法はグアヤック法の1万倍の感度があるが偽陽性も多い。このため、感度の良いオルトトリジン法と感度の悪いグアヤック法を併用する。
  • グアヤック法が陽性であれば潜血陽性、オルトトリジン法だけ陽性であれば潜血食(偽陽性反応を起こす食物を除外した食事)による検査を行う。
  • 上部消化管出血の検出頻度は免疫学的方法より高い。

〈注意点〉

 

  • 潜血食をとらせる。
  • 検査の3日前から獣肉、鶏肉、魚類、貝類、およびそれらで作ったもの(ちくわ、かまぼこなどの入った料理、煮汁などのだし類)などの食物を禁じる。
  • たまご、牛乳、果物類、ご飯、めん類、アルコール類、脂肪(バター、野菜のてんぷら)などは差し支えない。
  • 陽性の場合は、他の要因(鼻腔、口腔咽頭よりの出血、痔出血、月経などの血液の混入)も考えられるため繰り返し検査する。
  • 血液は便中に均等に分布してないので、数か所(表面および内部)より採取する。

 

②免疫学的方法

 

  • 免疫学的方法ではヒトヘモグロビンに特異的な抗体を利用する方法である。下部消化管、特に大腸からの出血を検出するのに適しており、大腸癌スクリーニング検査として用いられる。
  • 採便管に便をとり、この一部に特異抗体試薬を感作したラテックス粒子混濁液を混和して、ラテックス凝集を検出するのが一般的である。

〈注意点〉

 

  • 免疫学的方法では、ヒトヘモグロビン以外には反応しないため、食事の制限はない。
  • 2日間、3日間の連続検査が推奨されており、これらでは大腸癌での陽性率は85~100%である。ただし、早期癌では60%程度である。
  • 免疫学的方法では、上部消化管からの血液は消化液により変性するために検出できにくい。
  • 免疫学的方法と化学的方法の比較を(表4)に示す。

表4免疫学的方法と化学的方法の比較

免疫学的方法と化学的方法の比較

 

3)トリブレー検査

  • 腸粘膜の潰瘍から滲出する可溶性蛋白質を昇こうで沈殿させて検出する。

4)脂肪検査(SaathoffのズダンⅢ試験)

  • スライドガラス上に少量の便をとり、これにズダンⅢ溶液2~3滴を加えた後、軽く混和し、カバーガラスをかけて鏡検する。
  • 中性脂肪は赤色球状の滴として、脂肪酸は酢酸を添加すると鮮紅色になる。
  • 閉塞性黄疸、膵疾患が疑われる時に検査する。
  • 手、指あるいはゴム手袋などの脂肪がスライドガラス、カバーガラスに付着しないように注意する。

本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版

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