脱獄のカギはβブロッカー!?いまさら聞けない自律神経の作用|けいゆう先生の医療ドラマ解説【10】
執筆:山本健人
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医療ドラマを題材に、看護師向けに医学的知識を紹介するこのコーナー。
今回も、BSテレ東で2019年1月12日から放送中の「神酒クリニックで乾杯を」を取り上げます。
(以下、ネタバレもありますのでご注意ください)
けいゆう先生の医療ドラマ解説
Vol.10 「神酒クリニックで乾杯を」で自律神経系の作用を学ぶ
外科医役の三浦貴大さん(左)と安藤政信さん(右)
このドラマは、優秀な医師らが医学的知識を利用しながら、周囲で起こるさまざまな事件の謎に迫る、という“メディカル・ミステリー”です。
舞台となる「神酒クリニック」では、腕は一流でありながら一風変わった医師が、世間に知られることなくVIPの治療を行っています。
第3話で登場した患者は、松島怜奈(桜田ひより)。
人気上昇中の子役、という役柄です。
彼女は白血病で神酒クリニックに入院しており、骨髄移植が必要になります。
患者役の桜田ひよりさん(左)と、看護師役の山下美月さん(右)
ドナーとして唯一適合する父親、兼二郎(三又又三)は、かつて強盗殺人の罪に問われ収監されています。
患者の父親役の三又又三さん(右)
囚人である兼二郎から、一体どのようにして、娘に骨髄移植を行うのか?
外科医の九十九(三浦貴大)と神酒(安藤政信)が考え出した作戦は、病気のふりをさせて兼二郎を脱獄させ、神酒クリニックに搬送する、というものでした。
脱獄に使った「強力なβブロッカー」
医師として刑務所に向かった九十九は、父親と面会した際、刑務官の目を盗んで「あなたを脱獄させる」というメモを見せ、「隅々まで読んでください」という意味深長な言葉とともに1冊の本を手渡します。
兼二郎は本の中に1粒の錠剤を発見。
これを内服すると、血圧と脈拍が低下して倒れてしまう、という筋書きでした。
この錠剤を、神酒は「強力なβブロッカー」と説明しましたね。
ここで、医療現場でもよく出てくる「βブロッカー(β遮断薬)」と、その周辺知識について、改めて復習しておきましょう。
自律神経系の作用
自律神経系には、交感神経と副交感神経があります。
これらは、簡単に言えば、循環、呼吸、消化、分泌、排泄、体温調節などの、基本的な生命活動の維持に必要な脳からの信号を、全身の各臓器に送り届ける線路のようなものです。
上図のように、この線路は太い本線(脊髄)から枝分かれし、それぞれの終着駅に全身の各臓器がある、という形です。
各臓器には自律神経の末端からの信号を受け取るための受容体が複数存在します。
交感神経系の受容体には、「α受容体」「β受容体」があり、さらにこれは「α1」「α2」「β1」「β2」に分類することができます。
それぞれの受容体は異なる働きをするため、「どの受容体で信号を受け取ったか」で臓器の反応が異なる、というのが重要なポイントです。
看護師の皆さんも、このあたりは国試の時に一通り学んだと思いますが、今一度教科書によく掲載される一覧表をご覧ください。
これらの作用をうまく利用すれば、臓器の働きをコントロールすることができるため、さまざまな薬剤が臨床現場で用いられています。
例えば「β2刺激薬」は、その気管支拡張作用によって気管支喘息等の治療薬となっています(ホクナリン®テープ、ベネトリン®、メプチン®など)。
「α1遮断薬」は、前立腺平滑筋を弛緩させ、前立腺の尿道に対する圧迫を軽減できるため、前立腺肥大症(尿が出にくい症状)の治療薬となっています(ハルナール®、フリバス®、ユリーフ®など)(※降圧薬や緑内障治療薬としても使用されます)。
今回ドラマで出てきた「β遮断薬」の中には、β1作用の抑制によって心臓の働きを弱める作用を持つ降圧薬がありますね(テノーミン®、メインテート®、セロケン®など)。
今回神酒が用意したのは「強力なβブロッカー」ということで、その強力なβ1抑制作用により、兼二郎は低血圧と徐脈を引き起こしたと考えられます。
これにより、意識がもうろうとして倒れてしまった兼二郎を、九十九は医学的な理由で正々堂々と刑務所から連れ出すことに成功したのです。
骨髄移植の描写と骨髄穿刺
兼二郎は、娘のドナーになるため神酒クリニックに搬送されます。
ここで描かれたのは、手術室でうつ伏せになり、全身麻酔下に骨髄を採取をされる父親の姿でした。
検査を目的とした1回の骨髄穿刺であれば、局所麻酔を使って骨髄液を吸引します。
以下の図のように、胸骨第2・第3肋間や後上腸骨棘を穿刺するのが一般的です。
約1mmの針を刺す必要がありますが、約1mmというとボールペンの芯ぐらいですから、骨髄採取には局所麻酔が必要です。
一方、骨髄(造血幹細胞)移植を目的とした採取では、伏臥位で両側後上腸骨棘[図中(2)]から穿刺を行います。
まさに今回のドラマで描かれたような処置ですね。
採取すべき総量としては15mL/kg程度が目標となるため、患者が50kgとすると約750mLが必要となり、何度も骨に針を刺すことになります。
そこで、この場合は全身麻酔下に行うことになるわけです。
病院では、こうした検査や治療は血液内科が担当するのが一般的です。
・交感神経の受容体とそれに作用する薬剤について、改めて知識を整理しておこう!
・骨髄穿刺の部位に関して教科書的な知識を復習しておこう!
(参考)
・「血液内科クリニカルスタンダード 第3版」文光堂
山本健人 やまもと・たけひと
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医師。専門は消化器外科。平成22年京都大学医学部卒業後、複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程。個人で執筆、運営する医療情報ブログ「外科医の視点」で役立つ医療情報を日々発信中。資格は外科専門医、消化器外科専門医、消化器病専門医、がん治療認定医 など。
「外科医けいゆう」のペンネームで、TwitterやInstagram、Facebookを通して様々な活動を行い、読者から寄せられる疑問に日々答えている。
※2019/03/04 図表の一部記載を修正しました。
図表作成/渡部伸子(rocketdesign)
編集/坂本綾子(看護roo!編集部)
●今回のドラマ「神酒クリニックで乾杯を」(BSテレ東)
[TVer][ネットもテレ東]では、最新話を無料で視聴できます。
©テレビ東京
◯土曜よる9時放送
◯原作:知念実希人(医師・作家)
◯主演:三浦貴大、安藤政信
◯キャスト:山下美月(乃木坂46)、松本まりか、栁俊太郎、板垣李光人、臼田あさ美、竹中直人、他
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