「神酒クリニックで乾杯を」で腹部血管解剖を学ぶ|けいゆう先生の医療ドラマ解説【9】
執筆:山本健人
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医療ドラマを題材に、看護師向けに医学的知識を紹介するこのコーナー。
今回は、現在BSテレ東で放送中の「神酒クリニックで乾杯を」を取り上げます。
(以下、ネタバレもありますのでご注意ください)
けいゆう先生の医療ドラマ解説
Vol.9 「神酒クリニックで乾杯を」で腹部血管解剖を学ぶ!
主演で外科医役の三浦貴大さん。
「神酒クリニックで乾杯を」 は、優秀な医師らが医学的知識を利用しながら、周囲で起こるさまざまな事件の謎に迫る、というミステリータッチのドラマです。
舞台となる「神酒クリニック」では、腕は一流でありながら一風変わった医師が、世間に知られることなくVIPの治療を行っています。
第1話で登場した患者は、何者かに命を狙われた国交相の椿山大臣(小林幸子)でした。
椿山大臣の病状は、銃で腹部を打たれたことによる腹腔内出血だったのです。
外科医役の安藤政信さん(左)と、今回患者となる椿山大臣を演じる小林幸子さん(右)。
ドラマのあらすじ
椿山大臣は、カジノ計画を推進する活動の真っ最中であり、自らが受傷したことが世間に知られると活動に支障をきたす、との考えから、神酒クリニックで秘密裏に治療を受けることになります。
搬送された椿山大臣は、左下腹部を銃で撃たれ、腹腔内に大量出血していました。
ここで、訳あって神酒クリニックに赴任した主人公の外科医、九十九勝己(三浦貴大)と、院長である外科医の神酒章一郎(安藤政信)が治療に当たることになりました。
この手術を振り返るとともに、腹腔内の血管解剖について復習しておきましょう。
物語の舞台、神酒クリニックは表向きはバーという設定。
腹腔内出血への対応
手術室に搬送された椿山大臣に対し、全身麻酔下に開腹手術が開始されます。
開腹すると腹腔内に大量出血が起きており、神酒は止血に難渋しますが、大動脈クランプ(遮断)によってひとまず止血が得られます。
その後、出血源が左腎動脈にあることが分かり、これを修復する、という手術の流れでしたね。
大動脈クランプの目的は止血と出血源検索のための一時しのぎです。
以下の図を見てください。
大動脈を遮断すると、それより足側に血流が途絶えます。
これにより、出血は止まることが予想される反面、重要な臓器への血流も途絶えることになります。
たとえば、小腸、大腸を栄養する血管の幹となるのは、腹部大動脈から分岐する上腸間膜動脈や下腸間膜動脈です。
また、両下肢を栄養するのは、大動脈が尾側で直接分かれた総腸骨動脈から分岐する外腸骨動脈、膀胱や子宮、直腸の一部など、主に骨盤内臓器を栄養するのは内腸骨動脈です。
大動脈の遮断部位によっては、これらの臓器への血流が長時間失われることで、回復不能な臓器障害が起こり始めます。
今回、大動脈クランプを行った九十九に対し、神酒が「ここからは時間との勝負だな」と言いましたね。
このセリフは、「長時間の遮断は許されないため、急いで出血源を探さなくてはならない」ということを意味しているわけです。
結果的に神酒は、大動脈遮断によって出血が軽度になっている隙に左腎動脈の損傷を発見しました。
この後、左腎動脈をペアンを使ってクランプし、大動脈のクランプを解除。
これによって、左腎動脈損傷部位からの出血を止めた上で、それ以外の臓器には血流が再開したことになります。
あとは、動脈損傷部位を修復すれば治療は完了する、という流れです。
外傷性腎損傷について
今回、椿山大臣の外傷は「銃創」でした。
銃創ではこのように、腎動脈のような比較的細い動脈がピンポイントで損傷する、ということが起こっても不思議ではないと思います。
しかし、銃創がまれな日本においては、鈍的外傷による広範囲の臓器損傷の一部として腎動脈のような血管損傷が見られるのが一般的でしょう。
鋭的外傷では、刃物などの鋭器が通過した狭い範囲に損傷が生じる傾向がある一方、交通事故や転落などでの鈍的外傷では、周囲の広い範囲に複数の臓器損傷が及ぶのが一般的です。
今回のような部位であれば、腎実質や、脾臓、下行結腸など、周囲の臓器損傷がないかどうか、慎重な検索も必要となるわけです。
余談ですが、わが国での外傷性腎損傷の受傷原因の最多は交通外傷(29~75%)で、次いで転倒・転落(11〜53 %)、スポーツ外傷(3〜30 %)、暴力(4〜15 %)と続きます。
発生頻度は、10 万人年あたり2.06件と推定され、男性が72%を占めます。
青少年のスポーツ由来の腎外傷は、サッカーやバスケットボールのようなコンタクトスポーツよりも、スキーやサイクリング、乗馬などがハイリスク、とされています。
・腹部大動脈から分岐する動脈の種類と、栄養する臓器を再確認しておこう!
・鈍的外傷では、受傷機転の確認と、受傷臓器の検索が大切。
(参考)
腎外傷診療ガイドライン(日本泌尿器科学会)
外傷専門診療ガイドライン JETEC(日本外傷学会/へるす出版)
山本健人 やまもと・たけひと
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医師。専門は消化器外科。平成22年京都大学医学部卒業後、複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程。個人で執筆、運営する医療情報ブログ「外科医の視点」で役立つ医療情報を日々発信中。資格は外科専門医、消化器外科専門医、消化器病専門医、がん治療認定医 など。
「外科医けいゆう」のペンネームで、TwitterやInstagram、Facebookを通して様々な活動を行い、読者から寄せられる疑問に日々答えている。
illustration/宗本真里奈、渡部伸子(rocketdesign)
編集/坂本綾子(看護roo!編集部)
●今回のドラマ「神酒クリニックで乾杯を」(BSテレ東)
[TVer][ネットもテレ東]では、最新話を無料で視聴できます。
©テレビ東京
◯土曜よる9時放送
◯原作:知念実希人(医師・作家)
◯主演:三浦貴大、安藤政信
◯キャスト:山下美月(乃木坂46)、松本まりか、栁俊太郎、板垣李光人、臼田あさ美、竹中直人、他
※訂正とお詫び
2019/2/13の記事公開時、1枚目の図に誤りがありました。
2019/2/14、9:45に正しい表記に修正し、記事を更新いたしました。
訂正してお詫び申し上げます。
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