肝疾患と皮膚|全身性疾患と皮膚⑦
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は肝疾患と皮膚について解説します。
秦 まき
沼津市立病院皮膚科
肝疾患と皮膚
肝臓はビリルビン、胆汁酸、脂質、血清蛋白、ホルモンなど多くの体内物質の合成、代謝を担う臓器である。肝臓の機能が低下すると、肝臓で代謝されるさまざまな物質が過剰、あるいは不足となり皮膚に症状が出現する。
また、肝炎ウイルスは宿主の免疫応答や肝炎ウイルスの肝細胞以外への感染を介し、血管炎を含む多彩な肝外症状を引き起こす1)(表1)。
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肝疾患に伴う皮膚病変
黄疸、皮膚瘙痒症、色素沈着、血管性病変
ビリルビンの上昇による黄疸や胆汁酸による皮膚の瘙痒感がみられる。肝不全になると表皮基底層のメラニンが増加、真皮内に胆汁色素が沈着して色素沈着をきたす。また女性ホルモンの分解遅延のため、血管が拡張し、くも状血管腫、手掌紅斑、女性化乳房を生じる。
ヘモクロマトーシス
過剰な鉄が、フェリチンやヘモジデリンの形で全身の組織に沈着する疾患である。肝硬変、糖尿病、色素沈着を三徴とし、心疾患を合併することがある。表皮基底層のメラニンの増加、および真皮の汗腺周囲に鉄の沈着を認める。
ポルフィリン症
ポルフィリン症は、ヘム合成系に関与する酵素の何らかの異常により、中間代謝産物であるポルフィリン体が皮膚、肝臓などの臓器に沈着して症状を起こす。
晩発性皮膚ポルフィリン症は中年以降に発症し、ポルフィリンの沈着部位が日光に曝露されると紅斑、水疱、びらん、痂皮を生じる。発症要因としてアルコール、女性ホルモン、肝炎ウイルスなどの影響が考えられている。
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肝炎ウイルス感染症の関与が考えられている皮膚疾患
扁平苔癬
角化異常を伴う慢性炎症性疾患で、口唇、口腔粘膜、指趾関節屈側、陰部などに紫紅色の多角形~類円形の光沢ある扁平丘疹を生じる。
クリオグロブリン血症
肝炎ウイルスは免疫複合体が関連する小型血管炎の原因として知られており、クリオグロブリン血症や結節性多発動脈炎との関連性が示唆されている2)。
ジアノッティ(Gianotti)病3)
四肢、顔面の瘙痒感のない紅色丘疹、急性非黄疸性肝炎、表在リンパ節腫脹を主徴とする乳幼児の疾患で、B型肝炎ウイルスの初感染による。B型肝炎ウイルス以外にもEBウイルス、サイトメガロウイルスなどさまざまなウイルス感染に伴って発症することから、現在ではジアノッティ・クロスティ(Gianotti-Crosti)症候群と総称されることが一般的である。
必要に応じて原因ウイルスの検索を行う。
一般に予後は良好で、皮膚病変は1~2ヵ月のうちに消退する。
慢性蕁麻疹
A、B型肝炎ウイルス感染症では、急性期に他の症状に先行して一過性に認められる。C型肝炎ウイルス感染症では慢性蕁麻疹の形をとりやすい。
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引用・参考文献
1)西田直生志:肝炎ウイルス関連性血管炎.医学のあゆみ 246:127-130、2013
2)南 康範ほか:Vasculitis associated with probable etiology Vasculitis Related to HBV or HCV.最新医学 68:259-263,2013
3)安元慎一郎:Gianotti 病 Gianotti 症候群.Derma 93:123-126,2004
本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂