魚鱗癬|角化症①
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は魚鱗癬(ぎょりんせん)について解説します。
高橋健造
琉球大学大学院医学研究科皮膚病態制御学講座
Minimum Essentials
1多くは遺伝子異常を背景とする先天的な疾患で、皮膚の表面の潤いを保つことができず、四肢から全身の皮膚がざらざらに乾燥し落屑する。
2いくつかの臨床型に分類され、皮膚の乾燥や角層の肥厚の激しさは大きく異なる。一般に寒い地域や冬季で悪化し、夏季に軽快する。
3患者の体質に合った保湿薬を見つけることに加え、エトレチナート(チガソン®)の内服や活性型ビタミンD3外用、紫外線療法などを病型に合わせて選択する。
4多くは成長とともに軽快するが、遺伝性疾患であり、完治することはない。季節や成長に合わせた保湿・外用を続ける。
魚鱗癬とは
定義・概念
魚鱗癬は遺伝的背景を基礎として、皮膚を正常に構成し代謝することができずバリア機能が破綻し、皮膚の潤いがなくなり、乾燥し角化と落屑をきたす疾患である。
一見「魚のうろこ」を思わせる病変を呈することからこの名前がついた。
出生直後〜幼児期に発症し、遺伝形式、臨床像、病理学的および生化学的な表皮細胞の動態により多数の病型に分類される。まれではあるが、中高齢者に尋常性魚鱗癬の症状を呈する後天性魚鱗癬も存在する。
原因・病態
原因遺伝子により、尋常性魚鱗癬、X連鎖性劣性魚鱗癬(伴性遺伝性魚鱗癬)、まれな葉状魚鱗癬、道化師様魚鱗癬、ケラチン症性魚鱗癬に加え、多様な魚鱗癬様症候群が存在する。
本稿ではおもに、わが国でも頻繁にみられる軽症型の尋常性魚鱗癬と伴性遺伝性魚鱗癬について説明する。
重症例の先天性魚鱗癬はまれであるが、出生時より皮膚症状が激しく、時に致死的である。早急に皮膚科専門医のいる病院施設への紹介が必要である。
尋常性魚鱗癬(図1)
もっとも頻繁にみられる魚鱗癬である。
これまで200〜250人に1人の割合で発症するとされてきたが、近年原因遺伝子であるフィラグリン遺伝子が同定されて以来、ごく軽症の者も含めると人口中の数%に存在することがわかった。
フィラグリン蛋白の発現が低下することで、皮膚の保湿能力が低下し、皮膚が乾燥する。
伴性遺伝性魚鱗癬(図2)
女子の保因者を通して男子に遺伝し、男児2,000〜9,500人に1人の割合で発症する。
X染色体のステロイドサルファターゼ遺伝子の欠損や変異により、角層内に硫酸コレステロールが蓄積し角層の剝離が遅延するのが原因である。
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診断へのアプローチ
臨床症状・臨床所見
出生時〜乳児期にかけて著明となる皮膚の乾燥、がさがさと落屑する臨床所見より魚鱗癬を疑う。
病型については皮疹の分布、性別、家族歴より、おおよその見当はつけられる。尋常性か伴性遺伝性かの鑑別は、四肢の伸側、屈側のどちらの乾燥症状が強いかにより鑑別可能である。
付着する鱗屑は伴性遺伝性魚鱗癬においてより大きくなる。
出生時の皮膚症状、毛髪、爪や歯の異常、掌蹠の角化、成長障害、免疫異常、アレルギー症状の有無により、重症な葉状魚鱗癬や魚鱗癬様症候群を鑑別する。
尋常性魚鱗癬
四肢伸側(とくに下腿の前面)や背部の皮膚の乾燥および落屑が特徴である。
アトピー性皮膚炎の好発部位である四肢屈側や腋窩、頸部などには症状を欠くが、顔面は乾燥する。
寒冷な地域の冬季に悪化し、夏期には軽快する。深い掌紋が特徴である。
軽微例は、通常の乾燥肌として見過ごされることが多い。生後6ヵ月以降に発症し、10歳過ぎまで進行するが、20〜30歳を過ぎた頃には軽快する。
尋常性魚鱗癬はアトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎、喘息を含むアレルギー疾患を頻繁に合併し、毛孔一致性の角化症(毛孔性苔癬)の併発もしばしば観察される。
アトピー性皮膚炎の症状が激しい患者では、魚鱗癬の存在が見過ごされていることがある。
伴性遺伝性魚鱗癬
出生直後より表皮の剝離や落屑が目立ち、症状は尋常性魚鱗癬よりも強い。四肢の屈側を含めた体全体が乾燥するが、顔面や手掌、足底は症状に乏しい。毛孔性角化やアトピー様の症状はない。
しばしばX染色体上の他の遺伝子の欠損も伴うため、精神発達遅滞や性腺発育不全あるいは精巣腫瘍を合併することがある。
検査
一般検査で魚鱗癬を診断することはできない。血中ステロイドサルファターゼの測定も、一般検査としては不可能である。
病理組織検査では、尋常性魚鱗癬では不全角化(錯角化)を伴わない角層の肥厚と、顆粒層の消失が特徴である。
一方、伴性遺伝性魚鱗癬では顆粒層は残存し、軽度肥厚し厚い角層が固着する。染色体FISH法により、比較的大きな領域の遺伝子欠損は検出可能であるが、塩基変異による症例では検出不可能である。
全身に広がった白癬も鑑別が必要である。後天性魚鱗癬では、血液腫瘍、リンパ腫などの基礎疾患の存在を検索することが重要である。
蛍光in situハイブリダイゼーション(fluorescence in situ hybridization)法の略である。蛍光物質で標識した長さの短い核酸(DNAまたはRNA)プローブを、目的とするサンプルの核酸に接合させる手法である。染色体異常の検出などで用いられる。
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治療ならびに看護の役割
治療
おもな治療法(外用療法)
軽症の魚鱗癬では、全身の乾燥や粗造化を防ぐため、保湿効果のある外用薬を入浴後や起床後に規則的に外用する。
合併症とその治療法
より重症な魚鱗癬や魚鱗癬症候群においては、ビタミンA酸の誘導体であるエトレチナート(チガソン®)の内服や、熱傷に準じた創傷処置、全身の管理が必要となる。治療経験のある基盤病院へすみやかに紹介する必要がある。
治療経過・期間の見通しと予後
先天性魚鱗癬は遺伝子異常により引き起こされる角化異常症であり、根本的治療は今のところ望めない。
看護の役割
治療における看護
遺伝子異常が原因であり、現在のところ根治させる方法はないが、外用やスキンケアにより満足いく結果が得られることが多い。
冬季の乾燥に注意し、自分に合った保湿薬を選び使用を習慣づけるように指導する。多くは年齢とともに軽快することを説明し励ます。
最近では医薬部外品でも魚鱗癬や乾燥肌に適した保湿薬が数多く市販されており、価格と相談のうえでそれらを試用することも悪くはない。
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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂