掌蹠角化症|角化症②

『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は掌蹠(しょうせき)角化症について解説します。

 

高橋健造
琉球大学大学院医学研究科皮膚病態制御学講座

 

 

Minimum Essentials

1遺伝子異常により、掌蹠の皮膚が過剰に厚く角化を生じる疾患である。原因遺伝子の多くは判明しているが、なぜ掌蹠だけが角化するのかは不明である。

2いくつかの臨床型に分類され、手掌や足蹠(そくせき)にびまん性あるいは点状に生じる角質の増殖、表皮の肥厚を特徴とする。掌蹠の多汗症を合併することが多い。

3軽症例では角質融解作用のある外用薬や活性型ビタミンD3製剤を使用し、重症例ではエトレチナート(チガソン®)の内服など病型に合わせて選択する。多汗症への治療が主体となることもある。

4遺伝性疾患であり、完治することはない。季節や成長に合わせた外用を続ける。

 

掌蹠角化症とは

定義・概念

掌蹠角化症とは手掌(手のひら)・手指や足蹠(足の裏)の皮膚、特に角層が、びまん性、斑状、線状あるいは点状に厚くなる疾患である。

 

態別には掌蹠の症状のみを呈するものと、他の皮膚症状や全身症状を伴う症候性のものがあり、また発生別には出生時や乳児期に発症する先天性・遺伝性のものと、中年期以降に発症する後天性のものがある。

いずれの掌蹠角化症にも多種の病型が含まれる。

 

原因・病態

本邦でみられる掌蹠角化症の原因として、SERPINB7(長島型)、ケラチン9(フェルナー型)、デスモグレイン1デスモプラキン(線状型)、ケラチン6c(胼胝型)の遺伝子異常があげられる。

 

また、症候性の掌蹠角化症としてロリクリンコネクシン26(指端断節型)、カテプシンC〔パピヨン・ルフェーブル(Papillon-Lefevre)症候群〕、TRPV3(Olmsted型)、K6aK6bK16K17(先天性厚硬爪甲症)などの多様な遺伝子変異により発症する。

 

しかし、なぜ掌蹠の表皮だけが過角化するのかは不明である。

 

 

目次に戻る

診断へのアプローチ

臨床症状・臨床所見

多岐にわたる病型の鑑別に至る決め手として、

①遺伝性か非遺伝性か

②角化の形態が、びまん性、線状、点状、円状、鶏眼状のいずれである

③角化の分布が掌蹠縁を越えて手背や足背に進展するのか、掌蹠の皮膚にのみ限局する(図1)のか

④症候性か非症候性か(毛髪や爪甲、を含めた全身の皮膚や皮膚以外の所見の有無)

⑤掌蹠の多汗症の有無

などの情報が有用である。

 

図1 掌蹠角化症(フェルナー型)

足底の臨床像。紅斑局面を伴う角質の増殖が顕著である。

掌蹠角化症(フェルナー型)

 

本邦でもっとも頻繁にみられるのは長島型の掌蹠角化症である。常染色体性優性遺伝で、乳児期に発症し手掌、足蹠のびまん性の潮紅を伴う角質増生を呈し、角化局面が手背、足背にまで及ぶ(図2)。入浴時の掌蹠の浸軟が特徴であり、多汗症を併発する。

 

図2 掌蹠角化症(長島型)

足底、荷重部に強い潮紅と角化および浸軟がみられる。

 

掌蹠角化症(長島型)

 

検査

先天性掌蹠角化症に特異的な臨床化学、血液検査上の所見はない。特徴的な掌蹠の肥厚局面より、先天性掌蹠角化症の診断は容易である。家族歴と皮疹の分布、生検組織像が鑑別診断および分類の決め手となる。

 

 

目次に戻る

治療ならびに看護の役割

治療

おもな治療法

日常生活でのスキンケアの指導が中心となる。

運動や歩行時に疼痛をきたすほどの過度の角質肥厚は、ハサミやメス、50%サリチル酸製剤(スピール膏TM M)などで機械的に除去するのも効果的である。鶏眼治療用の簡易グラインダーは、小児でも安全に使えて便利である。

 

軽症例では外用剤のみで満足いく治療効果が得られることもある。いずれの年代の患者にも使えるものとしては、5~20%のサリチル酸ワセリン、10~20%の尿素軟膏(ウレパール®、パスタロン®、ケラチナミン®)などの角質溶解作用のある製剤の単純塗布や夜間の密封療法がある。また発赤などの炎症症状の強いときには、ステロイド外用剤との併用が有効である。

 

同じ型の掌蹠角化症であっても患者によって、あるいは同じ患者でも年齢や季節の変化によって相性の良い外用薬は変化する。日常診療において上記の外用薬やそれらの混合剤を左右に塗り分けるなどして、本人がもっとも納得のいく効果の得られるものを選んで使用する。

 

その他の特殊治療

外用療法で十分な満足を得られない場合、内服薬の使用を考慮する。

エトレチナート(チガソン®)の内服は、いずれの型の掌蹠角化症においても有効例が報告されている。成人で20~30 mg/日以下の維持量で満足が得られることが多い。

 

エトレチナートは掌蹠角化症の根本治療薬ではなく、一過性に掌蹠の角化を抑制する効果しかないことを、医師と患者の双方が十分に認識したうえで使用する。一般に知られているエトレチナートの副作用のほか、小児や若年者において骨端の早期閉鎖や仮骨形成などの発育成長障害をきたしうるので、慎重に症例を選ぶ必要がある。

 

合併症とその治療法

一般に先天性掌蹠角化症は掌蹠の多汗症を伴い、患者の手のひら・足底は常に浸軟しがちで、時ににおいを伴う。皮膚が厚くなっていることよりも、この多汗と悪臭が患者にとっては大きな愁訴であることがある。このような場合、20%塩化アルミニウム水溶液や2%ホルマリンエタノール液を、毎朝塗布あるいはイオントフォレーシスすることで満足を得られることも多い。

 

治療経過、期間の見通しと予後

先天性掌蹠角化症も、遺伝性疾患であり完治することはない。

季節や患者の成長に合わせて外用薬を選択し、合併する多汗症や表皮の亀裂などに対処を続ける。

 

看護の役割

治療における看護

生涯にわたる遺伝性の疾患であり、根気良くこまめに外用療法を続ける。足底に亀裂を生じやすいので清潔と保湿を心がけ、二次感染を予防するためにも外用剤を塗布するように指導する。

 

少なくとも学童期以降には症状は固定し、年齢とともに症状が軽減することもある。同じ家族内に発症した親子例であっても、皮膚症状の重症度には大きな差がありうる。

 

これらの点を踏まえつつ、患者が必要以上に深刻にならずに、その時点で最適な治療を根気良く続けられるように説明・指導する。治療介入の効果が乏しく、患者の持続的治療や通院へのモチベーションが低下しがちであるため、寄り添い励ましていくことが大切である。

 

 

目次に戻る


 

本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

> Amazonで見る   > 楽天で見る

 

 

[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂

SNSシェア

看護ケアトップへ