マイナートラブル

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回はマイナートラブルについて解説します。

 

立岡弓子
滋賀医科大学医学部看護学科教授

 

 

妊娠期のマイナートラブル

マイナートラブルとは、妊娠によるエストロゲンプロゲステロンなどのホルモンの変化、子宮の増大、体重増加によって生じる不快症状であり、医学的な管理において問題が少ないものをいう。

 

マイナートラブルによる症状は日常生活の改善で軽減できるものがほとんどであるため、助産師による保健指導は重要である。

 

マイナートラブルの例

頭痛・頭重感、めまい、立ちくらみ、胸やけ、腰痛、手のしびれ、こむら返り、便秘、痔核、尿漏れ、浮腫、静脈瘤、鼻血、皮膚の痒感、発汗など

 

 

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静脈瘤・痔核

症状

静脈の血液が逆流して静脈は太く腫(は)れる(図1図2)。ふくらはぎ、大腿の内側、膝の裏、腟や外陰部などに血管が青黒く浮き出てこぶのようになる。

 

図1 静脈瘤

 

図2 悪化した静脈瘤

妊娠期の静脈瘤をそのまま放置し、更年期に悪化した静脈瘤。ストッキングなどによる圧迫療法や静脈内に硬化剤を注入する治療があるが、妊娠期に悪化しないように対処していくことが必要。

 

直腸静脈の一部が拡張した静脈瘤(りゅう)は痔核である(図3)。

 

図3 痔核

痔核
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原因

妊娠による循環血液量の増加に加え、妊娠子宮により静脈血流が障害されたことにより生じる。

 

予防および対処

①下半身の血流をよくするため、睡眠や休息時は下肢を高くして休む。
②痛みの強いときには、マタニティ用の弾性ストッキングの着用をする。
③長時間立ったままの姿勢をとらない。

 

 

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浮腫

症状

靴下のゴムの跡が消えにくい、今まではめていた指輪や履いていた靴がきつくなる、手や足を指先で押したときにくぼみが残るといった症状が現れる。

 

原因

身体の皮下組織や体内の細胞内に余分な水分がたまった状態を浮腫という。妊娠中は血液中の水分が増えるため、また、大きくなった子宮が腹部の太い静脈血管を圧迫するために、手足など末端に流れた静脈血液が心臓に戻りにくくなり、浮腫が起きる。

 

予防および対処

①静脈血流をよくするために、足を高くして休んだり、軽い運動をする。
②冷えからくる血流障害を予防するために、下半身を冷やさないようにする。足浴やアロママッサージや三陰交(さんいんこう)のお灸なども効果がある。
③身体を締めつけないゆったりした下着、靴下、服を着用する。
④体重を増やしすぎない。

 

 

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腰痛

腰痛には原因により2つの種類がある。椎間板ヘルニアなど腰椎(図4)が原因で起こるものと、骨盤が原因で起こるものである。

 

図4 腰椎の解剖図

腰椎の解剖図

 

妊娠に伴う腰痛は、骨盤が原因のものが多く、妊娠後期に訴える人が最も多い。骨盤は分娩三要素の1つであり、骨盤を整えることは胎児の通り道である産道を整えることにつながる。

 

症状

腰部、殿部から大腿部にかけて痛みがみられることが多い。

 

原因

①妊娠による子宮の増大に伴う姿勢の変化(腰椎の前弯が強くなる)。
リラキシンというホルモンの作用による腰椎や骨盤の支持性低下(仙腸関節や恥骨結合のずれ)。
③増大した子宮、胎児、子宮内容物による下腹部圧迫。

 

リラキシン

・ 胎盤の絨毛組織から分泌されるホルモンである。妊娠4週頃より分泌し始め、8~16週で最大となる。
・ 恥骨結合と左右の仙腸関節をゆるませ、分娩を促進するために分泌される。

坐骨神経痛

腰椎の円板がむくんだり、動いたりすることで、脊柱を離れる腰部の神経根が圧迫されるために起こる。神経根分布場所である大腿のうしろに激痛を起こすことが多い。

 

腰痛を悪化させる因子

・椎間板ヘルニアなど腰痛の既往歴
・肥満や妊娠中の過度な体重増加
・無理な日常生活動作や長時間の車の運転
・妊娠中の誤った姿勢や、妊娠中に適さない靴の着用
・就労の内容(長時間の同一体位や過労)

 

腰痛を軽減するケア

・妊娠中の姿勢に対するケアを行う。
・正しい座り方をする(正座・あぐら)。横座りやペタンコ座りは避ける。
・入浴やシャワーの実施。
・腰背部のマッサージや温罨法の実施。
・ベッドのマットレスは硬めのものを選ぶ。
・骨盤固定を行う(図5図6)。
・身体的・精神的リラックスをはかる。

 

図5 上前腸骨棘、大転子の探し方

上前腸骨棘、大転子の探し方

 

図6 骨盤輪周囲の固定

骨盤輪周囲の固定

 

腰痛体操

効果
骨盤のゆるみからくる腰痛の改善に効果がある。

 

方法

1心地よい程度に、骨盤輪を固定する(あればゴムチューブで)。

2足を肩幅よりやや広めに広げて立つ。

3まっすぐ前を向いて、肩を床と平行に保ち、腰をクルクル回す(図7)。

 

図7 腰痛体操

腰痛体操

4右回りと左回り、どちらからでもよいが、痛みがなく、回しやすいほうから始める。

5自分の年の数だけ回したら、反対側に回す。

6上体も一緒に回ってしまうようであれば、壁やテーブルに手をついて行うとよい。

 

注意点
・自分が心地よいと感じる範囲内で腰を回し、痛みを我慢してまで行ってはいけない。
・左右回し、どちらかに痛みがある場合は、痛みがないほうを重点的に行う。
・腰の前後の動きよりも、左右に腰を出して回すことを意識する。

 

 

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尿漏れ

原因

膀胱に約100~150mLの尿が貯留すると尿意が出現する。膀胱内圧が20cmH2Oを超えると(膀胱内尿量は300~400mL)膀胱は収縮、尿道や骨盤底筋群の弛緩をきたし、排尿が起こる。

 

妊娠末期になると、増大した子宮や胎児、胎盤、羊水によって4~5kg程度の負荷が骨盤底にかかる(図8)。妊娠により絨毛組織から分泌されるリラキシンが靭帯をゆるめることによって、これらを支えきれず下垂してしまうことがある。すると、膀胱は下へ押され、くしゃみ、重いものを持ったときなどに腹圧がかかり、不随意に尿が漏れてしまう。

 

図8 尿漏れの原因

尿漏れの原因

 

予防および対処

骨盤高位の姿勢
固定方法は仰臥位で骨盤高位をとり、下垂した内臓を一時的に引き上げ、骨盤輪をさらしなどで固定し骨盤のゆるみを整える。

 

骨盤底筋体操
膀胱や尿道が骨盤内の定位置に保持できるように、骨盤底筋群(図9)の運動(キーゲル体操)を行い、骨盤底筋群を鍛える。

 

図9 骨盤底筋群

骨盤底筋群

 

尿漏れパッドの使用
尿漏れに加え、妊娠中は腟分泌物が増量するため、陰部の清潔保持が難しい。そのため、尿漏れパッドの使用は必須である。尿漏れパッドも大きさや素材などは、さまざまである。

 

尿漏れパッド使用時の注意点

・ 清潔保持のため、こまめに交換する。
・ かぶれたときは、速やかに素材を変更する。ひどくなったときは、産婦人科を受診する。

 

体重のコントロールを行う
体重の急激な増加によって、骨盤への負担が増して、膀胱への圧迫が増大する。したがって、妊娠期間を通じて適度な体重増加に心がける。

 

骨盤底筋体操(キーゲル体操)

膀胱や尿道を骨盤内の定位置に保持し、尿漏れを予防するために行う。

 

仰臥位(図10

①仰臥位になり、両腕は体幹に沿って置き、両手は手掌を床にしっかりとつける。
②両足は少し平行に開いて、足の裏はできるかぎり殿部に引き寄せる。
③息を吸いながら、殿部の筋肉を収縮させ、腰を持ち上げる。
④持ち上げたところで肛門を閉めて、その姿勢を保持する。
⑤息を吐きながらゆっくりと腰を下ろす。
この動作を2、3回繰り返す。

 

図10 仰臥位での骨盤底筋体操

仰臥位での骨盤底筋体操

 

座位(図11

①椅子に座り、床に足をつけて、肩幅まで開く。
②背中をまっすぐに伸ばし、顔を上げて前をみる。
③肩部と腹部の力を抜いて、肛門と腟の筋肉を収縮させ、そのままの姿勢を3~5秒間保つ。
④ゆっくりとゆるめて3~5秒間休む。
この動作を10回で1セットとする。

 

図11 座位での骨盤底筋体操

座位での骨盤底筋体操

 

机を使った立位(図12

①足は肩幅に開き、机に手を置く。
②上半身の体重を両腕にかけ、背中はまっすぐに伸ばし、顔を上げる。
③肩部と腹部の力を抜いて、肛門と腟の筋肉を収縮させる。そのままの姿勢を3~5秒間保つ。
④ゆっくりとゆるめて、3~5秒間休む。
この動作を10回で1セットとする。

 

図12 立位での骨盤底筋体操

立位での骨盤底筋体操

 

日常生活の過ごし方

便秘予防
便秘になると、直腸が膀胱を圧迫し、尿漏れの原因となるため、予防が必要である。

 

水分摂取を心がける
水分不足になると、濃縮尿となって、膀胱を刺激し、尿意を起こす。また、便秘や膀胱炎などの原因にもなるため、こまめな水分摂取を心がける必要がある。

 

適度な体重増加を保持する
腹部の脂肪が増加すると、膀胱が圧迫され、頻尿や尿漏れの原因となる。また、骨盤底筋群のゆるみの原因にもなり得る。

 

リラックスを心がける
心身の緊張が尿漏れの原因となるため、リラックスを心がけることが大切である。

 

 

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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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