心不全の検査
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『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は心不全の検査について解説します。
中嶋ひとみ
集中ケア認定看護師
新東京病院看護部
〈目次〉
どんな検査をして診断する?
心不全では、患者さんの心臓がどのような形をして、どのように機能しているかを調べます。
検査時の状態と前回の状態を比較し、心臓のどの部分が悪化しているかを評価します。
継続して検査を行い、患者さんの経過をみて、退院に向けてリハビリテーション、薬剤調整、生活指導につなげます。
血液検査
血液検査では、脳性ナトリウム利尿ペプチドなどを調べます(表1)。
感染症が疑われる場合は、血液検査(白血球、CRP)、尿検査、培養検査(血液、尿、痰)を行います。感冒症状に引き続き心不全が発症した場合は心筋炎を疑うため、ウイルス抗体検査も行います。
※1 BNPのめやす
・40pg/mL以上:要観察
・100pg/mL以上:心不全の治療の可能性がある
・200pg/mL以上:心不全の可能性あり、専門医の治療が必要
胸部X線検査
心不全では心拡大を伴うことが多く、心胸比(CTR)で評価します(表2)。
そのほかに心不全で重要な所見は、肺うっ血、肺水腫、胸水です。
心エコー・ドプラ法検査
心不全の診断・治療において、心エコー検査は最も重要です。急性期にベッドサイドですみやかに実施できる検査です。患者さんへの負担が少なく、迅速、経時的に計測・評価できます。
心エコー検査では、
①心機能評価
②血行動態(ポンプ機能)の異常の評価
③原因疾患の検索
を行うことができます。
心機能・構造評価
LVEF(左室駆出率)は左室収縮率を表し、心機能の指標として最も使用されます。
LVEF(%)は、以下の計算式で求められます。
LVEF(%)=1回拍出量(SV)÷左室拡張末期容積(LVEDV)
1回拍出量(SV)は、「左室拡張末期容積-左室収縮末期容積(LVESV)」で求められます。大動脈弁閉鎖不全や僧帽弁閉鎖不全の1回拍出量(SV)には、有効な前方拍出量に加え、逆流量も含まれるため、LVEFは過大評価されます。
%FS(左室内短縮率)は、LVEFとともに左心機能評価の指標になります。
%FS=(LVDd[左室拡張末期経]-LVDs[左室収縮末期経])/LVDd×100(%)
心不全の経過、治療経過の評価にLVEF、%FS、LVDdがよく用いられます。
心室中隔壁厚/左室後壁厚が1.3以上を、非対称性(いびつな)中隔肥大(ASH)といいます。
LVEFによる分類
心不全の分類では、LVEFによるものも多用されています(表3)。
拡張機能の評価
拡張機能は、左心室に流れ込む血液の波形(左室流入血流速度波形)のパターンで評価します(表4)。拡張機能を評価することで心臓の拡張しやすさ(ふくらみやすさ)を評価します。心臓の硬さの指標になります。
※1 E波:拡張早期波
※2 A波:心房収縮期波
※3 DT:減速時間(deceleration time)
循環血液量の評価
下大静脈(IVC)径は、中心静脈圧、右心系をおおまかに推定でき、循環血液量の評価となります(表5)。
表5下大静脈径の基準値
壁運動の評価
左心室は、収縮期に心臓の壁を厚く(壁厚増加)して均等に内側へ向かって収縮運動(壁運動)を行います。この壁運動を見ることで、たこつぼ心筋症、心筋炎、虚血部位など心不全の原因検索もできます。
その他原因疾患の検索
心エコーでは画像診断、ドプラ機能を用いて虚血性心疾患、心臓弁膜症、高血圧性心疾患、心筋症、心内膜炎など心不全の原因の検索と重症度評価を行います。
また心エコーでは、弁尖または心膜に付着した可動性腫瘤、疣贅、弁周囲膿瘍、血栓をみつけることができます。
心不全の患者さんにとって、心エコー検査の姿勢は苦痛を伴う場合があります。検査中の患者さんの状況、バイタルサインの変化に注意が必要です。特に、仰臥位での検査時や呼吸困難の出現には注意しましょう
その他の検査
心電図検査
12誘導心電図のほかに、継続的にモニター心電図を装着し、不整脈や徐脈・頻脈の発生状況を確認します(表6)。
仰臥位での検査が困難な場合は、ファーラー位など患者さんに安楽な体位ですみやかに行います。
表6心不全の特徴的な心電図所見
心臓カテーテル検査
心臓カテーテル検査は侵襲的であり、合併症を伴うので、心不全症状が落ち着き、仰臥位での検査が可能になってから実施することが多いです。
冠動脈造影、左室造影、心内圧測定に加え、必要時、心筋生検を行います。
スワンガンツカテーテルを挿入し、右房圧(RAP)、肺動脈圧(PAP)、肺動脈楔入圧(PAWP)、心係数(CI)、心拍出量(CO)、混合静脈血酸素飽和度(SvO2)を測定します。
核医学検査
核医学検査は心エコー検査よりも客観性にすぐれています(表7)。
心肺運動負荷検査(cardiopulmonary exercise testing;CPX)
最大酸素摂取量(peak oxygen uptake:peak VO2)が有用とされています。
エルゴメーターまたはトレッドミルを用いて測定します。
検査結果をもとに心臓リハビリテーションが処方されます。
検査結果は異常の有無だけでなく、前回の結果(入院前の結果含む)と比較します。検査結果の経過、患者さんの状態から「患者さんにとってベストの状態(退院できる状態)」がどこなのかを検討しながら治療を行います。患者さんのバイタルサインの変化・体重・尿量などの経過と検査結果の変化をみることも重要です
文献
- 1)Yancy CW, Jessup M, Bozkurt B, et al. 2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure:a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on practice guidelines. Circulation 2013;128:e240-e327.
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- 6)2013 ACCF/AHA Guideline for the Management of Heart Failure:Executive Summary.(2019.09.01アクセス)
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- 13)厚生労働省:第4回心血管疾患に係るワーキンググループ 資料2 心血管疾患の医療提供体制のイメージ.(2019.09.01アクセス)
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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社