平衡感覚に障害が起きるとどうなる?
『からだの正常・異常ガイドブック』より転載。
今回は平衡感覚障害について解説します。
山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長
平衡感覚に障害が起きるとどうなる?
平衡感覚をつかさどる2つの器官(平衡斑、三半規管)、得られた情報を伝える前庭神経、情報を統合して姿勢や手足の動きを調節する脳という一連のネットワークのどこかに障害が起こると、めまいが生じます。
例えば、疲労やストレスで三半規管に酸素や栄養を送っている血管が収縮すると、三半規管の働きが悪くなり、誤った情報が脳に送られる場合もあります。平衡斑のなかの耳石が何らかの原因で三半規管のなかに入り込み、めまいを起こすこともあります。また、何らかの原因で内耳のリンパが中耳に漏れ出すためにめまいが生じることもあります。
一方、前庭神経がウイルスによって高度に障害されることで、めまいが生じることもあります。また、脳梗塞、脳出血、一過性脳虚血発作、脳腫瘍などによって第8脳神経や脳幹の前庭核、小脳などが圧迫されたり、障害を受けることで、めまいが起こります。めまいを起こす代表的な内耳の疾患がメニエール病です。
めまいと自律神経症状の関係
めまいが起こると同時に、吐き気、嘔吐、顔面蒼白、冷や汗、動悸などの自律神経症状が現れることが多いのはなぜでしょう。これは、平衡感覚を脳に伝える前庭神経と自律神経が脳幹で近接しており、前庭神経の興奮が自律神経にまで伝わるためです。こうした反応を自律神経反射といいます。
自律神経症状を起こしやすいのは、メニエール病、前庭神経炎、脳梗塞、脳出血、脳腫瘍などです。ただし脳の疾患の場合は、自律神経症状だけでなく、意識障害、運動障害、視覚障害などの神経症状も同時に現れますので、耳の病気との鑑別診断は比較的容易です。
メモ1一過性脳虚血発作(TIM)
一時的に脳梗塞のような症状が現れ、数分から30分、長くても24時間以内に症状が消え、後には何の後遺症も残しません。本格的な脳梗塞の前触れであるケースが多く、3分の1はその後に脳梗塞を発症するといわれています。
メモ2メニエール病
突然、吐き気を伴う激しい回転性めまいが起き、耳鳴りや難聴も同時に生じます。蝸牛内の蝸牛管に満たされているリンパ(内リンパ)が過剰に増え、外リンパで満たされた前庭階との境の膜(ライスネル膜)を破ることで、2つの異なるリンパが混ざり合って症状を起こすと考えられています。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のためのからだの正常・異常ガイドブック』 (監修)山田幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版