手足口病【疾患解説編】|気をつけておきたい季節の疾患【8】

来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。

 

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手足口病

 

手足口病の症状_手足口病の主訴

 

辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長

 

〈目次〉

 

手足口病ってどんな疾患?

手足口病は主に小児に発症する疾患です。5歳以下の乳幼児が患者の90%を占めています。いわゆる「風邪」として扱われ、夏季に多く見られる疾患です。

 

手足口病は世界中で発症する疾患で、アウトブレーク(流行)を来す疾患でもあります。保育所、学校、病院、サマーキャンプなどの施設単位での流行が知られていますが、過去には市町村単位から国単位まで流行したという報告もあります。また、家族内の伝播も起こります。

 

手足口病の病原体

手足口病は1957年に初めて報告された疾患で、このときはコクサッキーA16が原因ウイルスでした。それ以降、さまざまなウイルスが手足口病を発症することが知られるようになりました。日本では、1967年ごろから存在が明らかにりました。

 

主に手足口病を発症する病原体は、コクサッキーウイルスA16とエンテロウイルスA71で、どちらもアウトブレーク(流行)の引き金となるウイルスです。ほかにもコクサッキーウイルスA2、A4~A10、B2、B3、B5、エンテロウイルスA71、エコーウイルス1、4、7、9も手足口病を発症するウイルスであることが知られています。
特に、太平洋に面したアジアではエンテロウイルスA71が多いとされています。

 

手足口病の感染経路

手足口病を発症するこれらのウイルスの感染経路は、飛沫感染、接触感染、糞口感染(便の中に排泄されたウイルスが口に入って感染すること)です。時に気道分泌物を介して、これらが経口的に腸管に侵入することで感染が成立します。潜伏期間は2日~7日ですが、多くは3日~5日の潜伏期間で発症します。

 

手足口病の症状

手足口病の主要な症状は口腔粘膜の発疹(粘膜疹)および皮膚の発疹(皮疹)です(図1)。粘膜疹は口腔全体、特に舌と頬粘膜に多く見られます。粘膜疹は赤色斑状疹として始まり、直径2~3mmの紅輪(halo)を伴う水疱となります。しかし、水疱はすぐに潰れて、その部に直径1~10mmの浅い潰瘍を作ります。

 

図1手足口病の症状

手足口病

 

手足口病の皮疹(写真左)と粘膜疹(写真右)

 

皮疹は通常、手(指の背側、指間、手掌)・足(足背、側面、かかと)・臀部・四肢に出現します。顔面や体幹に出現することもありますがまれです。
小児では、このような皮疹がよりはっきりと出現します。皮疹は斑状疹、丘疹、水疱疹を呈します。一人の患者でこの3種類の皮疹を呈することもあります。水疱は薄い上皮で覆われ、中には透明~混濁した液体があり、周囲に紅輪(halo)を伴います。いずれの皮疹も通常痛みはありません。この皮疹はおおむね3~4日で消褪してきます。

 

手足口病での前駆症状は通常ありません。発症すると口腔あるいは咽頭痛(乳児では食事をとらない、など)を伴います。発熱は高熱(38.5℃以上)となることは通常ありません

 

しかし、少数ですが手足口病で重症化する症例もあります。主に幼児に髄膜炎、小脳失調症や脳炎などの中枢神経系合併症が見られることもあります。また、四肢麻痺、心筋炎を来す症例もあります。さらに、痛みのため経口摂取ができず、脱水を来す症例も重症と考えて差し支えないでしょう。
アジア太平洋地域で報告されたエンテロウイルスA71による手足口病は37.5℃以上の発熱が3日以上続き、意識障害嘔吐を伴うもので、重症とされました。

 

手足口病の処置・治療法

手足口病の診断

通常、手足口病は軽症であることから、ウイルス学的検査は必要ありません。しかし、診断困難例、重症例、流行例にはウイルス分離同定(細胞培養)や核酸増幅法による検査が必要となります。

 

手足口病の鑑別疾患

手足口病の鑑別疾患には、粘膜疹はヘルパンギーナ、ヘルペスウイルスによる歯肉口内炎、アフタ性口内炎などが、皮疹は水痘の初期疹、ストロフルス、伝染性軟疣腫(水イボ)があります。 また皮疹や口腔粘膜疹を来すウイルス感染症も鑑別に上がります。

 

手足口病の治療

エンテロウイルス属に対する抗ウイルス薬はありません。手足口病の臨床経過は通常軽症で、7~10日で病状は完全に治癒します。このことから、手足口病の治療は症状に応じた治療(対症療法)となります。
しかし、対症療法であっても以下のような重症例は入院して治療を行う必要があります。

 

  • 37.5℃以上の発熱が続き、意識障害、嘔吐を伴う
  • 髄膜炎
  • 四肢麻痺
  • 心筋炎
  • 経口摂取ができず、脱水を来している症例(もしくは、来す可能性がある症例)

 

口腔粘膜病変は痛みを伴うために、小児では2日以上にわたって経口摂取ができないとき、入院し輸液を考慮します。また入院するしないにかかわらず、痛みの強い症例には非ステロイド系抗炎症薬やアセトアミノフェンを投与することもあります。

 

手足口病の予防

手足口病では糞便内のウイルスや口腔分泌物が経口的に腸管に侵入することで発症します。このため、手洗いが最も重要な予防策となります。おむつ処理も重要です。入院する場合は、ほかの患者に接触しないような管理と、対応する医療者は標準予防策が重要です。

 

手足口病は、感染症法で5類感染症定点把握疾患に定められており、全国の小児科定点より、毎週報告がされています。
また、手足口病は、学校保健安全法で第三種 感染症に指定されています。学校で流行が起こった場合にその流行を防ぐため、必要があれば、校長が学校医の意見を聞き、第三種の学校感染症としての措置を講じることができます。

 

 

ウイルス感染一般に共通していることですが、皮疹を見た場合には何らかのウイルス感染を考慮します。また、そういった患者に対応する医療従事者は、感染性を常に考慮して対応しましょう。

 

便や唾液が感染源となるため、標準予防策は徹底して行いましょう。手足口病はほとんどが軽症ですが、麻しん水痘など、感染性の強いウイルス疾患との区別を常に考えて対処するようにしましょう。

 


 


[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長

 

芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長

 


[Design]
高瀬羽衣子

 


 

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