小児の気管吸引時の注意点は? 

『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「小児の気管吸引」に関するQ&Aです。

 

三浦規雅
東京都立小児総合医療センターPICU主任

 

小児の気管吸引時の注意点は?

 

酸素血症をはじめとする合併症に注意するとともに、挿入長を遵守することが求められます。

 

〈目次〉

 

小児の気管吸引の合併症

気管吸引の合併症および注意を要する状態を表1に示す。

 

表1気管吸引の合併症

 

合併症 注意を要する状態
  • 低酸素血症
  • 低心機能・心不全
  • 気道過敏性の亢進・気管支けいれんの起こりやすい状態
  • 刺激により不整脈が起こりやすい状態
  • 刺激により病態悪化の可能性がある場合
  • 気管分泌物から重篤な病原菌が検出されている場合
  • 出血傾向、気管内出血
  • 頭蓋内圧亢進状態

 

低酸素血症の予防

小児は、生理学的・解剖学的特徴から、無呼吸に対する許容時間が成人と比べて短い。そのため、短時間の無呼吸でも容易に低酸素血症に陥る。

 

小児の低酸素血症に対する反応は、成人とは対照的である。徐脈、適切な介入がない場合は肺血管収縮、心拍出量低下から心停止に至る。

 

気管吸引による低酸素血症を防ぐため、気管吸引前にあらかじめ100%酸素による換気を行い(一部の先天性心疾患は除く)、十分な酸素化を行っておく。

 

1回の気管吸引にかける時間は、一般に推奨される15秒以内よりも短い10秒以内にとどめ、陰圧をかけている時間は数秒以内とする。

 

1過度な酸素化を避けるべき病態

一般的な小児の場合、十分な酸素化を図る必要があるが、先天性心疾患では、過度な酸素化を避けなければならない病態がある。

 

以下に示す病態では、気管吸引時の換気は、空気もしくは呼吸器設定よりも10%増した酸素で行う。

 

PDA(動脈管開存)依存性心疾患

過度の酸素化によるPDAの狭小化とそれに伴う体血流の減少(ductal shock/ダクタルショック:図1)をきたす。

 

図1ductal shock(大動脈縮窄複合)

 

チアノーゼ性心疾患

過度の酸素化による肺血管抵抗の低下に伴う肺血流の増加・体血流の減少(high flow shock/ハイフローショック:図2)をきたす。

 

図2high flow shock(三尖弁閉鎖BTシャント造設後)

 

肺胞虚脱・無気肺の予防

吸引カテーテルは、気管チューブ内径の1/2以下の外径のものを使用することが推奨されているが、小児では細い気管チューブを用いているため、必ず適応するとは限らない(表2)。そのため、気管チューブ内径に対して比較的太めの吸引カテーテルを用いることになり、気道内にかかる陰圧は高くなる。その結果、肺胞虚脱、無気肺の形成を招きやすい。

 

表2小児の気管チューブと吸引カテーテル

 

気管チューブ(mm) 吸引カテーテル(Fr
2.5 5
3.0~3.5 6
4.0~4.5 8
5.0~5.5 10
6.0~6.5 12
7.0~7.5 14
1Fr≒1/3mm

 

肺胞虚脱、無気肺を予防するために、閉鎖式吸引システムの使用が推奨される。

 

気管吸引後に、手動式換気による肺リクルートメントを行う場合もあるが、過剰な圧による肺損傷や循環障害のリスクもあり、ルーチン行為としては推奨しない。

 

気道粘膜損傷の予防

小児の気管粘膜は、細く脆弱・過敏であり、吸引カテーテルによる粘膜刺激によって気道粘膜のびらんや出血を生じる。繰り返される刺激は、肉芽を形成し、気道管理においてより深刻な問題を生じる。

 

小児の細い気道に生じた肉芽は、容易に気道を閉塞させるため、厳重な気管チューブの位置調整と、チューブ先端位置を維持するための体位調整と安静が求められる。

 

肉芽の位置によっては、気道の閉塞を防ぐために、より高い圧の人工呼吸器設定を要する。

 

気管吸引による気道粘膜損傷を予防するために、吸引カテーテルの先端は、気管チューブ先端よりも1cm以内を出すにとどめる。すでに損傷を生じている場合には、5mmもしくは気管チューブ内にとどめる(図3)。

 

図3小児における吸引カテーテルの挿入長

 

患者に応じた気管チューブサイズ、挿入長、吸引カテーテルサイズ、吸引カテーテル挿入長が把握しやすいように、一覧表をベッドサイドに掲示しておくなどの工夫をする(図4)。

 

図4小児患者の吸引に関する一覧表(国立成育医療研究センターで使用しているもの)

 

略語

 

  • PDA(patent ductus arteriosus):動脈管開存症

[文献]

  • (1)宮坂勝之訳・編:日本版PALSスタディガイド.エルゼビア・ジャパン,東京,2008:124-145/60-64.
  • (2)American Heart Association:PALSプロバイダーマニュアル AHAガイドライン2010準拠.シナジー,東京,2013:64.
  • (3)黒澤寛史:気管チューブによる気道確保.救急・集中治療2010;22:303-310.
  • (4)Lerman J,Coté CJ,Steward DJ著,宮坂勝之,山下正夫訳:小児麻酔マニュアル改訂第6版.克誠堂出版,東京,2012:82/26-27.
  • (5)椎間優子,宮坂勝之:マスク・バッグ換気.救急・集中治療2010;22:297-302.
  • (6)日本救急医療財団心肺蘇生法委員会監修:救急蘇生法の指針2010医療従事者用.へるす出版,東京,2012.
  • (7)多田昌弘:酸素療法.救急・集中治療2010;22:287-291.
  • (8)日本呼吸療法医学会:気管吸引ガイドライン2013(成人で人工気道を有する患者のための).人工呼吸2013;30:75-91.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社

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