小児にカフなし気管チューブを使うのは、なぜ?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「小児用気管チューブ」に関するQ&Aです。
三浦規雅
東京都立小児総合医療センターPICU主任
小児にカフなし気管チューブを使うのは、なぜ?
解剖学的・生理学的特徴から、カフなし気管チューブが用いられてきました。ただし、近年ではカフ付き気管チューブの安全性が示されています。
〈目次〉
小児用気管チューブ
小児用気管チューブにも、「カフなしタイプ」と「カフ付きタイプ」がある(図1)。
小児の気道の特徴
成人の気道の最狭部は声門部であるが、小児の気道の最狭部は輪状軟骨部である(図2)。
小児では、輪状軟骨部が生理学的カフとなり、カフを使用せずとも気管の密閉性が保てる。一方、成人の場合、最狭部である声帯は、開口部が三角形であるため気管の密閉性が保てないことから、カフ付き気管チューブを用いる必要がある。
輪状軟骨は非伸展性であるため、気管チューブによる気管粘膜への圧迫が浮腫や粘膜障害を生じさせ、抜管後の声門下狭窄を引き起こし、その結果、再挿管に至ることがある。
ただし、近年では、小児にカフ付き気管チューブを用いても、気道合併症の発生率は増加しないことが示されている(表1)。
小児の蘇生ガイドラインでは「小児や乳児の緊急気管挿管に用いられる気管チューブは、カフ付きでもカフなしでもよい」としている。
カフ付き気管チューブ使用時の注意点
カフ付き気管チューブを用いる場合、カフ圧は20cmH2Oで調節する。エアリークがわずかである場合、カフを膨らませないで管理することもある。
小児の気道は短く、体位により容易に気管チューブの深さが変化する。カフが膨らんだ状態での気管チューブの移動がもたらす声門損傷や気管壁損傷に留意する必要がある。
カフの長径や先端からの位置が製品によってまちまちであるため、カフが声帯にかからないことを、気管挿管時に目視で確認する必要がある。
[文献]
- (1)宮坂勝之訳・編:日本版PALSスタディガイド.エルゼビア・ジャパン,東京,2008:124-145/60-64.
- (2)American Heart Association:PALSプロバイダーマニュアル AHAガイドライン2010準拠.シナジー,東京,2013:64.
- (3)黒澤寛史:気管チューブによる気道確保.救急・集中治療2010;22:303-310.
- (4)Lerman J,Coté CJ,Steward DJ著,宮坂勝之,山下正夫訳:小児麻酔マニュアル改訂第6版.克誠堂出版,東京,2012:82/26-27.
- (5)椎間優子,宮坂勝之:マスク・バッグ換気.救急・集中治療2010;22:297-302.
- (6)日本救急医療財団心肺蘇生法委員会監修:救急蘇生法の指針2010医療従事者用.へるす出版,東京,2012.
- (7)多田昌弘:酸素療法.救急・集中治療2010;22:287-291.
- (8)日本呼吸療法医学会:気管吸引ガイドライン2013(成人で人工気道を有する患者のための).人工呼吸2013;30:75-91.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社