頭頸部手術後ドレナージ | ドレーン・カテーテル・チューブ管理

ドレーンカテーテル・チューブ管理完全ガイド』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は頭頸部手術後ドレナージについて説明します。

 

今野 渉
獨協医科大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学講師
平林秀樹
獨協医科大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学教授
春名眞一
獨協医科大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学主任教授
篠崎聡美
獨協医科大学病院看護部(新館5階病棟)看護主任

 

〈目次〉

 

《頭頸部手術後ドレナージについて》

 

主な適応
唾液腺手術」「喉頭全摘術」「耳下腺手術」「頸部リンパ節郭清術」「甲状腺手術」など
目的
血液や滲出液を排液し、「術後血腫」「死腔」など合併症を予防、早期発見する
合併症
血管損傷、出血、感染、神経損傷
抜去のめやす
排液量10mL/日以下がめやす。通常の頸部手術では、術後2~5日程度で抜去可能
観察ポイント
ドレナージのルート・固定・圧のほか、排液量・性状、挿入部の感染、皮膚トラブルなどを観察する
ケアのポイント
ドレーン固定 : 屈曲しないよう前開きの衣服で、離床時も引っ張られない位置に固定する
排液の観察 : 性状・量を観察し、合併症の予防・早期発見に努める

頭頸部手術後ドレナージ

 

頭頸部手術後ドレナージの定義

頭頸部は、腹腔や胸腔のような腔の構造ではなく、術後の血液や滲出液が貯まるスペースがないように思われがちだが、唾液腺手術・喉頭全摘術、下腺手術・頸部リンパ節郭清術・甲状腺手術といった頭頸部外科で行われる手術の術後においては、ドレーンは合併症の予防・早期発見するために重要である1

 

頭頸部手術におけるドレーンは、術式や手術部位により、刺入部や本数が症例ごとに変わる。ドレーンの目的を正しく理解し、臨機応変に観察やケアを行うことが求められる。

 

頭頸部手術後ドレナージの目的と適応

1術後血腫の予防

頭頸部の場合、腹腔や胸腔のようにスペースに余裕はないため、少量の出血が起こっても皮下や組織間隙に血腫が生じやすい。

 

手術では当然、十分な止血が行われるが、閉創後も微少な出血(oozing)はどうしても起こりうる。さらに、麻酔覚醒後の血圧上昇や体動により、それらの量は増加する。これらの血液を予防的ドレナージによって体外へ排出し、血腫の形成を防ぐことが必要である。

 

2死腔の予防

腫瘍の摘出やリンパ節郭清によって、組織が切除された部位や血腫が生じた部分には死腔を生じやすい。特に顎下部や鎖骨上窩に生じやすく、死腔は「感染」や「膿瘍形成」の原因となり、頸動脈周囲に感染が波及すると「血管破綻」を起こす。

 

喉頭全摘や遊離空腸再建のような咽頭粘膜縫合を行う手術では、縫合部周囲に死腔が生じると「咽頭瘻孔」の原因となりうる。

 

閉鎖式ドレーンと低圧持続吸引システムを用いて、創部内を陰圧に保ちつつ排液を行い、組織間を密着させながら死腔を生じないように治癒させることが重要である(図1)。

 

図1ドレナージによる死腔予防効果

ドレナージによる死腔予防効果

 

3適応

「唾液腺手術」「喉頭全摘術」「耳下腺手術」「頸部リンパ節郭清術」「甲状腺手術」などが、頭頸部手術後ドレナージの適応となる。

 

一方、慢性中耳炎の「鼓室形成術」や慢性副鼻腔炎などに対する「・副鼻腔手術」では、ドレナージはほとんど行われない。

 

頭頸部手術後ドレナージの挿入経路と留置部位

  • 耳下腺手術:耳下部皮下で顔面神経と接触しない位置に留置する。
  • 気道・食道系に達する創となる手術や頸部郭清など:臥位になった際に、邪魔にならないように頸部前面から挿入し、手術範囲で異なるが、特に死腔を生じやすい顎下部、後頸部、鎖骨上窩、気管傍に留置する。

 

頭頸部手術後ドレナージの合併症

1ドレーン刺入・留置の合併症

  1. 血管損傷・出血

    ドレーンを留置するときは、皮膚の内側から外側に向かって刺入するが、その際に皮下の静脈を損傷することがあり、術後血腫や刺入部からの出血を引き起こすことがある。

     

  2. 神経損傷

    血管損傷と同様に、刺入の際に神経を損傷することがある。

     

  3. 感染

    刺入部の皮膚の感染をきたすことがあるため、フィルムドレッシング材でカバーすることが望ましい。

     

 

2頭頸部手術後の合併症

術後出血

急激に排液量が増加する場合は、「術後出血」が疑われる。

 

一般的な外科手術では、1時間あたり100mL以上の排液が認められた場合は、再開創が必要とされるめやすになる。しかしながら、頸部の場合はさらに少ない量でも、血腫を形成し急速に窒息に至る可能性があるので注意が必要である。

 

3術後血腫

術後血腫は、気管、食道、頸部大血管、筋肉といった構造物の間隙を這うように進展していく。さらに増大すると、血管の圧迫により静脈還流障害を引き起こし、咽頭や喉頭の粘膜の浮腫をきたす。

 

粘膜側まで血液が浸みると、粘膜下血腫を形成する。さらに悪化すると気管や咽頭を管腔外から直接圧迫し、狭窄を起こす。

 

つまりは血腫の形成は、気道閉塞をきたし、窒息死や低酸素後脳症といった重篤な後遺症を引き起こす可能性がある。

 

4リンパ管損傷

鎖骨下静脈と内頸静脈が合流する「静脈角」といわれる部位には、リンパ本幹が流入する。特に左側ではリンパ管が発達し「胸管」と呼ばれており、腹部(腸管)からのリンパ液が流入している(図2)。そのために同部の術中操作で損傷や不十分な処理があると、大量の黄色透明のリンパ液が頸部に漏出する。

 

さらにリンパ管が損傷した状態で術後に食事が再開されると、リンパ液の中に腸管で吸収された脂肪が含まれるために「乳び」と呼ばれる白濁した性状を呈することとなる。

 

これらの状態がみられた場合は、禁食、創部圧迫や手術といった処置が必要になる。

 

図2リンパ管

リンパ管

 

5感染・膿瘍形成

甲状腺手術や耳下腺手術では清潔度が高いが、術野口腔や咽頭腔、気管と交通するような手術では術後感染のリスクが高い。発熱や創部の腫張・発赤が生じた場合は、感染を疑う。

 

咽頭粘膜の縫合や、皮弁による口腔や咽頭再建を行った部位に瘻孔が生じると、口腔内の唾液が細菌とともに頸部に流入するため、膿瘍を形成する可能性がある。発熱が継続する場合や、ドレーンから膿性や唾液状の排液が認められた場合は、早急な対応が必要である。

 

術後創部内に死腔があると感染、膿瘍が生じやすいため、死腔を生じさせないようドレーンを留置することが重要である。

 

6血管破綻

頸部に膿瘍や感染が生じた際に、頸動脈の破綻をきたすことがある。特に放射線治療を過去に受けていた場合は、血管壁が脆弱になっているため、その危険が高い。

 

大血管が破綻した場合は、致死的な出血をきたす可能性がある。

 

頭頸部手術後ドレナージの利点と欠点

  • 利点:頸部の死腔を予防することであり(図1)、また創部内の状況を排液の性状から把握できることである。
  • 欠点:手術操作が広く及ぶような場合はドレーンを複数本入れることもあり、体動や更衣の際の妨げになることが挙げられる。

 

ケアのポイント

頭頸部手術後ドレナージにおける観察のポイントは以下の通りである(図3)。

 

図3ドレーン留置時の観察ポイント

ドレーン留置時の観察ポイント

 

1ドレナージの観察

陰圧はかかっているか?

頭頸部手術後では、閉鎖式ドレーンおよび低圧持続吸引システムが用いられることが多いが、先に述べたように、死腔予防や血腫予防のためにはしっかり陰圧がかかり、吸引が持続していることが重要である。

 

陰圧が十分にかかっていると、創部は凹んでいるように見える。しかし、ドレナージの効果が不十分であると創部は腫張し、縫合部やドレーンの刺入部からの血液の漏出がみられることがあるので、創部全体の観察も重要である。

 

ドレーンの固定は?

ドレーンが適切に固定されていないと、ドレーントラブルの原因となり、術後回復の妨げとなる。

 

ドレーンが創部から抜けてないことを確認する。ドレーンは一般的に刺入部に黒い点のマークが付けられているため、その位置が創部から離れたところにある場合は抜けている可能性があり対処が求められる(図4)。

 

図4ドレーンの事故抜去

ドレーンの事故抜去

 

ドレーンの途中で折れがないこと、各コネクター接続部での折れがないことを十分に確認する。

 

衣服は、ドレーンの屈曲を予防するために前開きのものが望ましい(図5)。

 

図5ドレーンの固定方法

ドレーンの固定方法ドレーンの固定方法

 

臥床中は、ドレーンが身体の下に入らないように固定する。

 

離床後は患者の行動を考慮し、引っ張られない位置に固定することが重要となる。

 

リザーバーの排液容量は?

低圧持続吸引システムは、製品によって陰圧を発生させる構造が異なるが、ほとんどの製品がリザーバー内に排液が充満すると陰圧がかからないため注意する。

 

リザーバー内の排液を廃棄後、排液量の計測後に再度陰圧をかけるのを絶対に忘れないことが重要である。

 

2排液の量は?

手術当日は、こまめに排液量をチェックする。

 

当科では24時間あたりの排液が10mL以下を抜去のめやすとしている。

 

通常の頸部手術では、術後2〜5日程度で抜去可能となるが、排液量が減少しない場合や逆に増加していく場合は、「術後出血」や「リンパ管損傷」「咽頭瘻孔」が疑われる。

 

3排液の性状は?

通常、術直後の排液は血液が主体なので「血性(暗赤色)」を呈している。数時間から1日が経過すると、徐々に血液と滲出液の混じった「淡血性」、その後に完全に止血が得られてくると、滲出液の「漿液性(淡黄色透明)」へと変化していく。

 

排液中に鮮血が持続する場合は、「術後出血」が疑われるので注意が必要である。

 

膿性である場合は「感染」、泡が混じり唾液のにおいがする場合は「咽頭瘻孔」が疑われ、早急な対応が必要となる場合が多い。

 

大量の黄色透明の排液や、白濁した乳び状が認められる場合は「リンパ管損傷」を疑う。

 

4感染の徴候は?

創部の状態を観察し、「発赤」「腫脹」「疼痛」「熱感」「滲出液」の状態を観察する必要がある。

 

これらの症状が現れた場合は、創部に感染が起こった可能性があることを考慮し、慎重な観察が必要となる。悪化が見られた場合には、すぐに医師へ報告することが重要である。

 

5皮膚トラブルは?

ドレーンを皮膚に固定することにより、皮膚トラブルを起こしやすい。そのため、皮膚の状態を観察し、状態に合ったフィルムドレッシング材を選択することが重要である。

 

毎日清拭し、フィルムドレッシング材を貼り替えることが必要である。

 


[引用・参考文献]

 

  • (1)行木英生:術後の管理と看護術直後の局所管理と合併症の早期発見.JOHNS2001;17(3):327-332.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社

 

[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社

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