人工呼吸器装着患者・人工呼吸器モニタの観察ポイントは?

 

『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「人工呼吸器装着患者および人工呼吸器モニタの観察ポイント」について解説します。

 

石井宣大
東京慈恵会医科大学葛飾医療センター臨床工学部技士長

 

人工呼吸器装着患者の観察ポイントは?

 

人工呼吸器モニタの値だけで判断せず、酸素化、血行動態、自発呼吸、呼吸パターン、全身状態を確認しましょう。
VALI(人工呼吸器関連肺損傷)の徴候がないか、肺保護戦略による人工呼吸管理になっているかを観察します。

 

〈目次〉

 

はじめに

最近の急性期人工呼吸中の管理として、ABCDEバンドル()が推奨されている。

 

ABCDE バンドルは、鎮静評価(A)と自発呼吸評価 (B)を毎日行って鎮痛・鎮静を調整(C)し、せん妄評価とマネジメント(D)と早期離床と運動(E)の介入を行うものである。

 

VALI(人工呼吸器関連肺障害)の発症には、以下の要素が関連している()。

 

  1. 大きい換気量・高い気道内圧から肺胞が過膨張(overdistension)をきたす量外傷 (volutrauma)や圧外傷(barotrauma)
  2. 肺胞の虚脱と再開放の繰り返しから発生するずり応力による障害(atelectrauma)
  3. 肺の傷害から過剰発現した炎症性サイトカインによる全身への影響(biotrauma)
  4. 高い流量・体位・高濃度酸素の吸入 など

 

人工呼吸器装着患者の観察ポイント

表1人工呼吸器装着患者の観察ポイント

 

酸素化 酸素化能をチェック
  • 吸気の酸素濃度、酸素の取り込みを確認する
  • FIO、PEEP、平均気道内圧、SpO、PaO、HRを確認
血行動態 酸素化された血液をどのくらい全身に供給できるのかをチェック
自発呼吸 十分な自発呼吸があるかをチェック
  • 自発呼吸が十分に行えているかを確認する
  • 呼吸回数、一回換気量、分時換気量、RSBIまたはf/Vt、呼吸性アシドーシスの有無
呼吸パターン 努力性呼吸、呼吸補助筋の活動、奇異呼吸などがないかチェック
  • 視診や触診から、呼吸補助筋の活動や奇異呼吸、冷汗、呼吸困難感、不安、不穏状態を確認する
全身状態 呼吸に影響する全身状態をチェック

 

1酸素化

  • FIOと平均気道内圧は、おおむね酸素化に比例するため、平均気道内圧、PEEP、SpOを確認する。
  • 「肺胞レベルで、酸素がどの程度取り込まれているか」は、酸素分圧で確認する。
  • 上記の他に、酸素化の指標としてP/F ratio(レシオ)が用いられる。P/F ratioは、PaOとFIOの 比を表したものである。
  • P/F ratioは、FIO2とPaOの他、Hb、PaCO、呼吸商、気圧、シャントの影響を受ける。急性肺障害などシャントが大きい疾患の場合、 FIOを上げるとP/F ratioが改善する場合が あり、FIOの影響を考慮する()。

2血行動態

  • 全身への酸素供給量は、おおむね「Hb×SaO×CO」で決まる(例:HbやSaOの低下に対して、心拍出量を増加して代償するなど)。
  • 酸素化が保てていても、貧血や心不全などで全身への血液供給が少なければ、末梢組織は低酸素症に至る。
  • 特に、ウィーニング段階では、人工呼吸器が補助していた呼吸仕事量を患者自身が負担することになり、酸素需要が増加し、心臓に負担がかかる。血行動態が安定しているか、心不全の徴候がないか確認するために、心拍数・血圧の変動、昇圧薬の使用、不整脈や心筋虚血の徴候をチェックする。

 

3自発呼吸

  • 速く浅い呼吸は、呼吸仕事量増加、死腔換気率増加、胸式呼吸主体となり下側肺の換気低下から換気-血流比の不均等分布が発生する。
  • 自発呼吸を主体とした換気モードの場合、呼吸回数、一回換気量、分時換気量、RSBI(f/Vt)を確認する。
  • 分時換気量が多い場合は、何らかの異常から換気ドライブが増加し、呼吸仕事量が大きくなっている状態である。
  • RSBIは、自発呼吸下の呼吸回数と一回換気量(L)の比で表わされ、呼吸窮迫状態の患者では値が大きくなる。RSBIの測定は「FIOとPEEPを変更せず、モードをCPAPに変更して1分間測定」などの方法で行う。RBSIはウィーニングの指標として用いられ、f/Vt<105が、ウィーニングの指標()となる。

 

4呼吸パターン

  • 十分な自発呼吸があるかチェックする。
  • 視診や触診から、呼吸筋疲労の徴候として、呼吸補助筋の活動や奇異呼吸、冷汗、呼吸困難感、不安、不穏状態を確認する。

 

5全身状態

呼吸に影響する電解質異常、発熱、貧血、体液過剰などの全身状態を確認する。

 

人工呼吸器モニタの観察ポイント

人工呼吸器で測定している項目は、①圧力系、②流量系、③時間の3項目に大きく分けられる。これら3項目を組み合わせることで、いろいろな情報を表示する(例:流量を継時的にプロットすると流量波形になり、吸気時の気道内圧の最高点は「最高気道内圧」として表示される、など)。

 

ベッドサイドモニタ(心電図モニタ)からは、全身状態悪化、心拍出量低下、心不全徴候がないか、SpO、体温、心拍数、血圧、心筋虚血徴候、不整脈、心拍出量などを確認する。

 

表2人工呼吸器モニタの観察ポイント

 

設定 人工呼吸器の設定をチェック
  • 換気モード設定としてFIO、一回換気量、設定圧、吸気時間、吸気流量、流量パターン、呼吸回数、PEEPを確認する
同調性 患者の呼吸パターンと人工呼吸器設定が同調しているか評価
  • 同調性がよいか、ミストリガー、二段呼吸、auto-trigger、auto-PEEPがないかを確認する
  • 吸気の同調だけでなく、吸気流量、呼気への移行の同調も確認する
気道内圧 VALIを防止する設定か確認するとともに、肺メカニクスから病態の変化をとらえる
  • 最高気道内圧、平均気道内圧、PEEPを確認する
  • 吸気時間中に気道内圧の低下がないか確認する。VCVでは、呼吸努力が増加すると気道内圧が低下する
  • 強制換気のVCVやPCVでは、吸気ポーズと最高気道内圧から肺メカニクスを評価する
呼吸回数 呼吸回数の変化から、呼吸調整機能の破綻、病態の変化、鎮痛や鎮静の影響をとらえる
  • 自発呼吸主体の換気モードでは、呼吸回数の変化に注目する
  • 病態の変化、鎮痛や鎮静により変化する
  • 同調性の低下、ミストリガー、二段呼吸、auto-trigger、auto-PEEPにより変化する
流量 換気パターンが同調しているか確認
  • 吸気流量の不足がないか(VCVでは、呼吸努力が増加すると気道内圧が低下する)
  • 呼気終末時の流量を確認する(内因性PEEPがないか確認する)
換気量 一回換気量の変化、分時換気量の変化から呼吸筋疲労の徴候がないか確認
  • 強制換気では、設定値に見合った換気量か確認する
  • 一回換気量、分時換気量、RSBIを確認して呼吸筋疲労がないか確認する
アラーム アラームの発生と要因をチェック
  • 人工呼吸器にアラームが発生していないか、アラーム履歴も併せて確認する
  • 発生したアラームの要因を確認する

 

1設定

  • 人工呼吸器の設定をチェックする。
  • 換気モード設定、FIO、一回換気量、設定圧、吸気時間、吸気流量、流量パターン、呼吸回数、PEEPを確認する。

 

2人工呼吸器の同調性

  • 患者と人工呼吸器の同調性が低いと、人工呼吸期間の延長、ICU滞在期間が延長する()ことが報告されている。
  • 同調性の確認は、重要な観察ポイントとなる。

 

3気道内圧

  • 酸素化の確認、設定が妥当かを確認する。
  • 最高気道内圧、平均気道内圧、PEEPを確認する。
  • 吸気時間中に気道内圧が低下しないか確認する。VCVでは、呼吸努力が増加すると気道内圧が低下する。
  • 強制換気のVCVやPCVでは、吸気ポーズと最高気道内圧から肺メカニクスを評価する。
  • 呼気ポーズキーがあれば、内因性PEEPが発生していないか確認する。

 

1)肺メカニクス

  • 気道内圧は、コンプライアンスにより発生する圧力と、抵抗成分により発生する圧力を足したものとなる。患者由来成分(気道抵抗、粘性抵抗、胸郭の抵抗)と、人工呼吸器成分(影響は一定)がある。
  • 気道内圧から得られる肺メカニクスの変化は、人工呼吸器成分が一定であるため、患者の状態を表す。
  • 肺メカニクスの測定方法を以下に示す。
  1. 吸気ポーズおよび呼気ポーズ機能(機種による)を利用する。
  2. VCVでは、吸気ポーズを入れてプラトーを測定する。
  3. PCVでは、吸気時間中に吸気流量が0(ゼロ)になっていれば、PCV圧がプラトーに近似する。

 

2)内因性PEEP(auto-PEEP/オートピープ、intrinsic PEEP/イントリンシクピープ)

  • 内因性PEEPは、吸気時間や呼吸回数を増加や末梢気道の狭窄などにより発生する場合がある。内因性PEEPが生じると、肺の過膨張、循環抑制や肺損傷、ミストリガーの増加による同調性低下を引き起こす場合がある。
  • 内因性PEEPは、auto-PEEP測定機能や呼気ポーズ機能、グラフィック画面で確認する。

 

3)肺保護戦略

  • 急性肺障害では、VALIを防止するため肺保護戦略(lung protective strategyラングプロテクティブストラテジー)による人工呼吸管理が推奨されている。
  • 肺保護戦略は、プラトー圧の制限、低い一回換気量、肺胞の虚脱を防ぐPEEP、肺胞を虚脱した肺胞を再開放するリクルートメント手技などが挙げられる()。
  • プラトー圧は25cmHO以下(少なくとも30cm以下)、プラトー圧とPEEPの差は15cm程度に抑えることが望ましい()。

 

4呼吸回数

  • 呼吸回数は、呼吸調整機能の破綻、病態の変化、鎮痛や鎮静の影響によって変化する。
  • 自発呼吸主体の換気モードでは、呼吸回数の変化に注目する。
  • 同調性がよいか、ミストリガー、オートトリガーがないか確認する。

 

5流量

  • 呼気終末時の流量(吸気の始まる直前)を確認し、内因性PEEPがないか確認する。
  • 換気パターンが同調しているか確認する。
  • VCVでは、呼吸努力が増加すると気道内圧が低下することから、吸気流量の不足がないか確認する(A/C-VCV、SIMV-VCV)
  • 吸気時間が適正か確認する(A/C-PCV、SIMV-PCV)。
  • 吸気から呼気へのサイクルが同調しているか確認する(PSV)。
  • 吸気の立ち上がり速度が同調しているか確認する(PSV、PCV)。

 

6換気量

  • 一回換気量の変化、分時換気量の変化から呼吸筋疲労の徴候がないか確認する(MV>15L/分、RSBI)。
  • 強制換気では、設定値に対して許容できる換気量か確認する。
  • PCVや自発呼吸モードでは、換気量増大に注意する(PCV、PSV、CPAP、APRV)。
  • 一回換気量、分時換気量、RSBIを確認して呼吸筋疲労がないか確認する。

 

7アラーム

  • アラームが発生していないか、現在からアラーム履歴を含めて確認する。
  • アラームが発生していた場合に確認すべき点を以下に示す。
  1. 気道内圧低下アラーム:カフ圧低下、回路リーク、吸気流量不足
  2. 気道高圧アラーム:ファイティング・バッキング、分泌物貯留、チューブ位置、チューブ閉塞、片肺挿管、緊張性気胸、内因性PEEP
  3. 分時換気量低下アラーム:呼吸回数低下、一回換気量低下、呼吸筋疲労徴候
  4. 分時換気量増加アラーム:RSBI、呼吸筋疲労徴候、換気効率低下、代謝増加
  5. 無呼吸アラーム:自発呼吸低下、病態悪化、トリガー不良、内因性PEEP

 

略語

 

  • VALI(ventilator associated lung injury):人工呼吸器関連肺損傷
  • FIO(fraction of inspired oxygen concentration):吸入気酸素濃度
  • PEEP(positive end expiratory pressure ventilation):呼気終末陽圧換気
  • SpO(saturation of percutaneous oxygen):経皮的酸素飽和度
  • PaO(arterial O pressure):動脈血酸素分圧
  • PaCO(arterial CO pressure):動脈血二酸化炭素分圧
  • RSBI(rapid shallow breathing index):f/Vt
  • VCV(volume control ventilation):量調節換気
  • PCV(pressure control ventilation):圧調節換気
  • コンプライアンス(static compliance:Crs):やわらかさを表す指標(単位はmL/cmHO)。1cmHOの圧で 膨らむ体積を示し、数値が大きいほどやわらかい。「一回換気量/(プラトー-PEEP)」で求められる。
  • 抵抗(resistance:rs):ガスの通りにくさを表す指標(単位はcmHO/L/秒)。1L/秒の速度でガスを流すた めに必要な圧を示し、数値が大きいほどガスが流れにくい。VCVの吸気流量供給方式が定常流(一定流)の場合、 「抵抗=(最高気道内圧-プラトー)/吸気流速V4 」で求められる。

 


 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社

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