人工呼吸器の各モードの観察ポイントは?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「人工呼吸器のモードごとの観察ポイント」に関するQ&Aです。
石井宣大
東京慈恵会医科大学葛飾医療センター臨床工学部技士長
人工呼吸器の各モードの観察ポイントは?
数値情報、グラフィック波形情報、フィジカルアセスメントなどから、人工呼吸器との同調性、酸素化、換気状態の評価を行います。
〈目次〉
人工呼吸器の換気モード変更のながれ
近年の換気モードには、自発呼吸に対して同調性を高めることで、人工呼吸器関連障害や廃用性萎縮を抑え、鎮静薬を減量できることが求められている。
自発呼吸下の換気モードでは、呼吸仕事量の軽減、下側肺の換気量増加と肺胞虚脱予防、換気血流比の改善、心拍出量の改善などが報告されている(1)。そのため急性期では、自発呼吸の停止は少なくし、自発呼吸と同調性の良い換気モードに切り替え、早期の離脱が求められている。
臨床の流れの例を以下に示す。患者をサポートする強さにより、換気モードを変更していくのが特徴である(図1)。
①開始時は、A/Cでしっかり換気をサポートして、酸素化と呼吸仕事量を軽減する。
・酸素化が改善しなければ、APRVやBilevel(バイレベル)に変更する。
・同調性が悪ければ、PAVTM+やNAVAⓇの使用を検討する。
②酸素化が改善され、自発呼吸がしっかりしたら、PSVに切り替え、SBT(自発呼吸トライアル)を進める。
・離脱が困難な患者(人工呼吸器期間2週間以上または3回以上SBT失敗(2))などでは、SIMVに切り替え、原因探索と治療を進める。
各モードで期待される効果と評価の内容
1患者-人工呼吸器の同調性
- 自発呼吸を補助する換気モードで期待される効果は、呼吸仕事量の軽減、下側肺の換気量増加と肺胞虚脱予防、換気血流比の改善、心拍出量の改善などが挙げられる(1)。
- 調節呼吸の換気モードでは、過剰鎮静から人工呼吸期間やICU滞在日数の延長および長期予後の悪化が懸念されることから、近年では自発呼吸を温存した換気モードが主体となってきている。
- 自発呼吸を補助する換気モードでは、患者-人工呼吸器の同調性が重要視される。患者と人工呼吸器の同調性が低いと人工呼吸期間の延長、ICU滞在期間が延長する(3)。同調性が低くなる原因としては、トリガー不良、二段呼吸、不適切な吸気流量設定、吸気終末サイクル、内因性PEEPなどが挙げられる(4)。
- 患者-人工呼吸器の非同調性は、PSVの場合、呼吸回数あたり約2%発生するが、そのうちミストリガーが85%、二段呼吸が13%、オートトリガー・早期終了・吸気時間延長はそれぞれ1%未満であると報告されている(3)。
1)ミストリガー
- 呼吸努力があってもトリガーしない状態である。
- 吸気努力が弱く、トリガーレベルを超えない場合に起こる。
- ミストリガーが発生したら、トリガー感度の設定が鈍すぎないか、内因性PEEPがないか確認する。
2)二段呼吸
- 吸気は終了するが、2回目の吸気が続いて発生する状態である。
- 吸気流量が速い場合や、コンプライアンスが低い肺の場合に起こりやすい。
- 気道内圧が跳ね上がり、吸い終わる前に吸気が終了し、次にそのままトリガーすることで二段の吸気波形となる。
- 二段呼吸が発生したら、立ち上がり速度、呼気感度を調整する。
3)オートトリガー
- オートサイクルとも呼ばれる。自発呼吸がないのに、人工呼吸器が連続して自発呼吸を誤検知する状態である。
- 高すぎる(鋭敏)トリガー感度、回路リーク、回路内水滴、心原性の振動(5)などにより発生する。
- 患者と人工呼吸器の同調性を確認するには、自発呼吸のアセスメントとして、グラフィック波形情報と合わせてフィジカルアセスメントを実践することが重要である。努力性呼吸(Column)の有無、吸気流量の不足や吸気早期終了、シーソー呼吸や呼気時の腹筋の収縮などを早期に発見することが、患者にとって最適な換気条件を探索する手助けとなる。
COLUMN努力性呼吸って?
努力性呼吸(努力呼吸)は、呼吸筋疲労や気道狭窄の影響で、吸気仕事量(弾性仕事量)が増加した状態である。
努力性呼吸の徴候として、奇異呼吸や肩呼吸(吸気時に肩が上がる)、陥没呼吸(呼吸時に鎖骨上窩・肋間が陥没する)、胸鎖乳突筋の過剰な発達などが見られる。
また、吸気に努力が必要な場合、鼻翼呼吸(吸気時に鼻翼が膨らむ)が見られることが多い。
なお、気道狭窄では、トラキアルダック(吸気時に甲状軟骨が上方へ引っ張られる)が見られる。
(道又元裕)
2内因性PEEP
- 吸気時間や呼吸回数が増加すると、呼気時間が短くなり、呼気終了前に次の吸気が始まる。すると、エアトラッピングが起こり、内因性PEEP(auto-PEEP/オートピープ、intrinsic PEEP/イントリンシクピープ)が発生して過膨張となり、循環抑制や肺損傷が起こる場合がある。
- 内因性PEEPは、一回換気量が多い、呼気時間が短い、気道抵抗が高い、コンプライアンスが高い場合に発生しやすくなる。
- 内因性PEEPの有無は、流量波形が呼気終了時にゼロに戻るかを観察することで確認する(図4)。発生している場合は、許容できる範囲で一回換気量を減らす、呼気時間を十分にとることで対応する。
- 内因性PEEPが発生するとミストリガーが増加する(6)。
- IRVは、内因性PEEPの発生による肺胞の虚脱を防ぎ、酸素化を改善する換気モードである。
3呼吸回数
- 運動時には、酸素の需要と二酸化炭素の産生量が増加するが、通常、生体は、呼吸回数や換気量を増加させることで調節している(自律性呼吸調節)。
- 不安などの感情や、痛みの刺激によっても呼吸回数は変化する(随意性呼吸調節)。
- 特に人工呼吸管理中では、疾患による呼吸調整機能の破綻、病態の変化、鎮痛や鎮静の影響から、呼吸回数や一回換気量が変化する。
換気モード別の観察ポイント
主に用いる換気モードとして、A/C、SIMV、PS、CPAP、APRVを解説する。
1A/Cの観察ポイント
【VCV-A/C】
- 気道内圧の変化に注意
- 患者努力の増加で気道内圧低下
- 患者努力が増加しても換気量は一定
- 自発呼吸がある場合は同調性を確認
- auto-PEEPに注意
【PCV-A/C】
- 換気量の変化に注意
- 患者努力が増加しても気道内圧は一定
- 患者努力が強くなると換気量は増加
- 吸気時間の設定に注意
- 自発呼吸がある場合は同調性を確認
- auto-PEEPに注意
- 急性期においてA/Cは、人工呼吸器の導入時によく使用する。強制換気で肺の換気と拡張を維持し、呼吸仕事量を軽減することが主な目的である。
- A/Cが使用されるのは、一回換気量を4~6mL/kgまで制限して高二酸化炭素血症を容認する場合(permissive hypercapnia/パーミッシブハイパーカプニア)や、換気法や吸呼気比を逆転させて吸気時間が呼気時間を上回る換気法(IRV)などである。
- A/Cの特徴は、自発呼吸の有無にかかわらず、設定された換気量が送気される点である。
- 自発呼吸をトリガーしたときは、アシスト呼吸として設定された調節換気を送気する。アシスト換気となり、自発呼吸が増加した場合には、設定換気回数を超えて換気を行う。
- 換気様式は、VCVまたはPCVを選択できる。
1)VCV-A/Cのとき
- VCV-A/Cでは、設定した一回換気量を送ることから、換気量は一定量となるが、気道内圧は患者状態により変化するため、気道内圧を常にモニタリングする。
- PIPとPpltのモニタリング、同調性、吸気流量の不足がないかの確認が重要となる。
・気道内圧:VCVでは、患者努力が強くなると、吸気流量や換気量の不足により、気道内圧が低下する。
・プラトー圧:一時的にEIPを設定するか、吸気ポーズ機能で測定する。25cmH2O以下(少なくとも30cm以下)、プラトー圧とPEEPの差を15cm程度に抑えることが望ましいとされている(7)。
2)PCV-A/Cのとき
- PCV-A/Cでは、気道抵抗やコンプライアンスの変化による気道内圧の変化は生じないが、一回換気量が変化する。そのため、一回換気量のモニタリングが重要となる。
- PCVの吸気時間は、基本的には「吸気流量が吸気終末時にゼロとなる時間」を設定する。吸気流量がゼロにならない場合、肺の中で設定圧に達していない部分があることを示唆する。この場合、吸気時間を増やすと、一回換気量が増加する。
- PCV-A/Cでは、自発呼吸をトリガーすると、設定した強制換気を送る。自発呼吸が多い場合、分時換気量も増える。リークや振動によるオートトリガーが発生していないか確認し、自発呼吸がしっかりしていれば、自発呼吸が主体のPSVなどへの変更を検討する。
図6PCV-A/C:吸気時間変更時の流量波形および換気量波形の変化
2SIMVの観察ポイント
- 自発呼吸の同調性に注意
- 吸気時間と吸気流量(立ち上がり時間)に注意
- SIMV+PSでは、立ち上がり時間、呼気感度に注意
- auto-PEEPに注意
- SIMVは、自発呼吸だけでは換気量が不足する場合に、一定の間隔で補助呼吸を行うモードである。補助呼吸は、VCVまたはPCVを選択できる。
- 患者の吸気に合わせて強制換気を行うことで、ファイティングを抑える。強制換気のタイミングまでの自発呼吸には、PSVを付加することができる。
- SIMVでは、自発呼吸の吸気時間と強制換気の吸気時間が合っているか確認することが重要である。吸気時間の設定が自発呼吸に比べて長く、強制換気の途中で患者が呼気に移行した場合、吸気の終わりに気道内圧が上がることがあるためである。
- 離脱困難な長期人工呼吸患者では、SIMVとPSVを併用してウィーニングを進める。以下に一例(8)を示す。
①PSVは一定で、SIMVを4回/分位まで下げる。
②SIMV(4回/分)は一定で、PSVを10cmH2Oまで下げてからSBTに移行する。
3PSVの観察ポイント
- PSVは、自発呼吸を温存した換気モードであるため、同調性をよく確認する必要がある。
- ウィーニング時のSBTでは、PS5cm、PEEP5cmH2OまたはTピースで行う方法が推奨されている(9)。
- PSVでは、自発呼吸をしっかり行い、ウィーニングに向けて鎮静レベルを浅くコントロールしていく。患者がチューブの不快感や苦痛から、体動やチューブ抜去を起こすこともあり、注意が必要となる。
- 自発呼吸主体の換気モードでは、呼吸仕事量は人工呼吸器から患者にシフトする。そのため、酸素化(SpO2)、循環動態(心拍数、血圧、不整脈の有無)、意識レベル、電解質や酸塩基平衡、呼吸回数、分時換気量、呼吸パターンの悪化(呼吸補助筋使用、奇異呼吸)などに注意が必要である。
- PSVは、自発呼吸が停止すると送気が停止するので、無呼吸アラームとともにバックアップ換気の設定が必要である。
- 自発呼吸が戻り、バックアップ換気からPSVに移行する方法は、機種によって異なる。リセットを押さないとPSVに戻らない機種などがあるため、事前の確認が重要である。
4CPAPの観察ポイント
- 患者努力の増加でも気道内圧一定
- 患者努力が増加で換気量は増加
- 自発呼吸と換気パターンが同調しているか確認
- 浅速呼吸がないか確認
- オートトリガー、呼吸回数に注意
- auto-PEEPに注意
- 無呼吸アラーム、バックアップ換気の確認
- 酸素化、循環動態、意識レベル、血液ガス、 呼吸回数、分時換気量、呼吸パターンに注意
- CPAPは、自発呼吸下にPEEPを付加することで、吸気相・呼気相を陽圧に保ち、肺容量増加、肺胞虚脱の改善、呼吸仕事量の軽減を行う。
- 患者が、チューブの不快感や苦痛から体動やチューブ抜去を起こすこともあり、注意が必要となる。
- CPAPは自発呼吸主体の換気モードである。そのため、酸素化(SpO2)、循環動態(心拍数、血圧、不整脈の有無)、意識レベル、電解質や酸塩基平衡、呼吸回数、分時換気量、呼吸パターンの悪化(呼吸補助筋使用、奇異呼吸)などに注意が必要である。
- CPAPは、自発呼吸が停止すると送気が停止するので、無呼吸アラームとともにバックアップ換気の設定が必要である。
- 自発呼吸が戻り、バックアップ換気からCPAPに移行する方法は、機種によって異なるため、事前に確認しておく。
5APRVの観察ポイント
- APRVでは、2相のCPAPを使用する。高圧相では肺胞虚脱改善と酸素化を改善し、低圧相(短時間)では換気補助と内因性PEEPから肺胞虚脱防止を行う。
- 自発呼吸下で使用するモードであり、呼吸努力が強いと経肺内外圧差が大きくなり肺障害を助長する可能性がある(10)ことから、立ち上がり時間を早くし、チューブ補償(tube-compensation/チューブコンペンゼーション)を付加する。
- 炎症を起こしている肺胞領域は、ガスが入りにくく出にくい状態(時定数が大きい)であるため、正常な肺胞に比べるとガスの呼出に時間がかかる。低圧相の時間を短く設定することで、病的肺胞からがガスが呼出して虚脱する前に高圧相に戻し、肺胞虚脱を予防する。
- 低圧相の時間が長いと肺胞虚脱が発生することがあるため、通常、高圧相から低圧相に移行した時の呼気流量最大値から75%値まで低下する時間(通常0.35~0.6秒)に設定する(図7)(11)、(12)。
略語
- SBT(spontaneous breathing trial):自発呼吸トライアル
- PIP(peak inspiratory pressure):最高気道内圧。主に気道抵抗成分とコンプライアンスの変動を示す。
- Pplt(plateau pressure):プラトー圧。コンプライアンス(肺の広がりやすさ)の変動を示す。
[文献]
- (1)Brander L, Slutsky AS. Assisted spontaneous breathing during early acute lung injury. Crit Care 2006; 10: 102.
- (2)Boles JM, Bion J, Connors A, et al. Weaning from mechanical ventilation. Eur Respir J 2007; 29: 1033- 1056
- (3)Thille AW, Rodriguez P, Cabello B, et al. Patient– ventilator asynchrony during assisted mechanical ventilation. Intensive Care Med 2006; 32: 1515–1522.
- (4)Gilstrap D, Maclntyre N. Patient-ventilator interactions. Implications for clinical management. Am J Respir Crit Care Med 2013; 188: 1058-1068.
- (5)Imanaka H, Nishimura M, Takeuchi M, et al. Autotriggering caused by cardiogenic oscillation during flow-triggered mechanical ventilation. Crit Care Med 2000; 28: 402–407.
- (6)Tobin MJ, Jubran A, Laghi F. Patient-ventilator interaction. Am J Respir Crit Care Med 2001; 163: 1059–1063.
- (7)Checkley W, Brown R, Korpak A, et al, Effects of a clinical trial on mechanical ventilation practices in patients with acute lung injury. Am J Respir Crit Care Med 2008; 177: 1215-1222.
- (8)Scheinhorn DJ, Chao DC, Stearn-Hassenpflug M, et al. Outcomes in post-ICU mechanical ventilation: a therapist-implemented weaning protocol. Chest 2001; 119: 236-242.
- (9)日本集中治療医学会ICU機能評価委員会:人工呼吸関連肺炎予防バンドル 2010改訂版. (2014年11月18日閲覧).
- (10)Meyers TR, Maclntyre NR.Respiratory controversies in the critical care setting. Does airway pressure release ventilation offer important new advantages in mechanical ventilator support?. Respir Care 2007; 52: 452-458.
- (11)Habashi NM. Other approaches to open-lung ventilation: airway pressure release ventilation. Crit Care Med 2005; 33: S228–240.
- (12)Andrews P, Habashi N. Airway pressure release ventilation. Curr Probl Surg 2013; 50: 462-470.
- (13)山本信章 : 呼吸管理機器おたすけパーフェクトBOOK. 呼吸器ケア 2011; 119: 43-50.
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- (15)髙橋大二郎, Sinderby C, 中村友彦, 他:Neurally adjusted ventilatory assis(t NAVA). 人工呼吸 2012;29:Web版. (2014年11月18日閲覧).
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社