腎不全|尿の生成と排泄
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、腎不全について解説します。
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
Summary
- 1. 腎不全(chronic renal failure)は病名ではなく、状態であり、急性腎不全と慢性腎不全がある。
- 2. 急性腎不全はネフロンの働きが全体的に悪くなった状態である。
- 3. 慢性腎不全はネフロンの一部が壊死した状態である。
- 4. 乏尿を伴う急性腎不全で頻度も高く重症なものは急性尿細管壊死が原因である。
- 5. 慢性腎不全が進行すると尿毒症になる。
- 6. 慢性腎不全が進行すると腎性貧血になる。
〈目次〉
腎不全の分類
腎不全には、急性腎不全(acute renal failure)と慢性腎不全(chronic renal failure)がある(表1)。
表1腎不全の分類
血漿クレアチニン値
血漿クレアチニン(plasma creatinine)の主な由来は、骨格筋中のクレアチン(creatine)およびクレアチンリン酸(phosphocreatine)からの産生である。
筋量が男女で異なるので、血漿クレアチニン値の基準値は、男性は0.8~1.2mg/dL、女性は0.5~0.9mg/dLと異なる。血漿クレアチニン値が持続的に2mg/dL以上に上昇すると慢性腎不全と診断される。
BUN
血漿クレアチニン値とならんで腎機能の評価によく用いられるのがBUN(blood urea nitrogen、血清尿素窒素)である。
BUNの基準値は、9~20mg/dLである。BUNは、血中の尿素(urea)に含まれる窒素分を指す。
尿素はタンパク質(アミノ酸)やピリミジン塩基(pyrimidine base、DNAのシトシン〔cytosine〕およびチミン 〔thymine〕、RNAのウラシル〔uracil〕)の代謝産物であるアンモニアを肝臓の尿素回路(urea cycle)で処理するときに産生される。
尿素は糸球体で濾過された後、尿細管で一部再吸収されるので、尿素の産生が増えればBUNも上昇する。
BUN/クレアチニン比〔 blood urea nitrogen/creatinine ratio 〕
BUN/クレアチニン比の基準値は約10である。
BUNとクレアチニンはGFRの低下で上昇することは共通しているが、尿素が尿細管で一部再吸収されるのに対し、クレアチニンはほとんど再吸収されない。このためBUN/クレアチニン比から体内での病態を推測できる。
BUNおよび血漿クレアチニンがともに上昇し、BUN/クレアチニン比が20以上の場合は、GFR低下(乏尿を伴う急性腎不全のなかの腎前性腎不全)が疑われる。
一方、尿細管機能低下では、尿素の再吸収が減少するがクレアチニンは影響されないので、BUN/クレアチニン比が10以下に低下する。
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慢性腎不全
糸球体濾過(原尿)の1%しか尿にならないのであるから、慢性腎不全でネフロンの一部が壊死して濾過量が減少しても、尿量がただちに減少することはない。そこで慢性腎不全の進行を見落とさないように血漿クレアチニン値(plasma creatinine)や血清尿素窒素(blood urea nitrogen、BUN)の上昇に注意する必要がある。
慢性腎不全が進行すると尿毒症(uremia)になる。慢性腎不全の治療には透析(dialysis)が行われる。
乏尿とタンパク質制限
乏尿の場合は、タンパク質の代謝産物である尿素が排泄できなくなるので、タンパク質の摂取を1日25g程度(体重1kg あたり1日0.5g程度)に制限する。動物性タンパク質はもちろん植物性タンパク質も含めた総量に注意する。塩分も、1日3g程度に制限する。
CKD
慢性腎疾患(Chronic Kidney Disease:CKD)の患者は国内に1300万人以上といわれ、糖尿病の増加とともに増えている。
以下の2つの条件の片方または両方が3カ月以上続いているとCKDと診断される。
①タンパク尿など腎障害を示唆する所見、②体表面積あたりのeGFRが60mL/分/1.73m2未満(1.73m2は日本人成人の標準体表面積で、それで割った値ということを示している)。
eGFR(mL/分/1.73m2)は、実測の血漿クレアチニン濃度(Cr)を用いて次の式で推定(estimated)される。eGFR = 194 × Cr-1.094 × 年齢-0.287(女性は、この値×0.739)。
このeGFR推定式は、分子が194という定数で、Crも年齢も分母にあるので、Crが大きいほど、年齢が高いほど eGFRが小さくなる。Crの上昇はクレアチニンが糸球体で濾過されずに血中に残った結果なのでeGFRの低下となる。加齢によるeGFRの低下は他の生理機能と同様である。
糖尿病に起因するCKDには従来、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が主に使われてきたが、2021年に経口糖尿病薬の SGLT2阻害薬が保険適用になった。また、腎臓における炎症や線維化に関係するミネラルコルチコイド(主にアルドステロン)受容体(MR)拮抗薬が2022年に承認された。
アルブミン指数
eGFRと共にCKDの診断基準になるアルブミン尿の判定に随時尿中のアルブミン/クレアチニン比を用いる。この比をアルブミン指数という。
※編集部注※
当記事は、2017年1月6日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
利尿薬|尿の生成と排泄
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『図解ワンポイント 生理学 第2版』 (著者)片野由美、内田勝雄/2024年7月刊行/ サイオ出版