利尿薬|尿の生成と排泄
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、利尿薬について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
Summary
- 水は必ず浸透圧が高いほうに移動する。
- 水はNa+と常に一緒に移動する。
- 利尿薬 diuretics はNa+排泄を促進させる薬物である。
〈目次〉
はじめに
水は必ず浸透圧が高いほうに移動する(『腎臓の血流の特徴』スターリングの仮説 参照)。これを実際に即していえば、水はNa+と常に一緒に移動するということになる。
したがって、利尿 diuresis とはNa+を排泄することと考えることができ、利尿薬 diuretics は何らかの形でNa+排泄を促進させる薬物である。
利尿薬は、①ループ利尿薬 loop diuretic、②サイアザイド(チアジド)利尿薬 thiazide diuretic、③カリウム(K+)保持性利尿薬 potassium sparing diuretic、④炭酸脱水酵素阻害薬 carbonic anhydrase inhibitor、⑤浸透圧性利尿薬 osmotic diuretic に大別される。
これらの利尿薬の作用点およびNa+の排泄機構をまとめると表1のようになる。
各利尿薬の特徴
ループ利尿薬は、これらの利尿薬のなかで最も利尿作用が強い。ループ利尿薬は近位尿細管で管腔に分泌され、ヘンレ・ループ上行脚の管腔側にあるNa+-K+-2Cl-共輸送体(Na+、K+、2Cl-を同時にヘンレ・ループの細胞内に輸送する膜タンパク質)を阻害してNa+排泄を増やす。
サイアザイド(チアジド)利尿薬は、近位尿細管で管腔に分泌され、遠位尿細管の接合尿細管細胞の管腔側にあるNa+-Cl-共輸送体(Na+、Cl-を同時に接合尿細管細胞に輸送する膜タンパク質)を阻害してNa+排泄を増やす。
K+保持性利尿薬のなかでスピロノラクトンは、集合管にあるアルドステロン受容体においてアルドステロンと拮抗して、アルドステロンによるNa+再吸収を抑制させることによってNa+の排泄を増やす。アルドステロンにはK+排泄作用もあり、それも抑制することになるのでスピロノラクトンはK+保持性利尿薬とよばれる。
K+保持性利尿薬のなかでもアミロライドなどは、アルドステロンとは関係なく、Na+チャネルを直接に阻害することによってNa+の排泄を増やす。Na+の排泄で管腔内のマイナス電荷が減少するので二次的にK+の排泄が減少し、K+保持となる。
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ヘンレ・ループ上行脚のNa+-K+-2Cl-共輸送体を阻害し、Na+およびCl-の再吸収を抑制することにより利尿作用を示すループ利尿薬 loop diuretic には、フロセミド、ブメタニド、エタクリン酸などがある。腎性、肝性浮腫および心性浮腫(うっ血性心不全)や高血圧症(本態性、腎性等)などが適応になる。
自由水クリアランス
自由水 free water とは、等張 isotonic の尿に対し付加あるいは再吸収される水のことをいう。この付加および再吸収は遠位尿細管で行われる。
浸透圧を物質のように扱って浸透圧クリアランス(Cosm〔mL/分〕)をCosm=UosmV/Posmとして求めることができる(『クリアランス』参照)。
UosmおよびPosmは、それぞれ尿および血漿の浸透圧(mOsm/kgH2O)、Vは1分間あたりの尿量(mL/分)である。
CH2O=V-Cosmで算出される量を自由水クリアランス free water clearance CH2O(mL/分)という。自由水クリアランスは希釈尿の生成能力(NaCl再吸収)を反映するので、サイアザイド(チアジド)利尿薬の評価を行うことができる。
自由水クリアランスを1日あたりで求めると、マイナスの値で約1,000mLになる。これは絶対値で比較すると、通常の気象条件下での1日あたりの不感蒸散 insensible perspiration の量とほぼ等しい。これにはどのような意味があるのだろうか。
自由水クリアランスがマイナス(CH2O<0)ということは表2から高張尿であることを意味している。
すなわち、生体は尿を高張にすることで、皮膚や気道から不可避的に失われる不感蒸散の水分を補っているのである。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版