内分泌の特徴|内分泌
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、内分泌の特徴について解説します。
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
- 1. 生体の調節(情報伝達)系は、神経系、内分泌系、免疫系に大別される。
- 2. 内分泌は分泌のための導管をもたず、ホルモンは血中に分泌され標的細胞まで運搬される。
- 3. 神経軸索を介して分泌される神経内分泌もある。
生体の調節
生体内の調節系は、神経系、内分泌系、免疫系に大別され、これらは相互に影響しあっている。
神経系は活動電位による情報伝達、内分泌系および免疫系は化学物質による情報伝達に基づく調節である。内分泌による調節は、液性調節ともよばれる。
この記事では内分泌(図1)について解説する。
図1内分泌器官
内分泌
分泌は、内分泌(endocrine)と外分泌(exocrine)とに分けられる。
膵臓を例にとると、ランゲルハンス島から分泌されるインスリン(insulin)やグルカゴン(glucagon)は内分泌であり、消化管に分泌される膵液(pancreatic juice)は外分泌である。
外分泌では、分泌細胞から出た分泌物質は導管を通って作用する。一方、内分泌では、分泌細胞から出た分泌物質(ホルモン〔hormone〕)は、導管ではなく血管に入り、血液によって運搬されて標的となる細胞あるいは器官に作用する。
「神経分泌」(neurosecretion)といって、血管ではなく神経軸索(axon)を介して運搬される分泌物質もある。ただ、この場合も軸索末端は血管に終わり、ホルモンは最終的には血液によって運ばれるので、広い意味では内分泌といえる(図2)。
図2内分泌と神経の情報伝達
バゾプレシン(ADH)とオキシトシンは下垂体後葉で血中に分泌されるので「下垂体後葉ホルモン」であるが、視床下部で合成され、神経軸索で下垂体後葉に運ばれる神経分泌型のホルモンである。
ホルモンの多くは、細胞の情報伝達のなかでは1次メッセンジャー (1st messenger)であり、細胞膜の受容体に結合して細胞内にサイクリック AMP、Ca2+、IP3などの2次メッセンジャー(2nd messenger)を産生する。
それぞれの2次メッセンジャーを産生する酵素(enzyme)があり、受容体(receptor)と酵素はGタンパク質(G protein)によって結びつけられる。受容体、酵素およびGタンパク質は、いずれも細胞膜に埋め込まれたタンパク質で脂質2重層のなかを流動する(「受容体と細胞内情報伝達系(1)」「受容体と細胞内情報伝達系(2)」参照)。
ホルモンの発見
ヒポクラテス(Hippocrates、460~375B.C. 頃)の時代にもホルモンによる作用は知られていたが、当時は「液性物質」という神秘的なものとされ、その実体は明らかではなかった(伊藤眞次:脳のホルモンとこころ、朝倉書店、1989)。
ホルモンの存在が明らかになったのは、それほど古いことではない。
最初に発見されたホルモンはセクレチン(secretin)で、1902年、ベイリス(W.M.Bayliss, 1860~1924)とスターリング(E.H.Starling, 1866~1927)によって、その生理機能が解明された。この発見は、当時パブロフ(I.P.Pavlov, 1849~1936)に代表される神経生理学が大勢を占めるなかにあって、神経を切断しても機能する調節系があることを証明した。
ベイリスとスターリングは、セクレチンの発見以外でも、ベイリス効果(血圧上昇による腎血流量の低下)、スターリングの仮説(毛細血管における水の移動)、スターリングの心臓の法則(静脈還流量が多いほど心拍出量が多い)などで生理学上に名を残している。
なお、セクレチンの発見に先立つ1900年6月29日に、高峰譲吉と上中啓三によってアドレナリン(adrenaline)が結晶化されたことも特筆されなければならない。生理機能が解明されたホルモンとしてはセクレチンが最初であるが、純物質として結晶化されたホルモンはアドレナリンが最初である(アドレナリン、ノルアドレナリンは、それぞれエピネフリン〔epinephrin〕およびノルエピネフリン〔norepinephrin〕ともよばれる。「副腎皮質ホルモン」参照)。
※編集部注※
当記事は、2017年1月20日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
ホルモンの化学構造|内分泌
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『図解ワンポイント 生理学 第2版』 (著者)片野由美、内田勝雄/2024年7月刊行/ サイオ出版