消化管造影検査|消化器系の検査
『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、消化管造影検査について解説します。
高木 康
昭和大学医学部教授
〈目次〉
- 消化管造影検査とはどんな検査か
- 消化管造影検査の目的
- ・上部消化管造影検査
- ・小腸造影
- 消化管造影検査の実際
- ・上部消化管造影検査
- ・小腸造影
- 消化管造影検査前後の看護の手順
- ・消化管造影検査の患者への説明
- ・消化管造影検査前の処置
- ・消化管造影検査に準備するもの
- ・消化管造影検査後の管理
- 消化管造影検査において注意すべきこと
- 消化管造影検査現場での患者との問答例
- 消化管造影検査に関する患者への説明用資料
消化管造影検査とはどんな検査か
消化管造影検査は、①上部消化管造影、②小腸造影、③注腸造影検査(次項)に分類される。
この検査は造影剤を用いてX線透視下で行われ、写真から診断を行うものである。
消化管造影検査から、患者から多くの協力を得る必要があり、それが画像の質を左右するといっても過言でない。そのため、患者への十分な説明を行って、協力が得られるよう援助していくことが非常に重要なポイントであり、看護師の担う役割は非常に大きいといえる。
近年では、内視鏡検査が発達し、消化管造影検査は少なくなりつつあるが、術前検索や放射線療法、化学療法の効果判定、嚥下障害のスクリーニングなどとして欠かせないものである。
図1上部消化管造影(二重造影像) 胃癌
消化管造影検査の目的
上部消化管造影検査
食道・胃および十二指腸までを検査するものであり、上腹部に症状のある患者、または症状がなくてもリンパ腫や膠原病、貧血、ステロイド剤や鎮痛薬などを使用している患者が対象となる。
食道、胃の炎症・ポリープ・潰瘍の観察、食道癌・胃癌の診断、隣接臓器への腫瘍病変の浸潤や圧迫の観察、十二指腸ではとくに球部における潰瘍、乳頭部における癌の観察、また肝、胆、膵との関連の観察が行われる。
さらに日本人は胃癌の罹患率が高いため、集団検診における検査法の1つとして定期的に広く行われている。
小腸造影
小腸は、その位置する場所から内視鏡検査が技術的に困難であることが多い。
小腸造影により、消化管出血・腹痛・腸閉塞などの原因検索、クローン病・急性腸炎・潰瘍・ポリープ・悪性腫瘍(癌・悪性リンパ腫・肉腫など)の診断を行うことができる。
消化管造影検査の実際
上部消化管造影検査
- ①検査着を着用させる。
- ②検査の目的・方法・注意点について説明する。
- ③検査の5分前には鎮痙薬の筋肉注射を行い、消化管の蠕動運動を低下させる。
- ④検査台へ移動する。
- ⑤医師の指示による量とタイミングで、造影剤と発泡剤を服用させる。
- ⑥造影剤が消化管の全周囲の粘膜に付着するように、体位変換を行う。
- 基本の体位変換:右または左前斜位→立位正面→腹臥位→水平位で360度回転→腹臥位→仰臥位
- ⑦検査中はゲップをしないように説明し、協力が得られるように励ましながら援助する(検査中は胃内のガスを排出しないように我慢しなければならない。ガスが少なくなると、胃の伸展性が失われてしわができるため、病変との判別が困難になるため)。
- ⑧終了後は、口腔内に残っている造影剤を含嗽させ、更衣し、衣類を整える。
小腸造影
- 小腸造影では、抗コリン薬などの鎮痙薬は使用しない。上部消化管造影に引き続き行われる場合においても使用しないので注意が必要である。一般的には、経口で造影剤を服用させる。
- 検査は流れていく造影剤の観察から始まる。腹臥位で行われることが多く、腸管の重なりが強い場合は腹部の下に、薄い枕を置くとよい。
- 上部空腸や回盲部では腹臥位をとり撮影される。
消化管造影検査前後の看護の手順
消化管造影検査の患者への説明
- 造影剤を飲んで、食道・胃・小腸の形を診る検査で、15〜30分で終了する。
- 検査前日は、早めに夕食をとり、検査終了まで飲食は避ける。
- 喫煙は唾液の分泌を促進するため、禁煙する。
- 検査の前に胃の働きを抑える注射をする。口が渇いたり目がチカチカしたりするが、1時間くらいで治まる(小腸造影では行わない)。
- 造影剤を消化管の粘膜に十分に付着させるため、頻繁に体位変換を行う。
- 胃の検査のときは、ゲップを我慢する。ゲップは意識しないと自然に出てしまうため、①立位のとき、②造影剤を飲み、噴門が開くとき、③腹臥位で腹部が圧迫されるとき、④立位で腹部が圧迫されるときは、特に注意する。
- 検査のあとは、水分を多めにとる。
- 検査後6時間は車を運転しない。
- 検査後24時間以上たっても排便がないとき、2〜3日たっても便が白いときは医師に相談する。
消化管造影検査前の処置
- 前日の夕食は消化のよいものをなるべく早めに摂取し、21時以降は何も食べないようにする。
- 検査当日は朝から禁飲食とし、薬の服用や喫煙も禁止する。
- 患者に検査衣を着用してもらう。アクセサリーや下着、湿布などははずし、肩より長い髪は束ねておく。
- 医師の指示により鎮痙薬を投与する(上部消化管検査のみ)。
消化管造影検査に準備するもの
・医師の指示による鎮痙薬
・医師の指示による造影剤
・検査着
・ガーゼ
・膿盆(大)
・発泡剤
消化管造影検査後の管理
- 胃部の膨満感や不快感の観察
- 鎮痙薬による症状の観察
- 口腔内に残っている造影剤を含嗽させ、洗浄する。
- 水分の摂取と緩下剤の服用をさせ、できるだけ早く造影剤を排出させる。
- 鎮痙薬として膵ホルモン製剤を使用したときは、低血糖に注意し、検査終了後早めに軽食や糖分を摂取させる。
消化管造影検査において注意すべきこと
- 妊娠中は禁忌である。
- 前投薬が禁忌の疾患をもっていないか、注意する。
- 禁食を伴う検査であるため、血糖降下薬などを服用している患者には、服用の有無について事前に説明する。
- 鎮痙薬の副作用に注意する。(表1)
- 排便を観察し、バリウム便が出きったことを確認する。バリウムの停滞により、腸閉塞や腸穿孔をひき起こす場合がある。
- 高齢者や体力の低下している患者では、頻回の体位変換で疲労し、転倒などのリスクが高くなる場合があるので、十分に観察する。
消化管造影検査現場での患者との問答例
胃の造影検査中に、ご協力いただきたいことについてご説明します。
どのようなことですか。
検査中に一番大切なことはゲップを我慢していただくことです。ゲップをすると胃の中の空気が少なくなり、正確な結果が出なくなります。
ずっと我慢しているのですか。
検査中ゲップが出やすいのは、立っているとき、造影剤を飲んで胃の入り口が開いたとき、腹ばいのとき、立った姿勢でおなかを圧迫されるときです。ゲップは意識しないと自然と出てしまうので、意識的に我慢してください。
わかりました。
消化管造影検査の患者への説明用資料
説明用資料上部消化管造影検査を受ける患者様へ
この検査は、造影剤を用いて食道や胃、十二指腸の形状や粘膜の変化を調べる検査です。検査中にゲップを我慢していただいたり、何度も体の向きを変えていただきますが、正確な検査を行うためにご協力をお願いします。
<前日>
- 夕食は消化のよいものを早めに摂り、21時以降は禁飲食としてください。
<当日>
- 検査は午前中となります。
- 検査終了までは禁飲食となります。
- 喫煙はしないでください。
- 下着は、ボタンや金属のないものを着用してください。
<検査後>
- バリウムの排出を促すために下剤をお飲みになり、便の色を観察し、排出を確認してください。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版