負荷心電図|循環器系の検査
『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、負荷心電図検査について解説します。
高木 康
昭和大学医学部教授
〈目次〉
- 負荷心電図とはどんな検査か
- 負荷心電図の目的
- 負荷心電図の実際
- ・マスター2階段負荷試験
- ・トレッドミル・自転車エルゴメータ負荷試験
- ・CPX(心肺運動負荷試験)検査
- ・運動負荷中止基準
- 負荷心電図前後の看護の手順
- 負荷心電図において注意すべきこと
負荷心電図とはどんな検査か
負荷心電図とは心臓に負担を加え、安静時心電図ではみられない心電図変化を見出すための検査である。
運動負荷試験には一定の負荷量を開始から終了まで継続して行う「単一段階負荷」のマスター2階段負荷試験と、負荷量を時間ごとに増加させる「多段階負荷」のトレッドミル運動負荷試験と自転車エルゴメータ負荷試験がある。
運動中の心臓の機能と呼気ガス分析から肺の機能を同時に測定する心肺運動負荷試験(cardiopulmonary exercise testing:CPX)も行われ、運動処方の作成に必要な嫌気性代謝閾値(anaerobic threshold:AT)の測定等がなされている。
負荷心電図の目的
負荷心電図の実際
マスター2階段負荷試験(図1)
- 安静時心電図を記録し、異常のないことを確認してから負荷試験を行う。
- 9インチ(23cm)の高さの凸型の2階段を用い、年齢、性別、体重より算出された昇降回数を1分30秒で昇降運動させる(シングル負荷)。
- 回数の2倍を3分で(ダブル負荷)、3倍を4分30秒で(トリプル負荷)も行われている。
- 運動後、直ちに仰臥位で心電図を直後、3分、5分、(10分)と記録し負荷前の状態に回復するまで必要に応じて記録する。
<注意する点>
- 負荷前に、患者との対話(問診)から最近の症状の有無や程度を確認し、危険な徴候を見逃してはならない。
- きわめて簡便であるが運動中の心電図をモニタリングしていないので、負荷中の患者の状態に十分注意し、観察しなければならない。
- 負荷中に患者が胸痛を訴えたときは、負荷を途中で中止し負荷後の心電図を記録する。必要に応じてニトログリセリンを舌下する。
トレッドミル・自転車エルゴメータ負荷試験
- 負荷前安静時の心電図、血圧を記録する。以前の安静時心電図と比べ、著変がないか注意深く確認する。
- 安静時の心電図を4分間測定し、その後運動を始める。
※運動負荷心電図測定装置「STS- 2100」(図4)と併用すること。
1)トレッドミル負荷試験(図2)
- 速度、傾斜が変化するベルト上を歩く負荷法である。Bruceプロトコールをはじめとする種々のプロトコールがある。
- 自転車エルゴメータ負荷試験に比べ、より生理的な運動であり、また大きな運動強度が得られる。
2)自転車エルゴメータ負荷試験(図3)
- ペダルの重さを変えられる固定式自転車をこぐ負荷法である。体重にかかわらず、負荷量の定量性に優れている。
- 20〜25wattから開始し、3分間に25wattずつ増加させるのが一般的である。
- 運動強度を強くしていき、可能な限り本人の限界まで(症候限界)行うことが望ましい。
- 運動終了後は、心電図変化、心拍、血圧が検査前の状態に戻るまで、最低6分間後まで心電図モニターで観察する必要がある。
CPX(心肺運動負荷試験)検査
- 自転車エルゴメータで行う。主にramp負荷法(直線的漸増負荷)を用いる。
- 呼気ガス分析のための専用マスクを装着する。
- 呼気ガスデータより有酸素運動の目安となるATなどを求める。
運動負荷中止基準
診断精度を上げるには十分な負荷が必要であるが、一方では心事故発生を防ぐため適切な運動終点が求められる(表1)。
表1 循環器病の診断と治療に関するガイドライン
(2011年度合同研究班報告)運動負荷の中止基準
負荷心電図前後の看護の手順
1)患者への説明
- 運動負荷試験は運動することにより異常所見を誘発することを目的としているため、ある程度の危険を伴うこともありうる。
- 検査前に検査の目的や危険性に関して患者ないし家族に説明し、理解と協力を得る必要がある。必要以上の無理はしないことの説明も行う。
- 検査時間は約30〜45分である。
2)準備するもの
運動負荷試験(マスター2階段、トレッドミル、自転車エルゴメータ)、心電計、血圧計、呼気ガス分析装置、救急カート、除細動器
3)検査後の管理
- 事故防止のため検査後30分以内には、熱いシャワー、入浴は禁じたほうがよい。
負荷心電図において注意すべきこと
- ①運動負荷中は心停止、心筋梗塞、重篤な不整脈、失神などを起こす可能性も考えられるため、急変時の対応のための設備および薬剤をそろえておく必要がある。
- ②負荷量によっては、危険な状態に陥ることもあるので、必ず医師の立会いのもとで慎重に実施される。
- ③負荷終了後は突然運動を止めずに負荷量を低減させ、1~2分間運動を継続させるクールダウンが必要である。
- ④負荷終了後に一過性血圧低下、徐脈など迷走神経過緊張を認めることがある。この場合、臥位で下肢拳上や副交感神経遮断薬を投与するなど適切な対応を行う。
- ⑤運動しやすい衣類(ズボン)、運動靴で行う。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版