12誘導心電図|循環器系の検査

 

看護師のための検査本『看護に生かす検査マニュアル』より。
今回は、12誘導心電図について解説します。

 

高木 康
昭和大学医学部教授

 

〈目次〉

12誘導心電図とはどんな検査か

心筋細胞が興奮し、収縮するときに微細な電流が発生する。この電気現象を心電計で記録したものが心電図である。患者に苦痛を与えず、簡便に実施できることから、循環器系では最初に行われる検査である。

 

電気的な活動は刺激伝導系と呼ばれ、①洞結節→②房室結節→③ヒス束→④左右脚→⑤プルキンエ線維→⑥心室筋と伝導され、1つの波形として表示される(図1)。

 

図1心臓の刺激伝導系

心臓の刺激伝導系

 

12誘導心電図とは、身体表面の2点間の電位差を記録したもので、電極を付ける位置(電気の流れを観察する方向)が四肢誘導6通り、胸部誘導6通りの合計12通りあることから12誘導といわれている。

 

四肢誘導とは、四肢に4つの電極を付け、心臓からでている電気の流れを右手、左手、右足、左足の間で電位の差をみるものである。四肢誘導は双極肢誘導と単極肢誘導に分けられる(図2)。

 

図2四肢誘導、単極誘導

四肢誘導、単極誘導

 

胸部誘導とは、胸部の各点の電位の差をみることで、より心臓に近い部位の測定をするものである(図3)。

 

図3電極位置(単極胸部誘導)

電極位置(単極胸部誘導)

 

12誘導心電図とモニター心電図の違い

12誘導心電図は、記録しているその瞬間を描写するものである(図4)。

 

図4正常な12誘導心電図波形

正常な12誘導心電図波形

 

そのため、動悸などの発作が起き、記録準備を行い、検査を行う時には症状が改善していることもある。そのため正常としか検査されないということがある。一方、モニター心電図は24時間装着するため、12誘導心電図より、長時間にわたる情報を得ることができる。

 

12誘導心電図の目的

心疾患の存在を示唆する症状(胸痛、動悸、労作時息切れ、欠神など)がある場合や、以下の診断または判定に利用される。

 

12誘導心電図では、①心筋梗塞や狭心症の発生とその部位、②不整脈の種類、③心肥大の有無、軸偏位の判断、④脚ブロックや副伝導路存在の有無がわかる。

 

12誘導心電図の実際

  1. 上半身は脱衣し、靴下を下げて足首を出し、ベッドに仰臥位になってもらう。
  2. 電極装着部位にペーストをつけ、四肢と胸部電極を定められた正しい部位に装着する。電極はシール貼り付け電極、吸着式電極のものがあり、吸着式電極時は密着できるようにペーストを使用する。
  3. 心電計のアースを確実につけて電極を入れ、記録感度は1mV/cm、ペーパー(紙送り)速度は25mm/秒であることを確認する。
  4. 心電図波形が安定してから記録を始める。

 

12誘導心電図前後の看護の手順

12誘導心電図に関する患者への説明

  • 心臓の動きが正常であるか調べる検査で、四肢と胸部に電極をつけるが、痛みはないこと。
  • 記録中は会話、体動、深呼吸をしないこと。
  • リラックスすること。

 

12誘導心電図の検査環境の配慮

  • プライバシー保護のため、ドアやカーテンを閉める。
  • 上半身は脱衣しているため、室温調節をして寒くないようにする。

 

12誘導心電図において注意すべきこと

検査前

  • 尿意の確認をし、排尿を済ませてもらう。
  • 近くにME機器や電気製品がある場合は、交流が混入するので電源を切る。
  • 皮膚の汚れや汗は基線の揺れの原因になるので、アルコール綿やホットタオルで拭いたあとに電極を装着する。

 

検査中

  • 患者の体に触れたり、不必要に話しかけない。
  • 呼吸が深く、胸郭の動きが大きいときは、自然な呼吸をしてもらう。もしくは息を止めてもらう。
  • 通常、記録する場合は、オート設定で記録するが、記録中に不整脈が出現した場合は、マニュアル設定に切り替え、必要な部分の記録をする。
  • オート設定で記録する場合、自動で波高が1/2mVに切り替えられることがある。その誘導はマニュアルで必ず1mV/cmの記録をする。
  • 緊急を要する不整脈やST異常が出現した場合は、ただちに医師に報告する。

 

きれいな心電図の取り方

1)交流障害(ハム)除去方法

  • 心電計用アースとベッド用アース線をつないで1点アースをとる。
  • 電極の皮膚への接着が不十分なときはペーストをつけ、電極のつけ直しをする。
  • 誘導コードの断線が原因のときは誘導コードを交換する。

2)筋電図除去方法

  • 緊張が原因の場合は、リラックスできるような話しかけをする。
  • 寒さに対しては適切な室温にする。またタオルケットなどをかける。
  • 手または足の下にタオルなどを入れて楽な姿勢にする。

3)基線の動揺除去方法

  • インストスイッチを押すと、動揺した基線を中央に戻すことができる。

4)フィルタの使用

  • 交流障害を取り除くハムフィルタ、高域周波数の筋電図を取り除くドリフトフィルタなどは周波数特性に影響を及ぼし、波形の変化をきたすので、通常は使用しないほうが望ましいほうが、緊急時には使用する。

5)心電図ペースト

  • ペーストには電解質が含まれ、電極と皮膚間の分極を少なくする。
  • 分極電圧が発生すると、基線が激しく動揺するアーチファクトとなって現れるので、ペーストを付ける。
  • ペーストの塗りすぎや電極同士の接触による電極間ショートに注意する。

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版

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