凝固・線溶検査|検体検査(血液検査)
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今回は、凝固・線溶検査について解説します。
高木 康
昭和大学医学部教授
〈目次〉
- 凝固・線溶検査とはどんな検査か
- 凝固・線溶検査の目的
- 凝固・線溶検査の方法
- ・活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)
- ・プロトロンビン時間(PT)
- ・フィブリン分解産物(FDP)
- ・Dダイマー
- 凝固・線溶検査前後の看護の手順
- 凝固・線溶検査において注意すべきこと(異常の場合)
- 凝固・線溶検査に関するQ&A
凝固・線溶検査とはどんな検査か
凝固・線溶検査は、静脈から採血した血液を用いて行う。止血に関与する血液凝固因子能と線溶能の検査である。
凝固・線溶検査の目的
出血傾向または血栓傾向を示す患者に対して原因検索のために検査する(図1)。先天性の凝固因子欠乏症の検索(血友病など)や、播種性血管内凝固症候群(DIC)の診断・治療、抗凝固薬治療のモニタリングなどに有用である。
凝固・線溶検査の方法
- 血液凝固線溶スクリーニング検査:血液の凝固機序として血漿内成分のみで進行する内因系(血管内因子)と、血管外の組織因子も関与して進行する外因系(血管外因子)に分けられる(図2)。
- 内因系血液凝固のスクリーニング検査には活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が、外因系血液凝固のスクリーニング検査にはプロトロンビン時間(PT)が行われる。
活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)
- 測定方法:被検血漿に、接触因子を活性化させる試薬(カオリンやエラジン酸など)を含むAPTT 試薬とカルシウムイオンを加えて、フィブリンが析出するまでの時間を測定する。
- 意義:高分子キニノーゲン、プレカリクレン、第Ⅻ因子、第Ⅺ因子、第Ⅹ因子、第Ⅸ因子、第Ⅷ因子、第Ⅴ因子、第Ⅱ因子、フィブリノゲンの異常を反映する。
- 基準値:25〜45秒
プロトロンビン時間(PT)
- 測定方法:被検血漿に、組織トロンボプラスチンとカルシウムイオンを加えて凝固するまでの時間を測定する。
- 意義:第Ⅱ因子、第Ⅴ因子、第Ⅶ因子、第Ⅹ因子の活性の異常を検出する。
- 基準値:10〜13秒、70〜130%、INR1.0〜1.1
〈注意点〉
- 結果の表記方法として秒表示の場合は、患者血漿と正常血漿のプロトロンビン時間(秒)を併記する。例:11.2秒(11.4)
- 経口抗凝固薬の治療管理の場合は、組織トロンボプラスチン力値が違うため、報告者間でPT比の値を比較しにくいので国際標準化比(INR)の表示が優れている。ワーファリン投与中の患
者では2 . 0~3 . 0 が推奨されている。
【INR=(PR)ISI】
- PR(PT比)=患者検体PT(秒)/正常検体PT(秒)
- ISIは国際感度指数で、使用した試薬の活性を国際標準品と比較した数値。
フィブリノゲン・フィブリン分解産物(FDP)
- フィブリンが溶解することを線溶といい、血栓の形成を認めない一次線溶と、形成された血栓を溶解する二次線溶とに区別される。
- FDPはフィブリノゲンとフィブリンの分解産物の総称であり、DICの診断基準の1つである。
- 測定方法:FDPと反応する抗体(抗フィブリノゲン抗体など)を用いて免疫学的手法で検査する。
- 基準値:10 μg/mL 以下(total FDP)
〈注意点〉
- 抗フィブリノゲン抗体、抗D抗体などのポリクローナル抗体を使用する場合は、検体のフィブリノゲンと反応するため血清を使用する。試験管内での線溶を抑えるため、抗プラスミン薬とフィブリノゲンを残存させないためにトロンビンや蛇毒が入っている試験管を使用する。
- フィブリノゲンに交差反応性のない抗FDPモノクローナル抗体を用いた場合は血漿検体で測定可能である。
- ラテックス凝集法では、リウマチ因子により非特異的凝集を起こすことがある。
Dダイマー
- 安定化フィブリンの分解産物である。
- FDPは一次線溶でも二次線溶でも増加するため両者を区別できないが、Dダイマーは二次線溶のみで増加するため、血栓の指標となる。
- 測定方法:Dダイマーに特異的なモノクローナル抗体を用いて免疫学的測定法で検査する。
- 検体は抗凝固剤およびアプロチニンを加えた血漿を用いる。
- 基準値:1.0μg/mL以下
凝固・線溶検査前後の看護の手順
1)準備するもの
- 採血用具一式
- 抗凝固剤(3.2%クエン酸ナトリウム)入り採血管
2)検査前の処置
- 採血はスムーズに行う。皮下で血管を探るような採血では組織液が混入して凝固時間は短縮する。
- 抗凝固剤と1:9の割合で混和し凝固を阻止する。
- 採血後はすみやかに血漿分離し、少なくとも4時間以内に測定する。
凝固・線溶検査において注意すべきこと(異常の場合)
- その他の検査に循環抗凝血素、抗凝固因子、DICの早期診断のための分子マーカーの検査(表1)などがある。
- 先天性凝固因子の欠乏症には、血友病A、血友病B、フォン・ウィルブランド病などがある。
- 広域抗生物質の長期投与、慢性肝実質障害、新生児メレナなどではビタミンK欠乏症のため、出血傾向(出血性素因)をきたす。
- 播種性血管内凝固症候群(DIC)では血小板や凝固因子が減少して、二次的に線溶が亢進する。採点法による診断基準を表2に示す。
- 出血傾向がみられた時の検査と重症度の関係を表3に示す。
表2急性期DIC診断基準
凝固・線溶検査に関するQ&A
Q.凝固検査の採血量が足りないと連絡がありました。どうして検査できないのでしょうか?
A.採血管の抗凝固剤(クエン酸ナトリウム)は水溶液です。血液との混合比が1:9になるように2mLの線まで採取する必要があります。基準値もその混合比で設定されています。採取量は多くても少なくてもいけません。
略語
- APS:antiphospholipid syndrome(抗リン脂質抗体症候群)
- APTT:activated partial thromboplastin time(活性化トロンボプラスチン時間)
- CRP:C-reactive protein(C反応性蛋白)
- DIC:disseminated intravascular coagulation(播種性凝固症候群)
- FDP:fibrinogen and fibrin degradation products(フィブリノゲン・フィブリン分解産物)
- FNG:fibrinogen(フィブリノーゲン)
- HUS:hemolytic uremic syndrome(溶血性尿毒症症候群)
- INR:international normalized ratio(国際標準比)
- ISI:international sensitivity index(国際感度指数)
- ITP:idiopathic thrombocytopenic purpura(特発性血小板減少性紫斑病)
- LAC:lupus anticoagulant(抗凝血素)
- PIC:plasmin・α2 -plasmin inhibitor complex(プラスミン・α2 - プラスミンインヒビター複合体)
- PR:prothrombin ratio(プロトロンビン時間比)
- PT:prothrombin time(プロトロンビン時間)
- SFMC:soluble fibrin monomer complex(可溶性フィブリンモノマー複合体)
- SIRS:systemic inflammatory response syndrome(全身性炎症反応症候群)
- TAT:thrombin-antithrombin-Ⅲ complex( トロンビン・ATⅢ複合体)
- TTP:thrombotic thrombocytopenic purpura(血栓性血小板減少性紫斑病)
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版