栄養療法◆重症でも早期からの経腸栄養を|集中治療はここまで変わった《3》
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栄養療法◆重症でも早期からの経腸栄養を
集中治療医学会は今年3月、「日本版重症患者の栄養療法ガイドライン」を公開した。ガイドラインでは、静脈栄養よりも経腸栄養を勧め、循環動態が安定している患者には、できるだけ早期に経腸栄養を少量から開始することを推奨する。
(加納亜子=日経メディカル)
ガイドラインの作成委員長を務めた兵庫医科大学救急・災害医学講座主任教授の小谷穣治氏は、「特に重症患者では栄養療法が治療の成功に大きく貢献することが多い」と、栄養管理の重要性を説明する。
ただしこれまで国内には、重症患者一般を想定した栄養療法の指針はなく、海外のガイドラインなどを参考に現場の判断で実施されていた。小谷氏は、「国内外のエビデンスを整理し、日本人ならではの指標を示す必要性から作成に至った」と説明する。
24時間以内の開始を目指す
栄養療法に関してガイドラインが推奨する主な内容は(表1)の通り。循環動態が安定している患者には治療開始後24時間以内、遅くとも48時間以内という早期に経腸栄養を少量から開始することを推奨する。
表1「日本版重症患者の栄養療法ガイドライン」の主な内容(編集部まとめ)
早期からの経腸栄養を推奨する目的は「消化管の上皮を萎縮させないこと」と話すのは、ガイドライン作成委員の神應(かんおう)知道氏(北里大学救命救急医学講師)。
消化管の絨毛上皮は使わなければすぐに萎縮する。上皮細胞が萎縮すれば消化・吸収量は減り、腸管内の細菌叢も異常を来しやすくなり、感染症合併のリスクとなる。そのため、極力早期から経腸栄養を開始することが患者の体力回復と合併症予防に必要となり、ICUの早期退室、早期退院にもつながる。
ガイドラインには、経腸栄養と静脈栄養で死亡率に有意差はないものの、前者で感染症の発症が有意に抑えられることが示されている。加えて、病院滞在期間の短縮や医療費の削減効果もあるとされる。経腸栄養の開始時期については、特に外傷、熱傷、膵炎、重症例を対象とした研究のメタアナリシスで、24時間以内の開始が死亡率を有意に下げると報告されている。
来院前低栄養の患者は要注意
循環動態が安定していれば経腸栄養をできるだけ早期から始めることが今回のガイドラインで推奨されたが、患者の栄養状態を適切に評価せずに始めると合併症のリスクが高まるので注意したい。
小谷氏は、「高齢者によく見られる低栄養の状態で経腸栄養を始めるとリフィーディング症候群を発症させてしまう可能性がある。必ず栄養状態を評価した上で開始してほしい」と要望する。
リフィーディング症候群とは、低栄養状態の患者に栄養療法を突然行うことで組織内にブドウ糖や無機リン、K、Mg、水分などが急速に取り込まれ、低リン血症、低K血症、低Mg血症、脱水が生じること。
リスクが高いのは、2~3カ月で10%以上の体重減少があった患者や1週間以上絶食が続いていた患者など。低リン血症が生じれば心肺機能や神経系の合併症につながり、多臓器不全に至る危険もある。「栄養療法を行う上で、栄養状態を事前に評価することが最も重要だ」と神應氏も強調する。
循環動態が不安定な患者が除外されたのは、腸管血流が低下した状態での腸管栄養開始により、血圧低下、腸管虚血、壊死などを生じるリスクがあるためだ。循環動態の安定を待って経腸栄養を開始すべきとされた。
入室1週間は少なめに投与
ガイドラインでは、栄養状態の評価法として来院時の栄養スクリーニングを推奨するが、信頼性の高い評価指標はないとして、現場に判断をゆだねる。神應氏が所属する北里大学病院救命救急・災害医療センターでは、看護師や管理栄養士が来院時に栄養評価するなどのプロトコルを定めている(図1)。食事量の低下や吐き気・嘔吐の有無、体重変動の有無などの10項目を聴取し、2項目以上が当てはまれば低栄養の可能性があると考える。
図1北里大学病院救命救急・災害医療センタ―における栄養療法のプロトコル(神應氏による)
このような主観的な評価に加えて、客観的なデータを用いた評価も行っている。身体計測でBMI(体格指数)を求め、点滴導入前に採血を行うことをスタッフ間で徹底している。得られた血算では特にアルブミン、プレアルブミン、無機リン、総コレステロール、亜鉛の値に気を配るが、「複数の検査値を総合的に評価している」と神應氏は話す。
栄養評価を行った後は、栄養剤の目標投与量を決める。目標エネルギー必要量はハリス・ベネディクトの推算式や、実体重×25~30kcal/kg/日の計算結果、間接熱量計での評価などを用いて各患者で算出する。そして、ICU入室後1週間は過剰投与とならないよう、慎重に投与量を定めて、少しずつ増量していく。
消化管機能に問題がないと予想される症例では、100mL×4回/日の栄養剤とグルタミン、整腸剤の投与を検討するが、絶食が続いていたなどリフィーディング症候群を来す可能性がある症例では、50mL×4回/日から慎重に開始することが多いと神應氏は話す。開始後は週1回採血して栄養評価を行い、継続的にプレアルブミンや総コレステロールなどの推移を見る。
経腸栄養を行う上で気を付けるべき合併症には、誤嚥や下痢、消化吸収障害もある。重症患者は痛みや不快感を訴えられないため、「禁忌ではないが、血管作動薬投与中の経腸栄養は、虚血性腸炎を生じ得ることを念頭に置き、血圧などバイタルサインの変動や、便の性状などに特に注意を払って経過観察する必要がある」と小谷氏は注意を喚起する。
注意すべき合併症があるものの、「栄養療法を適切に実施すれば治療効果は格段に良くなる。患者ごとにどのような処置が適切かを考えながら、ガイドラインを参考に診療に取り組んでほしい」と小谷氏は話している。
<掲載元>
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