呼吸管理◆うつ伏せでARDSの死亡率が半減|集中治療はここまで変わった《2》

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呼吸管理◆うつ伏せでARDSの死亡率が半減

「成人ARDS(急性呼吸窮迫症候群)患者(特に中等症・重症例)において、腹臥位管理を施行することを提案する」──。

 

2016年7月に公表された日本呼吸器学会など3学会による「ARDS診療ガイドライン2016」では、エビデンスのある治療として初めて、患者をうつ伏せにする腹臥位管理が推奨された(写真)。

 

フローティングベッドを使用した完全腹臥位管理の様子

(写真) フローティングベッドを使用した完全腹臥位管理の様子(提供:札幌医大)

 

(末田聡美=日経メディカル)

 

ARDSの死亡率は40~50%と高率だが、有効性が証明されている治療は従来、人工呼吸器の1回換気量を健常肺の容量に見合った6mL/kg(予測体重)と低く設定する、FiO2(吸気中酸素濃度)に応じてPEEP(呼気終末陽圧)は高めに設定する──といった肺保護戦略のみだった。

 

そのような状況の中、2013年に腹臥位管理で重症ARDS患者の死亡率が半減するという研究成果が海外で報告された。このPROSEVA studyは、重症ARDS患者に対して肺保護戦略に加えて、1日16時間以上の腹臥位管理を4日間程度行った群と行わなかった群を比較したもので、28日死亡率は16.0%、32.8%、90日死亡率は23.6%、41.0%と、どちらも腹臥位管理を行った群の死亡率が有意に低下した。

 

「以前から腹臥位管理で酸素化が改善するという報告はあったが、生命予後を改善するデータが出たのは初めて。インパクトは大きかった」。1990年代から札幌医科大学附属病院などで腹臥位管理を行ってきた東京医科大学麻酔科学分野・集中治療部教授の今泉均氏はこう評価する。

 

マンパワー確保が必須

ARDS診療ガイドラインは、8つのランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスで「腹臥位管理は成人ARDS患者の死亡を有意に減少」と明記。「安全に実施可能な施設が増えるように、マンパワーの確保やスタッフの教育など、実施に向けた体制を整えていくことが重要」と結論付けた。

 

腹臥位管理の狙いは次の通り。仰臥位では腹圧によって背側肺底部は拡張しづらくなるものの、重力の影響で血流が集まるため酸素化障害を起こす。また、背側肺底部は心臓や肺そのものの重さによって無気肺を生じやすいなど、様々な要因からARDSでは背側肺病変が多い。

 

一方、前胸部は荷重が掛からないため空気は入りやすいが、人工呼吸器管理下では前胸部の健常肺ばかりに強い圧が掛かり過膨張となり、健常肺の障害が生じるリスクが増す。腹臥位にすることで、背側肺底部の肺胞の拡張、換気血流比の改善、体位ドレナージ効果などによる病態の改善効果が期待できる。

 

適応は、中等症・重症例のARDSで背側肺病変があるケース。ガイドラインで詳細な適応は示していないが、表1が参考になる。「循環動態が不安定な患者は、血圧低下などの恐れもあり適さない」と今泉氏は話す。

 

表1 PROSEVA studyでの腹臥位管理の適応

PROSEVA studyでの腹臥位管理の適応

 

実施時間や日数については、「16時間を4日間程度行うことが多く、短時間では背側肺病変の改善にはあまり効果がないと実感している」と今泉氏。実際には、血液ガス分析や肺エコー、CT所見などで改善度を確認しながら日数を決めている。

 

多数のチューブが付いた状態で腹臥位へ体位変換するには5~6人のマンパワーが必要だ。今泉氏は看護師の勤務交代の時間帯でスタッフ数が多いときに実施している。腹臥位管理中に、挿管チューブが屈曲したり抜けるなどの気道トラブルのリスクもあるため、気道確保を行えるスタッフが24時間常駐していることも実施には不可欠になる。

 

<掲載元>

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