敗血症に新定義、SIRSよりも臓器障害を重視―ICU外での敗血症を把握する「qSOFA」登場

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トレンド◎米国集中治療医学会が敗血症の定義第3版(Sepsis-3)を発表

米国集中治療医学会は今年2月、敗血症と敗血症性ショックの定義を15年ぶりに改訂した。新定義は、「感染に対する宿主生体反応の調整不全で、生命を脅かす臓器障害」。これまで使用していた「重症敗血症」という用語を廃止し、臓器障害を重視する。さらに、ICU(集中治療室)以外の現場で敗血症を把握するための新たなスコア、「qSOFA」も導入した。この新定義に対する専門家の評価、現場への影響を聞いた。

(増谷彩=日経メディカル)

 

米国集中治療医学会が発表した新定義は、「敗血症および敗血症性ショックの国際コンセンサス定義第3版(Sepsis-3)」。藤田保健衛生大学麻酔・侵襲制御医学講座主任教授の西田修氏は、「敗血症において、集中治療の対象となる病態は、『感染によるSIRSが起きている人』ではなく、『感染により臓器障害が起きている人』。その点で、新定義は利にかなっている」と評価する。 

 

藤田保健衛生大学の西田修氏

「敗血症の新たな定義は非常に利にかなっている」と話す藤田保健衛生大学の西田修氏。

 

集中治療の対象となる病態に絞る

敗血症の新定義は、「感染に対する宿主生体反応の調整不全で、生命を脅かす臓器障害」。1991年の定義第1版の「感染による全身性炎症反応症候群(SIRS)」、2001年の定義第2版の「感染症に起因する全身症状を伴った症候」に比べ、臓器障害が重視されている。

 

第2版までは、敗血症と別に「臓器障害を伴う敗血症」と定義されていた「重症敗血症」があったが、今回、その用語は廃止された。そのため、新定義の敗血症は、旧定義の重症敗血症に近い概念となる。しかし、旧・重症敗血症がそのまま敗血症に置き換わったわけではない。旧・重症敗血症は、SIRSの有無が重視されていたため、「臓器障害を伴うものの、感染によるSIRSを呈さない症例」は含まれなかった。新定義の敗血症の中には、臓器障害を伴うものの、感染によるSIRSを呈さない症例が12.1%含まれる(Kaukonen KM, et al. N Engl J Med. 2015 Apr 23;372:1629-38.)。つまり、新定義の敗血症では、旧・重症敗血症では拾い上げられていなかった1割程度の症例を拾い上げられるようになったとされているのだ。

 

また、従来の定義では生体の反応が重視されていたことから、敗血症を判別する考え方として「感染症+SIRS」が浸透していた。SIRSは、体温や脈拍呼吸数、白血球数などから全身生体反応を把握するための臨床概念で、必ずしも致死的な反応ではない。旧定義では、例えば通常のインフルエンザなども「敗血症」とされる可能性があった。

こうした課題を解消すべく、新定義では臓器障害を重視。新定義での敗血症は、冒頭の西田氏のコメントのように、集中治療の対象となる病態に絞られた格好だ(図1)。

 

図1●臓器障害、感染、全身炎症反応症候群(SIRS)と敗血症の定義の概念図(西田氏による)

臓器障害、感染、全身炎症反応症候群(SIRS)と敗血症の定義の概念図

 

西田氏は、「新定義が本当に旧定義の課題を解消できるのか、集中治療を要する患者をどれだけ正確に拾い上げられるのかといったことを、日本でも今後検証していく必要がある」と続ける。 

 

診断基準には、臓器障害の程度を示す指標であるSOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコア(表1)が採用された。SOFAスコアがベースラインから2点以上増加すれば、敗血症として診断される。SOFAスコアによくある誤解として「ベースラインとすべきは健常時。ICU入室時のスコアから2点以上増加するまで待てという意味ではない」と西田氏は指摘する。ICU入室時に既に2点以上増加しており、敗血症と診断できる場合もあるということだ。 

 

表1●SOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコア(出典:Singer M, et al.JAMA. 2016; 315:801-10.)

6臓器の障害の程度を、それぞれ0~4までの5段階で評価する。臓器ごとの点数と、これらの合計点で重症度を表す。

SOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコア

 

血液検査なしで敗血症を簡単に把握するスコアが登場

新たに、ICU外で敗血症をスクリーニングするための「quick SOFA(qSOFA)スコア」が導入されたのも、今回の発表の特徴の1つだ(表2)。 

 

表2●quick SOFA(qSOFA)スコア(Singer M, et al.JAMA. 2016; 315:801-10.より編集部にて作成)

各項目を1点とし、2点を超えれば集中治療が必要だと判断する。

●quick SOFA(qSOFA)スコア

 

qSOFAスコアでは、各項目を1点とし、qSOFAスコアが2点以上であれば敗血症を疑う。qSOFAスコアは、血液検査などをしなくても判断できる。簡便ながら、ICU外で感染が疑われる患者に対してはSOFAスコアよりも死亡予測能が高いと報告されている(Seymour CW, et al.JAMA. 2016;315:762-74.)。

 

 

識別能を検証していく必要はあるが、集中治療を要する患者が、より早期にICUに収容されることが期待されている。早期の把握が治療成績に直結する敗血症では、ICU外で確実に拾い上げる意義が大きい。2点を超えれば集中治療が必要だと判断し、臓器障害の評価を行うことが推奨されている(図2)。

 

図2●敗血症および敗血症性ショックの判別手順(出典:Singer M, et al.JAMA. 2016; 315:801-10.) 

敗血症および敗血症性ショックの判別手順

 

もっとも、qSOFAスコアによる判断はあまり厳密にしすぎないよう、西田氏は注意を呼び掛ける。

「そもそも挿管されている患者など、精神状態が判断しにくい場合もあり得るし、各項目のカットオフ値にこだわりすぎるべきではない。呼吸回数が21回/分だから問題ない、とするのはかえって不自然。2点以上にならない場合でも、感染によって全身状態が悪化しており、敗血症が疑われる場合はSOFAスコアで臓器障害を評価すべきだ」(西田氏)。

 

なお、2016年中の完成を目標として作成が進んでいる「日本版重症敗血症診療ガイドライン2016」では、西田氏が作成特別委員会委員長を務める(関連記事:日本独自の敗血症ガイドラインを作る意義)。このガイドラインの敗血症の定義も、Sepsis-3に合わせるという。 

 

一般病棟での敗血症の早期補足に期待

qSOFAスコアの導入は、現場にどのような影響をもたらすのだろうか。

「ICU外の場での診断基準が新たに定義されたことで、一般病棟の看護師なども敗血症を意識せざるを得なくなり、より早期に補足できるようになるのではないか」。東京ベイ・浦安市川医療センター(千葉県浦安市)集中治療科部長の則末泰博氏は、こう期待する。

 

東京ベイ・浦安市川医療センター(千葉県浦安市)の則末泰博氏

「qSOFAスコアをきっかけに、一般病棟の看護師が呼吸数を記録する文化が根付いてほしい」と語る東京ベイ・浦安市川医療センター(千葉県浦安市)の則末泰博氏。 

 

入院患者の異常時に、最悪の事態を避けるために専門チームを呼ぶかどうかを判断する基準である院内救急対応システム(Rapid Response System;RRS)には、呼吸数が含まれていることが多いが、「体温や脈拍を記録しても、呼吸数は記録しないという看護師が少なくない」(則末氏)。

 

「qSOFAに呼吸数が含まれていることで、きちんと記録する文化が根付き、RRSが適切に発動されるようになるのではないか」と則末氏はみている。 

 

一方、敗血症の定義が変わったことについては「研究に対するインパクトは大きいが、ICU内のプラクティスには影響しない医療機関がほとんどなのではないか」と則末氏はみる。「感染の有無、臓器障害の程度、循環動態の3点を意識するのは、旧定義でも新定義でも同様。日頃の診療において、感染は病歴、バイタルサイン、検査値などから総合的に判断するし、感染があれば臓器障害のスコアが1点でも治療を開始する」(則末氏)からだ。

 

Sepsis-3でICUのプラクティスに唯一影響を及ぼす可能性があると則末氏がみるのが、敗血症性ショックの診断基準だ。「敗血症で輸液負荷にも反応しない収縮期の低血圧」という旧基準から、新基準では「適切な輸液負荷にもかかわらず、平均動脈圧65mmHg以上を維持するために循環作動薬が必要で、血清乳酸値が2mmol/L(18mg/dL)を超えるもの」と、具体的な計測値と血清乳酸値が加わった。そのため、「敗血症を疑った場合に血清乳酸値を見ることがルーチンになっていない医療機関があれば、そこは変更されるだろう」と則末氏は話している。 

 

 

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