病院の診療科によって変わる「7対1」維持力

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2016年度診療報酬改定から1カ月ほどがたった。多くの病院では経営者や事務職員を中心に、新報酬への対応や経営戦略の練り直しに追われているに違いない。

(土田 絢子=日経ヘルスケア) 

 

今改定の最大の目玉は、7対1入院基本料の施設基準に盛り込まれている「重症度、医療・看護必要度(以下、看護必要度)」の見直しだ。評価項目が変わり、基準値が大きく引き上げられた。その結果、病院がどのような診療科を持つかによって看護必要度の満たしやすさが決まる傾向が強まっている。

 

具体的な見直しの内容は、図1の通り。

 

図1 2016年度改定による看護必要度の見直し

図1 2016年度改定による看護必要度の見直し(『日経ヘルスケア』2016年4月号より) 

 

A項目やB項目で評価項目の追加や削除がなされ、外科手術・救急医療関連のC項目が新たに導入された(図2)。その上で、「A項目2点以上かつB項目3点以上」「A項目3点以上」「C項目1点以上」のいずれかを満たす患者割合の基準値が、従来の「15%以上」から「25%以上」に引き上げられた。なお、200床未満の病院で7対1・10対1の病棟群単位による届け出を行わない場合は2018年3月31日まで「23%以上」に緩和される。

 

図2 C項目で評価される手術の内容(『日経ヘルスケア』2016年4月号より)

図2 C項目で評価される手術の内容(『日経ヘルスケア』2016年4月号より)

 

これらの変更内容を見てお分かりのように、外科手術や救急医療が手厚く評価されたために、それらに強みのある病院では看護必要度の値が高くなりやすくなった。

実際の病院における影響を見てみよう。

 

X整形外科病院(図3)は、整形外科専門で7対1病棟を110床持つ200床未満の病院だ。看護必要度は、改定前後で15.1%から24.9%に上昇した。同院は従来の看護必要度では「15%以上」の要件をギリギリ満たしている状態だった。年間約2700件の整形外科手術を実施しているが、患者のADLはある程度自立しており専門的な内科治療もあまり必要ではないため、A項目2点以上かつB項目3点以上に該当する患者が少なかったのだ。

 

図3 X整形外科病院における看護必要度の変化

図3 X整形外科病院における看護必要度の変化(『日経ヘルスケア』2016年4月号より) 

 

新基準では、骨に関する手術や全身麻酔・脊椎麻酔の手術といったC項目の評価項目が設けられ、該当患者の要件として「C項目1点以上」が加えられたために、改定後に看護必要度が24.9%まで上昇した。X整形外科病院の事務長は「改定の方向性によっては10対1へのランクダウンも覚悟していたが、C項目の導入によって救われた」と胸をなで下ろしている。 

 

X整形外科病院とは対照的に、新・看護必要度によって大きな打撃を受けそうなのがY内科病院だ(図4)。7対1病棟46床と地域包括ケア病棟30床のほか、医療療養病棟を持つ200床未満の同院は、外科手術や救急医療をあまり手掛けていないため、看護必要度の見直し前後で患者割合の値があまり変わらなかった。

 

図4 Y内科病院における看護必要度の変化

図4 Y内科病院における看護必要度の変化(『日経ヘルスケア』2016年4月号より) 

 

夏季は呼吸器疾患患者が減るために「呼吸ケア」や「心電図モニターの管理」といったA項目2点以上に該当する患者が減り、看護必要度は16.7%になる見通しだ。これでは200床未満の基準「23%以上」を満たせない。

 

そこでY内科病院は7対1病棟の維持を諦め、10対1病棟に転換することを決めた。病棟転換によって月1000万円規模の減収を見込むが、医療療養病棟から地域包括ケア病棟への転換や各種加算の算定によって補う考えだ。

 

 

これらの例のように、病院が強みとする診療科のラインナップによって「7対1維持力」は大きく変わる。新・看護必要度は、外科手術や救急医療に弱い病院だと満たしにくい。「一般病棟入院基本料の上位ランクである7対1入院基本料を算定するのにふさわしい病院は、外科手術や救急医療にもある程度強い施設だ」という厚生労働省のメッセージと捉えることもできる。

 

従来、7対1入院基本料は看護職員の配置人数といったストラクチャーによって算定の可否が決まり、多くの病院が7対1入院基本料を算定した。これにより7対1病床数は増え過ぎ、中には高度急性期を担う病床とは言い難いケースも含まれているとされ、適正化の手法の一つとして厚労省は看護必要度に着目。7対1病棟に入院する患者の重症患者像を定義し、その重症患者割合を指定した。この手法は「当たった」と言っていいだろう。

 

看護必要度を厳格化した2014年度改定以来、Y内科病院のように看護必要度が満たせないという理由で病棟転換するケースがチラホラ出てきており、7対1病棟を持つ病院経営者層の意識はかなり変化してきている。「以前は病床を埋めていればよかったが、今は平均在院日数を短くして病床回転率を高めないと重症患者割合が低くなり、看護必要度の基準を満たせない」という言葉を多くの病院経営層から聞く。

 

実は、7対1病床数自体は2014年3月から1年後に約1.6万床減と、あまり減っていない(ちなみに1年半後には7対1病床数が若干増えて約37万床となった)。しかし、看護必要度の見直しは経営層に甚大なインパクトを与え、効率的な医療提供が意識され始めている。このこと一つ取っても看護必要度の手法は当たったと言っていいはずだ。今改定の影響を検証するのはまだ早いが、7対1病床数に関しても、今後は、看護必要度の見直しを受けてさらに減っていくかもしれない。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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