CLABSI予防にクロルヘキシジン被覆材が有効|院内感染対策の新常識
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カテーテル由来血流感染(CRBSI)の中でも、中心静脈ライン関連血流感染(CLABSI)は、絶対に防がなければならない。中心静脈カテーテルは、主として抗癌剤や高カロリー輸液の投与に使用されることが多く、ひとたびCLABSIを発症してしまうと全身状態が悪化して予後不良になりやすいからだ。原因菌としては皮膚表面のブドウ球菌が多い。
(満武 里奈=日経メディカル)
長年、CLABSI対策として行われてきたのが、カテーテル刺入部のポビドンヨードによる皮膚消毒だ。だが、近年になってポビドンヨードに代えて、クロルヘキシジン(CHG)アルコールという皮膚表面への残留活性が高い消毒薬を使用する施設が増えてきた。
国内外で、ポビドンヨードよりもCHGアルコールを使用することでCRBSIが有意に抑制されたエビデンスが複数報告されている。
CDCが2011年に改訂した「血管内留置カテーテル由来感染予防のためのガイドライン」では、0.5%を超えるCHGアルコールを推奨。国内でも、2016年に発刊された「輸液カテーテル管理のための実践基準」が0.5%超のCHGアルコールを第一選択として記載している。
ただし、「過去にCHGを用いた抗菌カテーテルによるアナフィラキシーが日本人で報告されたためか、我が国では高濃度のCHG溶液があまり使われておらず、市販品の種類も少ない」と名古屋大学附属病院中央感染制御部教授の八木哲也氏は指摘する。
八木氏の施設では、感染対策の一環として、中心静脈カテーテル挿入時の消毒薬を10%ポビドンヨードから1%CHGアルコール溶液に切り替えた。
カテ刺入部に被覆材を貼付
近年は、CHGを含有した被覆材によるCLABSI対策が注目を集めている。国内ではCHG含有被覆材として、CHG含有スポンジとCHG含有ドレッシングが、それぞれジョンソン・エンド・ジョンソン、スリーエムジャパンから販売されている。
CHG含有スポンジは、CHG含有のポリウレタンスポンジとそれを覆うポリウレタンフィルムからなる円形のパッド(図)で、カテーテル刺入部の周りを覆うように貼付にする。貼付後は滅菌の透明フィルム被覆材でカテーテルとCHG含有スポンジを覆い、7日おきに被覆材とともに交換する。
図 CHGスポンジ「バイオパッチ」使用のイメージ図(編集部による)
バイオパッチは、CHGを含有するポリウレタンスポンジとそれを覆うポリウレタンフィルムからなる円形のパッド(直径は1.9~2.5mm)。
一方のCHG含有ドレッシングは、あらかじめ被覆材とCHGゲルが一体となっている形状が特徴で、カテーテル刺入部の周りにCHGゲル部分が重なるように貼付する(写真)。
写真 3MテガダームCHGドレッシングを装着している様子(提供:スリーエムジャパン)
同製品はあらかじめ被覆材とCHG含有ゲルが一体となっている。
どちらも特定保険医療材料としての保険償還はないが、国内外のガイドラインで推奨されたことで、その存在が徐々に知られるようになった。
2011年に改訂されたCDCガイドラインでは、基本的な感染予防策にもかかわらずCLABSIの院内感染率が低下しない場合、生後2カ月以内の乳児を除き、CHG含浸のスポンジドレッシングの短期使用を新たに推奨(カテゴリーIB)。2013年の国立大学病院集中治療部協議会ICU感染制御CPG改訂委員会の「ICU感染防止ガイドライン」でも使用が推奨された。
CHG含有被覆材の導入が特に有効なのは、CLABSI発生リスクが高い診療科だ。名古屋大病院では、約8年前からICUと心臓血管外科の全患者、そして術後に高カロリー輸液を投与する消化器外科の患者を対象に使用している。八木氏は、「感染症を合併すると死亡リスクが高まるICU患者にはCHG含有被覆材の使用が推奨される。だが、コストが掛かるため、どうしても感染率が下がらないときに検討してみてはどうか」と話す。
気を付けたいのが使用法。せっかく導入しても、使用法を間違ってはその効果は発揮されない。2012年からCHG含有スポンジを導入し、中心静脈カテーテル患者に使用している滝川市立病院(北海道)の感染管理認定看護師の工藤ゆかり氏によると、刺入部から離れた部位にCHG含有スポンジを貼付したり、表裏を逆に貼ったりするケースが散見されるという。
もちろん、被覆材導入とともにこれまでの感染対策を見直すことも不可欠だ。同病院泌尿器科・透析センター診療部長の松川雅則氏は「導入の際に、これまでの感染対策法を同時に見直すことで職員の意識が高まり、徐々に感染率が低下する」と指摘する。
閉鎖式への過信に注意
なお、CRBSI対策を考える上では側注デバイス対策も忘れてはならない。
従来、点滴ラインに薬剤を側注する際には三方活栓が使用されてきたが、感染制御の観点から、「閉鎖式」と呼ばれるニードルレスコネクターが使用されるようになってきた。それまで感染対策として側注はできるだけ行わない方がいいと考えられていたが、「閉鎖式だから微生物は侵入しない」と考え、安易に側注を実施するケースが増加。その結果、感染リスクが高まっているという。
「もともとニードルレスコネクターを『閉鎖式』と訳すのは適切でない。欧米では針刺し防止を目的に開発されたもので、感染防止対策は二義的。しかし、日本に導入された際、『ニードルレスコネクターは閉鎖式だから、これを使えば微生物は侵入しない』と単純に考えられ、かえってCRBSIが増えたという報告もある」と大阪大学国際医工情報センターの井上善文氏は指摘する。
井上氏は国内に流通するニードルレスコネクターを対象に、細菌の侵入に関する実験を実施。機種によって細菌侵入阻止能が異なり、条件によっては高率に微生物が侵入する機種があることを報告している。「ニードルレスコネクターを使えばCRBSIが防げるわけではない。機種の特徴を十分に理解した上で、厳重な無菌管理を心掛けて使用すべきだ」と井上氏はアドバイスする。
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