急性心不全症状の対応

『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は急性心不全症状の対応について解説します。

 

中嶋ひとみ
集中ケア認定看護師
新東京病院看護部

 

〈目次〉

 

 

心不全の多くは急性心不全状態からはじまる

実際に心不全で入院となる患者さんは、どのような様子でしょうか。息苦しい、ゼイゼイした呼吸をしている、手足が冷たい、チアノーゼがあるなど循環・呼吸に関連した症状があり、とても苦しい状態(急性心不全状態)です。

 

心不全で入院が必要となる患者さんの多くは、どの病期にあっても急性心不全症状があります。

 

 

 

急性心不全の初期対応

急性心不全では複雑な病態を考えるより、まず、血圧を参考として病態を分類し、初期対応をします。急性心不全の初期対応にクリニカルシナリオ分類があり、この分類によって早期治療を開始して、その後、病態を把握します(表1)。

 

表1急性心不全の初期対応におけるクリニカルシナリオ(CS)分類とおもな治療

急性心不全の初期対応におけるクリニカルシナリオ(CS)分類とおもな治療

 

循環の改善・維持と十分な酸素化が、予後の改善につながります。

 

 

 

初期対応の後は病態把握~治療へ

初期対応後の病態把握には、心不全の重症度分類であるNohria-Stevenson(ノーリアスティーブンソン)分類を使用し、治療方法を検討します。

 

Nohria-Stevenson分類(図1

スワンガンツカテーテルで測定するForrester(フォレスター)分類図2)に準ずる分類で、触診(低灌流所見:末梢循環)と聴診(うっ血所見:呼吸音)、視診で評価するので、心不全の患者さんのリスクプロファイルにすぐれています。


 

図1Nohria-Stevenson分類と治療方針

Nohria-Stevenson分類と治療方針

 

※1 低灌流所見
※2 うっ血所見

 

Forrester分類(図2

スワンガンツカテーテルを挿入し、心係数(CI)・肺動脈楔入圧(PAWP)を測定して評価します。病型が進行するにつれ、死亡率が上昇します。

 

末梢循環の維持にはCI 2.2L/分/m2が必要です。

肺うっ血は、PAWP18mmHg以上で発症します。

図2Forrester分類

Forrester分類

 

 

 

初期対応から治療決定まで

急性心不全では急速に心原性ショックや心肺停止に移行する可能性があり、逼迫した状態といえます。そのため、臨床ガイダンスを参考に作成したフローチャートをもとに早期に治療を開始し、循環動態と呼吸状態の安定化を図る必要があります(図3)。

 

図3急性心不全に対する初期対応から急性期対応のフローチャート

急性心不全に対する初期対応から急性期対応のフローチャート

 

日本循環器学会:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版).(2020年1月閲覧)より転載

 

★1 急性冠症候群

 

・ 病院到着時に心肺停止状態である場合は、すみやかに二次救命処置(ACLS)を行います。
・ 最初の10分以内で「トリアージ」の項目を中心に状態を把握し、心原性ショックの有無、呼吸不全の有無を見きわめます。強心薬に反応しないショック状態や血行動態が不安定な場合、重症呼吸不全が改善しない場合は、ICU/CCUへの入院、補助循環(IABP、PCPS)サポートを行います。
・ 急性冠症候群、急性肺血栓塞栓症はそれぞれの診断がつき次第、その疾患の治療をすみやかに開始します(心不全に対する急性期フローチャート除外)。
・ 次の60分以内では各種検査、病歴(心不全治療歴、既往歴、安定期のバイタルサイン、心機能)の把握、各種結果を評価し、治療を継続します。
・心原性ショックでは動脈血ガス分析を行い、SpO2<90%またはPaO2動脈血酸素分圧)<60mmHgの患者さんに対しては、酸素療法を行います。酸素投与後も呼吸困難の継続、SpO2<90%、呼吸数>25回/分の場合は陽圧呼吸(NPPV)を開始し、それでも改善しない場合は気管挿管が推奨されています。
・ 血行動態、呼吸状態の安定している心不全の場合は、血管拡張薬、利尿薬の投与を行います。
・ 次の60分以内では初期治療の再評価を行い、治療の修正を図ります。
・ 心不全が改善しない場合は、ICU/CCUへの入院、改善した場合は一般病棟への入院または帰宅となります。

 

 

 

急性期治療(集中治療室での治療)

ICU/CCU入室後、心不全症状、体重変化を含むうっ血評価、体液バランス、病態の変化と各検査(血液検査動脈血ガス分析]、X線撮影、心エコー)から治療効果を再評価しながら治療を進めます。

 

モニタリング(心電図、動脈圧モニター、心機能モニター)を継続し、心不全の悪化に注意します。

 

安静度は、心不全症状、循環動態の変動、各検査データを評価しながら段階的に上げます。

 

 

 

急性心不全治療~慢性期治療

状態が安定し、ICU/CCUから一般病棟へ転棟した後も、原因疾患の治療を行います(表2)。急性期から慢性期にかけての目標の治療を継続します。

 

表2急性心不全患者さんの慢性期に向けての治療

急性心不全患者さんの慢性期に向けての治療

 

日本循環器学会:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版).(2020年1月閲覧)より転載

 

経口摂取開始後は塩分制限※3、飲水制限を行い、体重の変化に注意します。

 

 

 

退院へ向けての疾患管理

心不全の疾患管理は、心不全増悪の予防、生命予後やQOL改善に有用です。

 

疾患管理は、医療チーム(医師、看護師、薬剤師、理学療法士、栄養士、ソーシャルワーカー)で行います。疾患管理の内容は、アドヒアランスとセルフケアを重視した患者教育、塩分・水分管理、栄養管理、感染予防、身体活動(包括的心臓リハビリテーション)です。

 

 

 

心不全の運動療法(包括的心臓リハビリテーション

心不全の患者さんは、原因疾患や重症度がさまざまなため、運動療法は医師の運動処方に従って慎重に実施します。

 

開始時は心電図モニター監視下、ベッドサイドで行い、安全性が確認されたのちにリハビリテーション室、在宅運動療法へ移行します。

 


[memo]

  • ※1 低灌流所見(上へ戻る
    ・小さい脈圧
    ・四肢冷感
    傾眠傾向
    ・低ナトリウム血症
    ・腎機能の悪化
  • ※2 うっ血所見(上へ戻る
    ・起座呼吸
    ・頸静脈圧の上昇
    ・浮腫
    腹水
    ・肝頸静脈の逆流
  • ※3 減塩目標(上へ戻る
    ・6g/日 
    ・ステージC・Dの場合:3g/日

 


文献

  • 1)Yancy CW, Jessup M, Bozkurt B, et al. 2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure:a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on practice guidelines. Circulation 2013;128:e240-e327.
  • 2)Ponikowski P, Voors AA, Anker SD, et al. Authors/Task Force Mem-bers. 2016 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure:The Task Force for the diagnosis and treat-ment of acute and chronic heart failure of the European Society of Cardiology( ESC). Developed with the special contribution of the Heart Failure Association(HFA) of the ESC. Eur J Heart Fail 2016;18:891-975.
  • 3)日本循環器学会:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版).(2019.09.01アクセス)
  • 4)日本循環器学会:心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版).(2019.09.01アクセス)
  • 5)日本循環器学会:循環器疾患における末期医療に関する提言(2010年).(2019.09.01アクセス)
  • 6)2013 ACCF/AHA Guideline for the Management of Heart Failure:Executive Summary.(2019.09.01アクセス)
  • 7)加藤真帆人:心不全とはなんだろう?~慢性心不全という新しい概念とその管理~.日大医誌 2015;74(4):153-160.(2019.09.01アクセス)
  • 8)市田聡:ハート先生の心不全講座 改訂第三版.医学同人社,東京,2018.
  • 9)堀正二監修,坂田泰史編:図解 循環器用語ハンドブック 第3版.メディカルレビュー社,大阪,2015.10. 葛谷恒彦,堀正二:主な循環器疾患の診断・管理治療. 標準循環器病学 第4版,小川聡,井上博編,医学書院,東京,2007.
  • 10)葛谷恒彦,堀正二:主な循環器疾患の診断・管理治療. 標準循環器病学 第4版,小川聡,井上博編,医学書院,東京,2007.
  • 11)長谷部直幸,菊池健次郎:本態性高血圧症.小川聡,井上博編,標準循環器病学 第4版.医学書院,東京,2007:335-341.
  • 12)岡田隆夫:循環系の調節.小澤瀞司,福田康一郎監修,本間研一,大森治紀,大橋俊夫 他 編:標準生理学 第8版.医学書院,東京,2014:630-631.
  • 13)厚生労働省:第4回心血管疾患に係るワーキンググループ 資料2 心血管疾患の医療提供体制のイメージ.(2019.09.01アクセス)
  • 14)小田切菜穂子:慢性心不全患者の特徴と療養上の課題.循環器ナーシング 2014;4(10):6-15.
  • 15)宮下光令,柴信行,下川宏明:循環期看護の最前線を知る 第9回 末期心不全の緩和ケアを考える.HEART 2012;2(5):501-511.
  • 16)日本集中治療医学会看護テキスト作成ワーキンググループ編:集中治療看護師のための臨床実践テキスト 疾患・病態編.真興交易医書出版部,東京,2018.
  • 17)JSEPTIC看護部会監修,卯野木健,森安恵実編:ICUナースポケットブック 第3版.学研メディカル秀潤社,東京,2016:29.

 


本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社

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