なぜ取り違え事故は繰り返されるのか|千葉県がんセンター事故の背景
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2015年に発表された腹腔鏡下手術事故の検証結果を踏まえ、院内の改革に取り組んできた千葉県がんセンターで、また医療事故が発生した。今度は病理検体の取り違え事故で、必要のない患者で乳房全摘手術が行われてしまった。現在、原因究明と再発防止策の検討が続いているが、改革途上での事故でもあり、進行中である改革の中身をゼロベースで見直す必要がある。
(三和護=日経メディカル編集委員)
同センターが事故発生を発表したのは昨年末。それによると、病理検体を取り違えたため、30歳代の女性患者に対して、本来は受ける必要のなかった乳房全摘手術を行ったという。
経緯はこうだ。昨年10月中旬に、針生検によって乳癌を疑われる部位の組織が採取された。11月上旬には、病理検体の検査結果が浸潤性乳管癌であり、またMRI検査で多発病巣が疑われたことから、病院側は右乳房全摘術を推奨した。患者本人、家族がこれに同意し、12月上旬に手術が行われ、その後退院となった。
取り違えが発覚したのは12月15日。病理医がこの患者の手術標本の病理診断を行った際に、10月に実施した針生検と組織型が異なる癌であることに気付き、乳腺外科部長に報告。翌16日に、病院長に伝えられたという。
病院は17日に、この患者とは別の患者(50歳代女性)の検体について遺伝子検査を実施。その結果、検査結果の取り違えがあったことが確認された。これを受け病院は、両方の患者本人、家族に経過を説明し、謝罪した。
もう一方の50歳代女性患者は10月中旬に、全摘手術を受けた30歳代患者と同じ日に、針生検によって乳癌を疑う部位の組織の一部を採取された。10月下旬には針生検の結果が肉眼的所見と整合しないため、再度、針生検を実施し診断が確定。11月下旬から、診断結果を踏まえた治療が開始されていた。10月下旬の針生検のやり直しの際に、取り違えに気付かれることはなかった。
事故の公表に当たって、院長の永田松夫氏はコメントを発表。今回の病理検体の取り違え事故により「患者さんやご家族の皆様に多大なご迷惑、ご不安、ご心配をおかけし心よりお詫び申し上げます」と謝罪した。また「あってはならない重大な医療事故として重く受け止める」とし、院内事故調査委員会を設置して事故の原因究明を進め、再発防止に努めると表明した。詳しい調査結果が待たれるところだ。
実は、千葉がんセンター以外でも様々な取り違え事故が発生している。
日本医療機能評価機構が実施している医療事故情報収集事業のデータベースを調べると、1月28日時点で、医師が当事者だった57例の取り違え事故が確認できる。取り違えたものは、検体や試薬、薬剤や医療材料のほか、患者や部位、医療データなどと多岐にわたる。
発生場所は、手術室が26例と半数近くを占める。これに外来処置室が9例、ICUと病室がそれぞれ4例で続く。関連する診療科は、眼科が11例と多くなっているが、小児科が5例、整形外科と放射線科が4例ずつ、産婦人科と呼吸器内科が3例ずつなどと幅広い。
その中に、千葉県がんセンターの事案と同じ癌の検体の取り違え事故も報告されている。
これは、同じ日に生検された2件の前立腺検体を取り違えて、病理組織診断を行ったために発生した事例だ。診断結果をシステム端末に入力する過程で、同日に診断が行われた患者Aの「癌がない」という結果を、患者Bのデータとして入力したことが、事故の発端だった。このとき、患者Bの診断結果が、癌がなかった患者Aの方に入力されてしまった。その結果、癌がないにも関わらず、患者Aに対して前立腺癌根治手術が行われた。その後、患者Aの外来受診日に合わせ病理診断を行った際、摘出標本には癌の所見が認められなかったため、システム入力時の検体データ取り違えであることが発覚した。
この事故の背景要因としては、(1)標本が、その性状から取り違えに気付きにくいものだった、(2)長時間勤務による疲労と業務量の多さから、当事者の医師2人とも確認作業が不十分となった、が挙がっている。
図1 取り違え事故の発生要因
(医療事故情報収集事業のデータベースをもとに作成。ほとんどの事例で複数の要因が挙がっており、要因の合計は症例数を上回る)
気になったのは「長時間勤務による疲労と業務量の多さ」のくだりだ。前述の57例について発生要因を拾ったところ、「確認を怠った」が51例と大半を占めていた。「連携ができていなかった」(13例)や「判断を誤った」(12例)も目立つ。また「勤務状況が繁忙だった」や「通常とは異なる心理的条件下にあった」もある。それぞれ7例、5例と決して少なくない(図1)。
「確認を怠った」が主因である以上、ダブルチェックなどの確認手順を見直し改善することは、もちろん必要だ。同時に「実際の勤務状況はどうだったのか」にも目を向けない限り、取り違え事故をなくすことはできないだろう。千葉県がんセンターの調査では、当事者が置かれていた勤務状況についても、つまびらかにすべきだ。
<掲載元>
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