一見、症状と疾患が結びつかないことがあるのは、なぜ?

『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は症状と疾患が結びつかない事象について解説します。

 

望月 桂
杏林大学医学部付属病院 高度救命救急センター/救急看護認定看護師

 

一見、症状と疾患が結びつかないことがあるのは、なぜ?

 

加齢や既往歴などの患者の要因や、疾患そのものがもつ要因などが影響するためです。症状から多角的に患者をアセスメントすることが、急変を見抜くためには重要です。

 

 

患者の要因

患者の年齢や性別、既往歴などの影響で、疾患に特徴的な症状が現れないことがあります。以下に、代表例を示します。

 

1 心筋梗塞による胸痛は、糖尿病患者には現れにくい

急性心筋梗塞の典型的な症状として知られているのは、胸痛や胸部絞扼感です。しかし、糖尿病を有する患者は、無症候性心筋梗塞が多いとされています。

 

無症候性心筋梗塞は、心筋虚血が生じていても狭心痛などの症状を伴わない状態です。痛覚伝導路障害や、疼痛閾値が上昇し痛覚を認識できないことが原因の1つに挙げられます1)

 

高齢者女性高血圧慢性腎不全の既往歴がある患者も、無症候性心筋梗塞の可能性が高いとされます。これらの患者が体調不良(胸部不快感嘔気倦怠感など)を訴えている場合や、普段よりも元気のない高齢者などに対しては、虚血性心疾患の可能性を念頭に置き、対応する必要があります。

 

2 低血糖の症状は、高齢者には現れにくい

高齢者は、低血糖に典型的な交感神経症状(発汗、ふるえ、動悸など)に乏しく、中枢神経症状も多様(落ち着きがない、頭痛、せん妄様症状、片麻痺、人格の変化など)です。低血糖による意識障害は、認知症せん妄うつ症状に間違えられやすいとされます2)

 

重症低血糖は、認知機能の低下や老年症候群を増加させ、患者のADLを著しく低下させる可能性があります。高齢者がこれらの症状を呈した場合、低血糖の可能性も考慮した迅速な対応が必要です。

 

 

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疾患の要因

1 関連痛を呈する疾患

痛みは、責任臓器自体から発生するもののみではありません。

 

心筋梗塞患者が、背部や頸部、顎、、心窩部、両肩から上肢など、さまざまな部位の痛みを訴えることはよく知られています。これは関連痛と呼ばれ、臓器から感覚神経でつながる支配皮膚分節に一致して、痛みが出現します(表1)。

 

表1 関連痛を起こす主な疾患と部位

関連痛を起こす主な疾患と部位

 

急性虫垂炎患者は、初期症状として心窩部や臍周囲の関連痛を自覚することがあります。その後、痛みは右下腹部に移動し、嘔気や嘔吐、発熱が伴います。

 

右肩甲骨下端への突き抜けるような痛みは、胆囊炎に特徴的な関連痛とされます。

 

2 非典型的な症状を呈する緊急性の高い疾患

急性大動脈解離の典型的な症状として「移動する胸痛・背部痛」がよく知られています。

 

しかし、急性大動脈解離の患者が、失神や意識障害、四肢の麻痺(片麻痺、対麻痺)、失語など、非典型的な症状を呈する場合もあります。これらの多くは、頸部分枝の解離による脳虚血心タンポナーデによって生じる閉塞性ショックが起因として考えられています。

 

意識障害や麻痺、失語などの症状からは、中枢神経系の疾患が想起されがちですが、急性大動脈解離も可能性の1つととらえ、血圧の上肢左右差下肢虚血の有無を評価するなど、患者の症状を多角的にとらえ、看護実践に活かすことが重要です。

 

***

 

緊急度の高い患者は、必ず何かサインを出しています。呼吸が促迫している、皮膚がじっとり冷たく湿っている、顔色が悪い、つらそうな表情をしているなどの「何か変」のサインを見逃さず、言語化することが重要です。

 

患者を多角的にとらえ、緊急性を検証するための幅広い知識とフィジカルアセスメントスキルが求められます。

 

「症状」と「徴候」

徴候(sign、サイン)は、他者が把握できるものを指します。つまり、客観的な情報=O情報(objective data)です。記録のときは、誰が読んでもわかるよう、共通言語を用いて記載する必要があります。

 

症状(symptom、シンプトム)は、患者本人の自覚によるものを指します。つまり、主観的な情報=S情報(subjective data)です。患者本人の言葉(例:起きられない、など)が大切ではありますが、評価者によって結果が異ならないよう、なるべく客観的に評価する必要があります。ポイントを下に示します。

 

・発症の様子:「急」な発症か、「いつの間にか」の発症か

・進行具合:一過性か、持続性か、繰り返すか

・性状:具体的に把握することが大切

・程度:客観的なスケールを用いる。10段階で評価するなどもよい

・部位:広範囲にわたるのか、部分的にピンポイントで生じているのか

・増悪・改善因子:どんなことをすると、その症状が悪化もしくは改善するか

・随伴症状:意図的に確認することが重要

 

道又元裕

 

 

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引用・参考文献

1)Gutterman DD.Silent myocardial ischemia.Circ J 2009;73(5): 785‐797.

2)原賢太,横野浩一:糖尿病高齢者における低血糖の特徴と問題点.最新医学2017;72(1):55‐59.

3)小川節郎:メカニズムから読み解く痛みの臨床テキスト.南江堂,東京,2015:46‐55.


 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『いまさら聞けない!急変対応Q&A』 編著/道又元裕ほか/2018年9月刊行/ 照林社

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