母斑症
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は母斑症について解説します。
清水 真
名古屋医療センター皮膚科医長
Minimum Essentials
1先天的な皮膚奇形と内臓諸器官の異常や奇形を伴うものを母斑症という。
2神経線維腫症1型〔レックリングハウゼン(von Recklinghausen)病〕は神経線維腫とカフェオレ斑の多発を、結節性硬化症は顔面の多発小結節(血管線維腫)と葉状白斑などをみる。
3根本的な治療法はなく、対症療法を行う。
4整容的問題や機能障害が生じた場合、あるいは悪性化した場合に治療の対象となり、予後は悪性腫瘍の発生や他臓器病変の軽重による。
母斑症とは
定義・概念
母斑とは皮膚の奇形であり、病変が皮膚だけでなく他の諸器官にも生じ、一つのまとまった病態を呈する場合を母斑症という。
原因・病態
母斑症の多くは遺伝性疾患である。
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診断へのアプローチ
神経線維腫症1型(neurofibromatosis type1:NF1)、レックリングハウゼン病
臨床症状・臨床所見
(1)カフェオレ斑
カフェオレ様の色調の大小の褐色斑が徐々に増数し、また拡大する(図1)。
(2)神経線維腫
学童期から思春期にかけて、半球上に隆起した褐色調のやわらかい腫瘤が大小さまざまみられる(図1)。大きく懸垂状に垂れ下がるものを、びまん性〔蔓状(つるじょう)〕神経線維腫とよぶ(図2)。
(3)その他の症状
骨変化(脊椎側彎や骨欠損、変形)、眼変化(虹彩小結節など)、脳脊髄腫瘍などがみられることがある。
検査
直径1.5cm以上の褐色斑が6個以上認められたら本症を疑い、全身の骨X線撮影とCTにより中枢神経病変、内臓病変を検討する。常染色体顕性遺伝(優性遺伝)である。
神経線維腫症2型(neurofibromatosis type2:NF2)
皮膚の神経鞘腫、両側聴神経鞘腫(前庭神経鞘腫)、その他中枢神経腫瘍を生じる。常染色体顕性遺伝(優性遺伝)である。
軸索の髄鞘を形成するシュワン(Schwann)細胞由来の良性腫瘍。通常は単独に発症するが、神経線維腫症2型では多発する。皮内または皮下に圧痛を伴うややかたい球状腫瘍として触れることが多く、数珠状に生じることもある。まれに悪性化することがある。
結節性硬化症、ブルヌヴィーユ・プリングル(Bourneville-Pringle)母斑症
臨床症状・臨床所見
顔面の多発血管線維腫、精神遅滞、てんかんの3主徴。
(1)血管線維腫
顔面(鼻唇溝を中心として)に大豆大くらいまでの小結節が多発する(図3)。
(2)中枢神経変化
知能障害とてんかん。生後1年以内に約80%の症例でみられる。
(3)その他の変化
葉状白斑、爪囲線維腫〔ケネン(Koenen)腫瘍〕、粒起革様皮(りゅうきかくようひ)〔シャグリンパッチ:表面がなめし革様の隆起性皮膚〕、腎臓の混合腫瘍や囊胞腎、眼底腫瘍(星状膠細胞過誤腫)、心臓の多発性横紋筋腫などがみられることがある。
検査
乳児期にてんかんや木の葉状白斑を見たら本症を疑う。頭部CTやX線像で石灰沈着、脳波に異常をみる。視野狭窄などの眼底所見、泌尿器科的検索も重要である。常染色体顕性遺伝(優性遺伝)である。
スタージ・ウェーバー(Sturge-Weber)症候群
顔面(三叉神経第1、2枝領域)の広範な単純性血管腫と、脳の血管腫による神経症状(てんかん、片麻痺)、眼症状(牛眼、緑内障)を合併する。非遺伝性である。
クリッペル・トレノネー・ウェーバー(Klippel-Trenaunay-Weber)症候群
四肢片側の単純性血管腫で、静脈拡張を伴い、病変肢の肥大延長をみる。
ポイツ・イェガース(Peutz-Jeghers)症候群
口唇口腔粘膜、手掌足底の小黒褐色斑と消化管ポリポーシスを伴う症候群。常染色体顕性遺伝(優性遺伝)である。
色素失調症
出生時から連続性に紅斑・水疱期、疣状期、色素沈着期、色素消退期へと変わる皮膚症状に種々の奇形(骨、歯、眼、中枢神経)を合併する。常染色体顕性遺伝(優性遺伝)で、ほとんどが女児例である。
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治療ならびに看護の役割
治療
いずれの母斑症も根治的な治療はないが、生活の質(QOL)を考慮し、色素斑に対してはレーザー治療、腫瘍に対しては外科的切除を行う。
厚生労働省の指定難病とされる疾患に対しては医療費助成制度があるので、主治医と相談し申請するように指導する。
看護の役割
母斑症の多くは進行性で、整容面の精神的ストレスが増し、神経病変による精神的荒廃をきたすものもあるので、QOLを考え対応する。
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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂