光線性皮膚症
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は光線性皮膚症について解説します。
森脇真一
大阪医科薬科大学皮膚科
Minimum Essentials
1地表には太陽からUVB、UVA、可視光線、赤外線が届いており、それぞれ生物学的作用が異なる。太陽光による皮膚障害は、光線量が増加し、屋外活動が多くなる春先より急増する。
2日光曝露後に特徴的な分布の皮疹が生じる。
3治療は皮疹に対する対症療法が主体となる。
4皮膚症状を引き起こす原因光線(作用波長)から防御するための遮光指導が必要である。遺伝性のものは合併症により予後は不良である。
光線性皮膚症とは
定義・概念
紫外線(あるいは可視光線)の作用により皮膚に異常が出現する疾病である。太陽光線のスペクトラムと、おのおのの作用を図1に示す。
地表に到達する中波長紫外線UVB(290~320nm)、長波長紫外線UVA(320~400nm)、可視光線(400~780nm)、赤外線(780nm~)の太陽光線に占める割合はそれぞれ0.5%、5.6%、51.8%、42.1%である(短波長紫外線UVCはオゾン層により遮断されるため0%)。
原因・病態
代表的なものの臨床的特徴を示す(表1)。
日光皮膚炎
いわゆる「日焼け」。日光による皮膚の生理的反応の強いもので、海水浴やスキーなどによる過度の日光曝露後の皮膚の急性炎症である。
スキンタイプにより反応には個人差がある(図2、表2)。おもな原因光線はUVBである。
光線過敏症
(1)光接触皮膚炎
外因性の光毒性物質や光感作物質が皮膚に接触し、さらに日光に曝露され生じる。
光毒性のものはすべての人に生じうる刺激反応であり、植物由来のソラレン(レモンなど)、フェオフォーバイド(アワビ、クロレラなど)によるものが代表的である。症状は浮腫性紅斑、水疱など重症の日焼けに類似する。UVA、可視光線が原因光線である。
光アレルギー性のもの(図3)は遅延型アレルギーを機序として発症し、外用剤(非ステロイド抗炎症薬、紫外線吸収薬など)、香料(ムスクなど)などで生じる。症状は、皮疹の分布を除けば通常の接触皮膚炎と類似する。作用波長はUVAである。
(2)多形日光疹
日光曝露数時間~数日後にかゆみ、時に灼熱感を伴う紅斑、丘疹、局面が生じる。春~初夏に多く発症し、盛夏になるにつれ次第に皮疹の発生が抑制される(日光への耐性獲得:hardening現象)。原因波長はUVAあるいはUVBである。
(3)種痘様水疱症(図4)
小児にみられる原因不明の光線過敏症。日光を浴びたあと、皮膚に紅斑、丘疹、小水疱を生じ、瘢痕を残して治癒する。多くは5歳までに発症し、20歳までに自然寛解する。作用波長はUVAである。
(4)日光蕁麻疹
日光曝露後1時間以内に、かゆみを伴う膨疹が出現し数時間以内に消退する。ほとんどの症例で可視光線が原因波長である。
(5)慢性光線性皮膚炎
中高年男性に好発し、露光部皮膚の浸潤を伴う紅斑、苔癬化局面が何年にもわたり持続する(図5)。かゆみが強い。作用波長はUVBから可視光線まで広範囲に及ぶ例が多い。
(6)ポルフィリン症
ポルフィリンの代謝経路に関与する酵素の異常により発症する。光力学作用をもつポルフィリン体あるいはその前駆物質が蓄積するために、日光曝露により浮腫、紅斑、水疱、潰瘍、瘢痕などが出現する。400nmの光線曝露で皮膚症状が増悪する。
確定診断は尿・便・赤血球の各種ポルフィリン体の定量による。瀉血(しゃけつ)、β カロチン内服の有効例がある。
(7)薬剤性光線過敏症
全身投与された薬剤による光毒性あるいは光アレルギー性反応により発症する(表3)。症状は日焼け様紅斑、多形紅斑、湿疹、扁平苔癬、水疱、色素沈着、白斑黒皮症など多彩である。
(8)色素性乾皮症(図6)
常染色体劣性遺伝性疾患。DNAの修復過程に異常があるため、皮膚細胞に紫外線によるDNA損傷(ピリミジン二量体)が多く残留し、日光にきわめて敏感となる。
初期には露光部に紅斑反応が頻発し、その後雀卵斑、萎縮、粗造化(ざらざら)などの光老化皮膚が早期よりみられる。長年にわたり日光照射を受けると、皮膚癌を好発する。30%に進行性の神経症状(難聴、知能低下、歩行障害など)が現れる。遺伝的に異なる8つの病型(A~G群、バリアント型)があり、わが国ではもっとも重篤なA群が多い。
各群で重症度が異なるため、その確定は患者のケアや予後の判定に重要である。UVBにきわめて過敏であり、遮光は終生にわたり必要となる。
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診断へのアプローチ
臨床症状・臨床所見
特徴的な皮疹の分布
顔面・耳介・項部・手背・前胸部といった露光部位に皮疹が出現する。指間、下顎下面、上肢屈側の皮膚は通常侵されない。皮疹は多彩である。
詳しい問診
日光による増悪(季節的消長)、職業、使用化粧品・薬剤服用と皮膚症状との関連、生活習慣(スポーツ、旅行、日焼けサロン、アルコール)、家族歴、自覚症状(かゆみ、ピリピリ感、疼痛)、理学所見(神経症状、眼症状、腹部症状)について詳細に問診する。
検査
・光照射テスト(UVA、UVB、可視光線)
・光パッチテスト(光接触皮膚炎、薬剤性光線過敏症)
・光線照射による定型的皮疹の誘発テスト(多形日光疹、日光蕁麻疹、種痘様水疱症)
・血液・尿・便検査(ポルフィリン症、全身性エリテマトーデス)
・皮膚生検(慢性光線性皮膚炎、ポルフィリン症)
・DNA修復試験、遺伝子検査(色素性乾皮症)
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治療ならびに看護の役割
治療
おもな治療法
(1)遮光対策
①紫外線量は4~8月に多く、もっとも少ない12月の2~5倍となる。1日のなかでは10~14時が紫外線の強い時間帯である。これらに留意して、とくに春先から夏にかけての昼前後は皮疹の再発防止を心がける。
②服装は「ゴルフのキャディーさんスタイル」が理想である(とくに原因波長が広範囲に及ぶ重症例)。
③適時日焼け止めを使用する(表4)。日焼け止めは紫外線吸収剤ではなく、紫外線散乱剤(チタン、鉄、亜鉛など)を使用しているもののほうが皮膚にやさしく、長期使用に適している。
UVBに対する防御能を示すSPF(sun protection factor)値は20以上、UVA遮断効果を示すPAは(++)以上が推奨される。
ガラス(部屋や車の窓)は320nm以下の紫外線(UVB)を遮断するが、UVAは透過するので注意が必要である。重症例では屋外活動を制限し、不要な外出は避けるよう指導する。
④検査により原因・作用波長を発見し、光アレルゲン(薬剤、食品)や原因光線(光源)を排除することも重要である。
(2)皮膚症状への対応
①局所を冷却し、炎症所見が強ければステロイド薬を外用、時に内服、静注を行う。
②かゆみが強ければ抗ヒスタミン薬、疼痛があるときは非ステロイド抗炎症薬を内服する。
合併症とその治療法
色素性乾皮症では脳神経障害、遺伝性ポルフィリン症では肝障害、消化器症状の合併に留意する。いずれも遺伝性疾患のため根治的な治療法はなく、患者ケアは対症療法が主体となる。
治療経過・期間の見通しと予後
外因が明らかなものは、それを避ければ対症療法のみで完治する。慢性光線性皮膚炎はしばしば難治、色素性乾皮症の重症型(A群)は予後がきわめて不良である。
看護の役割
治療における看護
・患者にとって、長期にわたる屋外活動の制限や日焼け止めの使用は大変なストレスであることをわきまえ、良き理解者になるよう心がける。
・患者本人から(小児の場合、両親や担任教師からも)遮光に関する日常生活(家庭、学校、職場など)上のアドバイスを求められることが多いので、疾患の病因をよく理解して、主治医の指示を詳しく説明できるようにしておく。
・外来診療の場では窓を閉める、カーテンをひくなどして、患者にとって悪い領域(波長)の光線が診察室に入らないように工夫する。検査あるいは治療で入院中の患者の場合も同様である(処置室、診察室、病室など)。
・長期にわたり皮疹の増悪を繰り返す場合、患者・家族に日光曝露で発症していることをよく説明し、遮光の重要性を理解させる。
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引用・参考文献
1) 野中薫雄,大神太郎:各論A-2 皮疹の観察,光線過敏症(佐藤吉昭編),第2版,p.74,金原出版,東京,1991
本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂