放射線による皮膚障害
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は放射線による皮膚障害について解説します。
森脇真一
大阪医科薬科大学皮膚科
Minimum Essentials
1放射能汚染事故による大量被曝あるいは癌に対する放射線照射により起こる急性皮膚炎と、過去の少量長期反復被曝(誤った放射線治療あるいは放射線従事者)のあとに生じる慢性障害とに分けられる。
2急性皮膚炎では紅斑、浮腫、水疱、びらんが出現する。初期にはステロイド外用剤で治療可能であるが、重症例では熱傷治療に準じて、感染症、全身症状に留意しながら外用・治療を行う。
3慢性障害は出現する症状により萎縮期、角化期、潰瘍期、腫瘍期に分けられ、前二者は、外的刺激を避けるなど局所の保護に心がけながら、難治性潰瘍や皮膚癌の発生に注意する。
放射線皮膚障害とは
定義・概念
X線、粒子線、放射性物質による皮膚障害。
大量被曝直後に生じる急性反応と、少量長期反復被曝後に生じる晩発障害(慢性障害)に分類される。
障害の程度は線質、線量、照射法により異なる。一般に、被曝線量が大きくなるほど重症となる。
急牲放射線皮膚炎
事故などによる1回大量被曝、あるいは医療用で連続照射した場合に、数時間~数日後に紅斑、浮腫、水疱、びらんが出現し(図1)、落屑、痂皮、色素沈着を残して治癒する。
経過中、灼熱痛、疼痛がある。線量が50Gy/月を超えると毛細血管拡張、萎縮、脱毛を残しやすく、1回線量が大きい(10Gy以上)と潰瘍は難治性になりやすいといわれている。
慢性放射線障害(図2)
少量長期反復被曝による組織傷害の集積により発症する。少量被曝で、被曝後十分な組織回復の時間があれば生じにくいといわれる。
皮膚障害の程度は表1のように分類されるが、早いものでは被曝1年以内に皮膚に変化が生じ始める。被髪部では脱毛、指趾末端では爪の脱落もみられる。
原因・病態
放射線が細胞のDNAを傷害して皮膚の新陳代謝を妨げ、炎症が引き起こされる。皮膚細胞DNAに突然変異が蓄積すれば、徐々に皮膚癌リスクが高まっていく。
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診断へのアプローチ
臨床症状・臨床所見
放射線曝露の既往があり、同部位に前述の臨床所見がみられれば明らかである。したがって、詳しい問診が重要となる。
時に患者が放射線被曝を自覚していないことがあるので、かぶれのようなの症状を示す症例では、化学熱傷とともに放射線皮膚炎を鑑別疾患に加える必要がある。
検査
皮膚潰瘍が難治化した場合、腫瘍形成がみられた場合には皮膚生検を実施して病理組織学的に検討する。
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治療ならびに看護の役割
治療
おもな治療法
(1)急性期
放射線照射後の初期炎症には、クーリングと抗菌薬含有のステロイド外用剤塗布を行う。水疱、びらんがひどければ感染症に留意し、熱傷に準じた局所療法とケアを行う。
一見健康と思われる皮膚にも慢性障害が出現する可能性があるので、注意して経過を見る。
事故などで大量被曝した場合は全身熱傷に準じ、全身管理が必要である。二次被曝の危険があれば然るべき施設に搬送する。
(2)慢性期
外的刺激からの保護(ガーゼ、ワセリンなどの油性軟膏)により、局所の乾燥や外傷を予防する。整容的・機能的な障害や難治性潰瘍が生じれば植皮術を考慮する。
癌が発生すれば可及的に切除し、場合によっては抗がん薬治療を行う。
看護の役割
治療における看護
・癌などへの放射線療法中に出現する急性障害に対しては局所対症療法を行うが、原疾患の関係上照射を途中で中止できない場合も多いので、その際の対応(疼痛、脱毛など整容的異常に対して)や精神的サポートが重要となる。
・全身の放射線被曝の場合は、皮膚のみならず全身状態にも留意する。
・慢性障害で照射部位に生じた潰瘍は、周辺皮膚の線維化と血行障害があるため上皮化が遅く、難治化しやすい。また、感染を伴い膿瘍形成することもある。その場合は治療が長期化することに理解を求め、同時に精神的ケアも行う。
・過去に放射線療法が行われた患者には、同部位の皮膚の変化に常に注意する。
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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂