血液検査の読み方|皮膚科の検査⑤
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は血液検査の読み方について解説します。
横山知明
静岡市立清水病院皮膚科
Minimum Essentials
1IgEは免疫グロブリンの1種であり、即時型(Ⅰ型)アレルギーに関与する。
2アトピー性皮膚炎患者では総IgE高値となるが、約2割の患者では正常範囲内に留まる。
3抗原特異的IgE検査で患者の感作状況を知り、抗原との接触を避けるよう指導を行う。
4アレルギーコンポーネント特異的IgE検査により、より精度の高いアレルギー検査が可能になった。
5タルク(thymus and activation-regulated chemokine:TARC)はアトピー性皮膚炎の重症度の指標として有用である。
6薬剤誘発性リンパ球刺激試験(DLST)は薬剤アレルギーの被疑薬特定の検査として安全かつ有用である。
IgEとは
IgEはB細胞によって産生される免疫グロブリンの1種であり、IgE受容体を介して肥満細胞や好塩基球の表面に結合する。
IgEを介した抗原刺激によりこれらの細胞が活性化されると、ヒスタミンやロイコトリエンなどのケミカルメディエーターが細胞外に遊離され、蕁麻疹やアナフィラキシーなどの即時型(Ⅰ型)アレルギーを惹起する。
日常臨床においては、総IgE値と抗原特異的IgEの測定が行われる。
総IgE値は通常170IU/mL以下であるが、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患では増加がみられることが多い。
総IgEが高いことは、IgE抗体を産生しやすい、すなわち抗原に感作されやすいということを意味する。臨床的には典型的なアトピー性皮膚炎患者でも、約2割の患者では総IgE値が正常のことがある。
抗原特異的IgE検査
抗原特異的IgE検査では、たとえばダニやスギ花粉など、それぞれの抗原に対する特異的IgE量を計測する。
抗原特異的lgEの検出には、イムノキャップ®ラピッド、アラスタット®3gAllergy、オリトンIgE「ケミファ®」などの方法がある。各測定キット間で測定結果が解離することがあり、各々の検査結果の数値を単純に比較することはできない。
アトピー性皮膚炎患者では増悪因子としてハウスダスト、ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニ、マラセチアなどの真菌、スギ花粉、小麦などの食物抗原が知られており、これらの抗原に対して陽性を示すことが多い。陽性になった抗原を避けることにより、皮疹の改善や増悪の予防が期待できる。
食物アレルギーでは、抗原特異的IgE抗体価と食物負荷試験での陽性率をプロットしたプロバビリティカーブが卵や牛乳などの代表的な抗原について明らかにされている。
プロバビリティカーブを活用することで、特異的IgE抗体価から症状誘発率が推定可能となり、検査結果の解釈や患者指導に有用である。
同時に複数の抗原特異的IgEを検査する方法として、MAST36、Viewアレルギー39(View 39)検査があり、それぞれ36種、39種の抗原を一度に検査することができ、スクリーニングに有用である。
抗原特異的IgE検査の結果はクラス0~6で表され、クラス0が陰性、クラス1が疑陽性、クラス2以上が陽性である(表1)。
クラス2~4の各クラス内における最低抗体価と最高抗体価の差は5倍に及ぶ。したがって、特異的IgE抗体検査の結果は、陽性/ 陰性の判定またはクラスよりも抗体価(UA/mL)で評価することが勧められている。
アレルゲンコンポーネント検査
従来、抗原特異的IgE検査は測定対象物からの粗抽出物(粗抗原)を用い行われてきたが、粗抗原には多様な蛋白質が含まれているため、感度は高いが特異度が低いという欠点があった。
粗抗原のうち、抗原性をもち特異的IgE抗体が結合するそれぞれの蛋白質をアレルゲンコンポーネントとよび、多くのコンポーネント特異的IgE抗体が測定可能となり臨床の現場で活用されている。
鶏卵のオボムコイド(Gal d 1)、牛乳のα - ラクトアルブミン(Bos d 4)、β - ラクトグロブリン(Bos d 5)、カゼイン(Bos d 8)、小麦のω-5グリアジン(Tri a 19)、大豆のGly m 4、ラテックスのHev b 6.02、ピーナッツのAra h 2などが測定できる。
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タルク(TARC)
TARCは表皮ケラチノサイトなどから産生されるケモカインである。
血清TARC値はアトピー性皮膚炎において重症度とよく相関する。血清総IgE値、LDH、末梢血好酸球数に比べて病勢をより鋭敏に反映する指標として使用される。
血清TARC値はアトピー性皮膚炎以外にも蕁麻疹、水疱性類天疱瘡、皮膚T細胞リンパ腫などでも高値になることがある。
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薬剤誘発性リンパ球刺激試験(DLST)
DLST(drug-induced lymphocyte stimulation test)は薬剤アレルギーの原因薬剤を特定するための検査である。
患者の末梢血からリンパ球を分離し、in vitroで被疑薬と反応させてリンパ球の増殖反応を測定する。調べる薬剤の数によって採血量は異なるが、おおむね10~20mL必要である。薬剤を添加した場合の反応としていない場合の反応を比較して、その比をstimulation index(S.I.)とし、1.8以上を陽性とする。
患者を薬剤に直接曝露させないため、患者の負担が少なく安全に行える。
多くの薬疹で急性期にDLST検査が陽性になる一方、薬剤過敏症症候群においては急性期には陰性だが発症6週以降で陽性になる。したがって薬疹の種類によって検査を行う適切なタイミングを選ぶ必要がある。抗がん薬では細胞毒性により偽陰性が生じやすく、バンコマイシン、漢方薬などは偽陽性になりやすい。
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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂