ノロウイルス感染症【ケア編】|気をつけておきたい季節の疾患【17】
来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。
→ノロウイルス感染症【疾患解説編】はこちら
稲崎妙子
日本赤十字社和歌山医療センター・感染管理認定看護師
〈目次〉
- 治療中のナーシングポイント
- 高齢者や小児では重症化する可能性がある
- 接触予防策を徹底し、二次感染を予防する
- 日ごろから標準予防策を徹底する
- ナースの視点
- 観察のポイント
- 看護のポイント
- 感染対策
- 関係各所への連絡
ノロウイルスによる感染性胃腸炎や食中毒は、一年を通して発生していますが、特に冬季に流行します。
ノロウイルスは手指や食品を介して、経口で感染し人の腸管で増殖、嘔吐、下痢、腹痛などを起こします。感染力が非常に強く、少量のウイルスで発病する特徴があります。
1高齢者や小児では重症化する可能性がある
ノロウイルスには抗ウイルス薬はなく、対症療法に限られます。健康な人は軽症で回復することもありますが、高齢者や小児では、嘔吐・下痢による脱水や、嘔吐物による誤嚥により窒息や肺炎を起こし、重症化する可能性があります。
2接触予防策を徹底し、二次感染を予防する
ノロウイルスに感染した患者さんは、個室に隔離し接触予防策を行います。万が一、同じ病棟内で集団発生があった場合は、大部屋での集団隔離も可能です。感染対策については後で詳しく述べます。
3日ごろから標準予防策を徹底する
糞便からノロウイルス抗原を検出する迅速検査がありますが、感度・特異度を考慮する必要があり、また検査を行うタイミングが遅れた場合、陽性と分かるまでに症状が出てから時間が経過している場合もあります。そのため、ノロウイルスに感染しているかどうかは不明な場合でも、日ごろから下痢・嘔吐物のケアを行う際には、適切に個人防護具を着用し、石鹸と流水による手洗いを徹底することが大事です。なお、基本的に着用する個人防護具はマスク、手袋、エプロンですが、排泄物の飛散状況により、ガウンやゴーグルを追加で着用することがあります。
ナースの視点
1観察のポイント
嘔吐・下痢症状のある患者さんが外来に来院されたら、以下のことを確認します。
①いつから症状(下痢・嘔吐・腹痛・発熱など)が出現したか
②嘔吐・下痢の回数や性状
③周囲(同居家族や職場・学校など)に同様の有症状者がいないか
④食歴(生もの等摂取していないか)
患者さんが入院となった後は、嘔吐・下痢の回数や性状を確認します。
2看護のポイント
ノロウイルス感染症の患者さんには、下痢・嘔吐に伴う脱水症状がないか注意します。経口摂取ができるようであれば、水分摂取を勧めます。経口摂取ができないようであれば、点滴治療が必要となる場合もあります。また、嘔吐が頻回にある場合には、誤嚥しないように体位の工夫も必要となります。
下痢・嘔吐による排泄物がある場合は速やかに処理を行い、保清に努めます。
3感染対策
外来
診察前の問診時に、感染性胃腸炎を疑う症状がないかの確認をします。周囲にも同様の有症状者がいたり、食歴で感染性胃腸炎を疑う場合は、接触予防策を行い、可能であれば隔離と優先診療を行います。
万が一検査が必要で、検査室へ移動する場合は、感染性胃腸炎疑いである旨を検査室にも連絡し、検査室でも接触予防策を行います。
ノロウイルスによる感染性腸炎の患者さんがトイレを使用した場合は、使用後に高頻度接触部位を中心に次亜塩素酸ナトリウムでの清拭消毒をします。
入院
患者さん・ご家族に対しての感染対策
ノロウイルスによる感染性胃腸炎の患者さんが入院される場合は、個室隔離と接触予防策が必要となります。トイレ付きの個室がよいですが、トイレが付いていない場合は、専用トイレを設け、使用後は清拭消毒をするようにします。
入院中の患者さん自身にも、手指衛生は感染対策上重要であるため、入院時に手指衛生について指導を行います。特に、食事の前、トイレの後には必要であることを伝えます。ベッド上安静で、自身で手指衛生が行えない患者さんには、擦式アルコール製剤による手指消毒や、ウエットティッシュによる清拭などで代用することを考慮します。
また、患者さんやご家族にも、感染対策の必要性を説明し、理解と協力を得られるようにします。患者さんへの面会は、接触予防策を行っている間は必要最低限にし、面会される場合は、ご家族の方にも接触予防策を行っていただきます(図1)。
図1患者さんおよびご家族への手指衛生と面会についての説明用紙
さらに、日ごろから面会者に対し、下痢・嘔吐など感染性胃腸炎を疑う症状のある方は、面会を控えていただくようにお伝えしましょう。
看護師が行う感染対策
看護師が、感染性胃腸炎の患者さんの部屋に入る際には、手袋とプラスチックエプロンを着用します(着用前には必ず手指衛生を行う)。部屋を出る前には、手袋・エプロンを外し、手指衛生を行ってから部屋を出ます。
医療スタッフに下痢・嘔吐症状が出現した場合も、注意が必要です。施設内での二次感染予防のため、早期に受診をし、感染性胃腸炎の疑いがある場合は、就業制限など施設の取り決めに従います。就業制限が解除になった後も、手指衛生の徹底が必要です。
入院中の患者さんに感染性胃腸炎の症状が出現した場合
入院中の患者さんで、感染性胃腸炎を疑う症状が出現した場合は、検査の実施に関わらず、医師に相談の上、個室に隔離を行い接触予防策を開始します。突然嘔吐した患者さんの近くにいたりした場合は、潜伏期48時間は発症に注意する必要があります。
また、入院中の患者さんで発症した場合、感染経路の確認が必要です。同じ病棟内や面会者で同様の有症状者がいないかを確認します。また、同じ病棟内で複数人に同様の有症状者が出て、ノロウイスルによる胃腸炎が疑われる場合は、大部屋で有症状者を集めて隔離することも可能です。
さらに、汚染された環境(トイレ・ドアノブ・手すりなど)や医療従事者の手を介して感染する可能性もあるため、周囲の患者さんにも注意が必要です。
下痢・嘔吐物の処理時の注意点
ノロウイルスによる胃腸炎疑いの患者さんだけではなく、通常の患者さんであっても、下痢・嘔吐物のケアを行う際には、周囲に汚染を広めないように、またケアを行った人が感染しないように手順を徹底します。病院内で統一されたマニュアルがあると良いでしょう。施設によっては、事前に吐物処理のセット(個人防護具・ビニール袋・使い捨ての布・消毒液など)を用意しているところもあります。
下痢・嘔吐物の処理を行う際にはマスク・手袋・エプロンを着用し、汚染の状況によっては、エプロンの代わりにプラスチックガウンを着用します(図2)。ケア後、個人防護具を外し、その後石けんと流水による手洗いをしっかり行います。糞便や吐物には多量のウイルスが含まれているため、処理時には注意が必要です。
ノロウイルスはアルコールが効きにくい性質がありますが、エタノールベースの手指消毒剤は適応とされています。原則、ケアの後は、石けんと流水による手洗いが必要です。特に下痢・嘔吐物の処理を行った後は、石鹸と流水による手洗いを徹底しましょう。
床などに飛び散った患者の糞便や吐物を処理するときにも、ガウン(またはエプロン)、マスクと手袋を着用し、糞便・吐物をペーパータオルなど等で静かに拭き取ります。拭き取った後は、次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度0.1%)で浸すように床を拭き取り、その後水拭きをします。おむつ等は、速やかに閉じて糞便が漏れないようにします。おむつや拭き取りに使用したペーパータオル等は、ビニール袋に密閉して廃棄します(この際、ビニール袋に廃棄物が十分に浸る量の次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度0.1%)を入れることが望ましいとも言われています(1)。
ノロウイルスによる感染性胃腸炎の患者さんに使用した物品の消毒にも次亜塩素酸ナトリウムを使用します。現在、次亜塩素酸ナトリウムの代用となる製品もあります。施設内で、物品に応じて消毒薬の濃度を決め、消毒の手順を統一します。
患者さんへの接触予防策が必要な期間は、症状が治まってから少なくとも48時間経過するまでと言われています(2)。ただし、症状が治まった後も約1週間ウイルスは便中に排泄されます。接触予防策を解除した後も、排泄ケアを行う際には、標準予防策を徹底することが大事です。
4関係各所への連絡
施設内
接触予防策を実施している間は、患者さんはできるだけ病室外には出ないように対応しますが、やむを得ず検査などで移動する場合は、検査室でも接触予防策が実施できるように、事前に連絡を入れる必要があります。
保健所
食中毒の疑いまたは診断がされた場合は、食品衛生法に基づき、医師による保健所への届け出が必要になります。通常の感染性胃腸炎であれば、小児科定点で週報での届出になります。
[引用・参考文献]
- (1)厚生労働省ホームページ.ノロイウイルスに関するQ&A.(2017年6月閲覧)
- (2)CDC.医療現場におけるノロウイルス胃腸炎アウトブレイク予防対策ガイドライン2011(勧告).(2017年6月閲覧)
- (3)国公立大学附属病院感染対策協議会.病院感染対策ガイドライン.ノロウイルス関連胃腸炎対策.改訂第2版.東京,じほう,2015,76-81.
- (4)小林寛伊編.新版 増補版 消毒と滅菌のガイドライン.東京,へるす出版,2015,185p.
- (5)伴信義.大曲貴夫ほか編.消化器系感染症患者への看護.感染管理・感染症看護テキスト.東京,照林社,2015,419-21.
[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長
[Design]
高瀬羽衣子