ノロウイルス感染症【疾患解説編】|気をつけておきたい季節の疾患【17】

来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。

 

→ノロウイルス感染症【ケア編】はこちら

ノロウイルス感染症

 

ノロウイルス感染症の症状_ノロウイルス感染症の主訴_ノロウイルス食中毒

 

東出靖弘
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部

 

〈目次〉

 

ノロウイルス感染症ってどんな疾患?

ノロウイルス感染症の特徴

ノロウイルス感染症は、その名の通りノロウイルスの感染による感染性胃腸炎もしくは食中毒です。冬期(特に11月~翌年1月)に患者が増えることで有名ですが、実は年間を通して発症し得ます。ノロウイルスは、全世界に広く分布するウイルスで、世界中で最も多くの感染性腸炎を流行させている病原体とも言われています。

 

ノロウイルス感染症は、感染が成立すると1~2日程度で嘔気・嘔吐・下痢・腹痛が生じます。発熱を認める場合もありますが、多くは微熱程度です。症状は1~2日ほど持続してから自然消退し、後遺症を残すこともありません。感染しても発症しない場合や、軽症に終わり、感染自体に気づかないケースもあります。

 

しかし、その一方で、高齢者や乳幼児、免疫抑制剤や抗癌剤などの使用により体力・免疫力が落ちている場合には、ノロウイルス感染を契機に死亡する例も報告されています。ちなみに、ノロウイルス感染による死亡例では、吐物による窒息や誤嚥性肺炎なども含まれています。

 

ノロウイルスの感染経路

ノロウイルスの感染経路としては、ヒトからヒトへと感染する経路と、環境や食品中に含まれるウイルスによる感染があります(1)。

 

ヒトからヒトへと感染する場合は、主にノロウイルス患者の糞便や吐物に大量に含まれるウイルスが人の手などを介して経口感染を生じます。
ノロウイルス感染症はヒトにしか発症しないと言われていますが、二枚貝を代表とするある種の水棲生物はノロウイルスを持っている場合があります。また、井戸水や簡易の水道水が汚染されている場合もあります。こういった環境中に含まれるウイルスをヒトが摂取することでも感染を来します。また、食品を取り扱うヒト(飲食店でも家庭でも)の手に付着したウイルスが、食品を通して感染する食中毒タイプもあります。

 

いずれの場合もノロウイルスは10~1,000個程度のウイルス量で感染が成立すると言われており、感染力の非常に強いウイルスです。

 

ノロウイルス感染症の処置・治療法

ノロウイルス感染症に特異的な治療はありません。また、ワクチンも存在しません。個々の症状に対する対症療法が中心になります。

 

ノロウイルスによる感染性胃腸炎にとりわけ重要なのは水分摂取で、下痢とともに強い嘔気・嘔吐を来すため、容易に脱水状態になります経口摂取が困難な場合は点滴が必要となるでしょう。
このほか、吐き気には吐き気止め、下痢には整腸剤といった対応になります。感染性胃腸炎一般に言われることですが、止痢剤は病原微生物が長く体内に留まる結果になるため、推奨されません

 

なお、ノロウイルスには迅速検査キットがありますが、特殊なケースを除き保険適用外の検査であり、多くは臨床的に診断されることになります(表1)。また、偽陰性となる可能性もあり、過信することはできません。

 

表1ノロウイルス検査が保険適用となる場合

ノロウイルス検査が保険適用となる場合

 

ノロウイルスと鑑別を要する疾患

ノロウイルス感染症は多くの感染性胃腸炎との鑑別を要します。ただし、感染性胃腸炎の多くは自然治癒する疾病がほとんどで、対症療法も大きく変わらないため、病原微生物の同定ができなくても臨床上問題となることは少ないと思われます。
しかし、中には下痢・嘔吐を初発症状とするような、感染性胃腸炎以外の疾患(たとえば腸閉塞など)もあり得るので、一度医療機関でノロウイルス胃腸炎と診断されて帰宅していても、感染性胃腸炎で見られるような症状以外の症状が出現した際には速やかに医療機関を再診することが望ましいでしょう。

 

 

前述した通り、ノロウイルス感染症の特効薬はありませんが、標準予防策での予防が可能です。ただし感染力が非常に強いため、ノロウイルス感染症の患者に対応する際は、標準予防策を厳密に守ることが必要となります。

 

食品中に含まれているウイルスは十分な加熱処理で失活させることができます。正確な数値は算出されていませんが、国際連合食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が携わった食品衛生に関わるガイドラインでは、中心部の温度が85~90℃で90秒以上の加熱で失活するとされています(2)。

 

感染性胃腸炎の症状で外来受診した患者に対しては、周囲に同じような症状の患者がいないか、二枚貝などの摂取歴がないかなど、問診から推定することが重要です。これは入院患者や見舞客に関しても同様で、下痢・嘔吐などノロウイルス感染が疑われる場合、特に厳重な接触予防策が必要となります。

 

前述の通り、ノロウイルスは感染力が非常に強く、患者の吐物や糞便中には大量のウイルスが含まれています。これらが付着した部分からの感染はもちろんのこと、乾燥したウイルスが空中に飛散したものを吸入して感染することもあります。また、環境中に数日前に飛び散ったウイルスから感染した例も報告されています。従って、汚染された環境からの感染拡大防止策を入念にする必要があります。

 

ノロウイルスにはアルコール消毒や通常の石鹸も有効ですが、より効果的なのは次亜塩素酸ナトリウムや加熱処理です。
具体的には、吐物の触れた食器や手洗い・うがいをした洗面台に対しても次亜塩素酸ナトリウムで消毒を行い、吐物・糞便の付着したシーツ類についてはウイルスが飛び散らないように汚物を処理した後、静かに洗剤でもみ洗いし、熱水洗濯や次亜塩素酸ナトリウムを用いた消毒を行います。すぐ洗濯できないような場合もアイロンや乾燥器を用いることで加熱処理が行えます。また、ドアノブやカーテンといった環境に対しても次亜塩素酸ナトリウムを用いて消毒することで感染の拡大を阻止できます。

 

繰り返しになりますが、ノロウイルス感染症に特異的な治療法やワクチンが無い以上、徹底的な感染予防・拡大防止が重要です。

 


 


[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長

 

芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長

 


[Design]
高瀬羽衣子

 


 

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