アナフィラキシーショック【ケア編】|気をつけておきたい季節の疾患【16】
来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。
→アナフィラキシーショック【疾患解説編】はこちら
川口なぎさ
大阪市立総合医療センター・救急看護認定看護師
〈目次〉
- 治療中のナーシングポイント
- まずはABCDEアプローチで患者の状態を把握
- アナフィラキシーショックで最も大切なこと!
- ナースの視点
- アナフィラキシーショックであることを早期に認識
- アナフィラキシーショックが疑われたら、十分な人員を確保
- 入院病棟の調整
- 退院時(帰宅時)の指導
1まずはABCDEアプローチで患者の状態を把握
アナフィラキシーショックは、発症から短時間で死に至ることもある重大な症状です。夏から秋にかけて多い、ハチによるアナフィラキシーショック発症の場合、通常は2回めに刺されるとショックに陥る危険性が高くなるといわれていますが、1回目でもショックに陥る場合があります。まずはABCDEアプローチで患者の状態を把握し、緊急の処置が必要な場合はすぐに処置介助を行います。
Airway(気道)
気道の閉塞がないかを確認します。気道浮腫など上気道閉塞を疑う「ストライダー(stridor)」と呼ばれるいびき音や喘鳴が聞かれる、言葉が話せないといった状態や、頻呼吸、努力呼吸が見られる場合は気道確保(気管挿管)を行います。浮腫が強くて気管挿管ができない場合は気管切開の用意も必要です。
Breathing(呼吸)
呼吸数や呼吸音の観察、努力呼吸の有無を観察します。気道や喉頭浮腫により、患者さんは努力呼吸となっている場合があります。高濃度酸素投与が行えるようにリザーバー付き酸素マスクの準備や、「Airway(気道)」でも述べたように、頻呼吸や努力呼吸などがあれば、気管挿管も考慮します。
Circulation(循環)
アナフィラキシーショックは血液分布異常性ショックであるため、大量輸液が有効となります。なお、下肢挙上のショック体位にすることも、処置を開始する前の準備段階で行っておいても良いでしょう。
動悸、冷汗、血圧低下などショック症状が見られれば、末梢ルートを挿入し、初期輸液の準備をします。急速輸液が必要なため、可能であれば末梢ルートは2本取れるように準備します。アナフィラキシーショックが疑われる場合は、アドレナリンの準備も必要です。アドレナリンは筋肉注射で投与します。
Disfunction of CNS(中枢神経)
意識障害があれば、JCSやGCSなどのスケールを用いて評価します。生命を脅かす意識障害がないかの観察もします。明らかな意識障害はなくても、多弁、不安感や焦燥感を訴える、落ち着きがないなどショックの前駆症状にも注意することが必要です。
Exposure(脱衣と体温管理)
衣服を取り除き、体温測定や外表観察をします。また、アナフィラキシーショックの場合は、全身発赤や前胸部などの部分発赤が見られる場合や、膨隆疹や蕁麻疹などが見られる場合があります。それらを見落とさないようにしっかりと観察し、発赤や膨隆疹、蕁麻疹の範囲について正確に記録し、時間経過とともに拡大がないか評価することも必要です。
なお、ハチによるアナフィラキシーの場合、刺された部位の発赤が5センチ以上、腫脹が2関節以上及ぶものは過剰反応ともいわれています。
2アナフィラキシーショックで最も大切なこと!
そして、最も大切なことは、これらABCDEアプローチで観察したことを、チームで共有することです。観察したことは、大きな声で確実に報告しましょう。緊急時は、報告したつもりでも伝わっていないこともあります。確実に相手に伝わっているか、確認することも必要です。
ナースの視点
1アナフィラキシーショックであることを早期に認識
アナフィラキシーショックの患者さんの中には、表1のように、喘息発作や、不安発作を疑うような主訴で来院される場合もあり、アナフィラキシーショックとの鑑別が急がれます(表2)。
アナフィラキシーショックは進行が早く、発症から呼吸停止・心停止までは、薬物で5分、ハチで15分、食物で30分といわれています。少しでも早くアナフィラキシーショックであることを認識し、治療が遅れないようにしましょう。
また、例えば、ハチによるアナフィラキシーショックの場合、発症しやすい条件として、農業や林業、養蜂業など、外での仕事に携わる職業の人や、ハチの攻撃性が高まる夏場に多いなどがあります。「どんな状況で何をしていて症状が出現したのか」、「屋外にいたのか」、「何かに刺されたような感覚はなかったか」、「(薬物・植物による誘因が否定される場合は)これまでにハチに刺されたことはないか」など、本人や家族からの問診でしっかりと聴取する必要があり、看護師の腕の見せ所です。
2アナフィラキシーショックが疑われたら、十分な人員を確保
前述したように、アナフィラキシーショックは進行が早いのが特徴です。気管挿管、ルート確保、アドレナリン注射など、多くの処置が同時進行となることも予測され、また気管挿管などは上気道浮腫により挿管困難事例となる場合もあります。気道管理セットなど物品の準備とともに、人を集めることも大切です。
また、処置中に心停止となる危険もあります。定期的なバイタルサイン測定とモニター管理はもちろんですが、いつでも蘇生処置が行えるようにベッド周囲の環境を整えておくことも必要です。
3入院病棟の調整
アナフィラキシーショックは、治療により初療室で一旦、落ち着いたかのように見えても、再度、症状が出現する場合があります。経過観察で入院となる場合が多いため、入院病棟との調整が必要となります。
4退院時(帰宅時)の指導
アナフィラキシーにより搬送されてきた患者さんが退院される時は、今後の、アナフィラキシーへの対応を説明します。今後もアナフィラキシーの誘因と接触する可能性がある場合は、アドレナリン自己注射薬(図1)の指導が必要となります。
万が一、アナフィラキシーの誘因と接触した場合も慌てずに対処できるように、薬剤師による自己注射の指導と、速やかに医療機関を受診することを指導し、退院(帰宅)してもらうことが必要です。また、家族や周囲の人にも、アナフィラキシーショックについて知ってもらい、対処方法を一緒に学習してもらうことが患者さんの安全を守る上で大事なことです。子どもの場合は、学校の先生との連携や情報共有も必要となります。
[引用・参考文献]
- (1)一般社団法人日本アレルギー学会.アナフィラキシーガイドライン.2014,24p.(2017年6月閲覧)
- (2)三上剛人編著.道又元裕監.救急看護トリアージ 隠れた重症を見逃すな.日総研出版,2013,119p.
- (3)日本救急看護学会教育委員会編.日本救急看護学会監.ファーストエイド すべての看護職のための緊急・応急処置.へるす出版,2010,223p.
- (4)日野原重明ほか監.看護のための最新医学講座25救急.中山書店,2002,377p.
[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長
[Design]
高瀬羽衣子