熱中症【ケア編】|気をつけておきたい季節の疾患【15】
来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。
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平山幸枝
帝京大学医学部附属病院ERセンター・救急看護認定看護師
〈目次〉
1熱中症は重症化すると死に至る
熱中症患者さんは、短時間で状態が悪化することがあるため、重症度が低いからといって安心はできません。また、最重症のⅢ度熱中症では高体温に加え、意識障害や肝・腎障害、横紋筋融解、血液凝固異常などを併発し、生命危機に陥ることがあります。
熱中症患者さんの重症化を予防するためには「早期の発見」「早期の治療介入」「継続的な観察」が必要です。
2熱中症患者さんへの対応
熱中症が疑われる患者さんへの電話での対応
熱中症が疑われる患者さんに電話相談で対応する際は、症状が徐々に改善しているようなら、応急処置の方法と対応について指導します。
指導内容としては、日陰や涼しい場所、風通しの良い場所で休息をとること、氷や保冷剤などを使用し、体表冷却を行うこと、スポーツドリンクや市販の経口補水液を摂取し水分やナトリウムの補給を行うことなどです。
電話相談で指導する場合は、症状が改善しない、もしくは、悪化した場合は受診の必要性があることを必ず伝える必要があります。
Ⅰ度・Ⅱ度熱中症患者さんの対応
Ⅰ度やⅡ度の熱中症患者さんには、図1で示したような、めまいや立ちくらみ、頭痛や嘔気・嘔吐などの症状が出現します。
重症度にかかわらず、安静、体温管理、経口もしくは点滴による水分とナトリウムの補給、状態に合わせて採血や画像検査などを行います。検査や処置中は、状態が変化することを考慮し、バイタルサイン測定や自覚症状の確認を定期的に実施する必要があります。
体温管理のための体表冷却や蒸散冷却を行う場合は、低体温を予防するために定期的な体温測定(鼓膜温や深部温が望ましい)が必要です。採血や尿検査で電解質異常、腎・肝機能異常、凝固系の異常を認める場合は、重症化する可能性があるため、より注意深い観察が必要となります。特に、Ⅱ度熱中症の症状(図1)を認める場合は、生体監視モニター下での継続的な監視が必要です。
Ⅲ度熱中症患者さんへの対応
Ⅲ度熱中症患者さんは、意識障害やショック、播種性血管内凝固症候群(DIC)などを併発し、多臓器不全から死に至る場合があります。高体温や意識障害、痙攣などの症状がある患者さんの場合は、血液検査の結果を待ちつつ、生体監視モニター下での深部体温・呼吸・循環管理を中心とした集中治療を開始し、継続的な監視を行います。
体温管理は体表冷却や蒸散冷却以外に、冷水による胃洗浄や膀胱洗浄、血管内冷却カテーテルを使用した深部冷却や水冷式体表冷却など、専用の機器を使用し、体温をコントロールする場合があります。体温管理はⅠ・Ⅱ度熱中症の対応と同様に、低体温の予防を行います。
そのほか、冷水により胃洗浄を行う場合は体位管理を行い、誤嚥の予防を行う必要があります。また、機器を使用した体温管理を行う場合は、機器の管理や留置するカテーテルの管理、装着したパッド部位の皮膚管理が必要です。さらに、肺炎や褥瘡、関節拘縮などの合併症を予防するために、患者さんの状態に合わせて体位変換、体位ドレナージ、リハビリテーションなども並行して行う必要があります。
患者さんやご家族の不安の解消
患者さんやご家族は、症状の程度にかかわらず、何らかの不安を抱えていることが予測されます。そのため、看護師側から声をかけ、話しやすい雰囲気作りをすることで、患者さんやご家族が安心して治療を受けられる環境作りを行いましょう。
ナースの視点
1季節や環境で熱中症と決めつけない
御存知の通り、熱中症は夏場に多い疾患です。しかし、だからといって、高温・多湿の夏場に熱中症の症状を訴えて来院する患者に対して、熱中症だと決めつけて問診や身体所見をとることは危険です。例えば、「体温が高い」場合は「発熱」によるものなのか「高体温」によるものなのかを判断しなければなりません。発熱の原因は、感染症など、ほかの疾患の可能性もあるからです。そのためには、問診や身体所見の情報が重要になります。きちんと確定するまでは、熱中症は、鑑別診断の一つとして考えます。
2確認すべき患者情報のポイント
熱中症を疑う場合は、バイタルサイン測定や自覚症状、他覚所見の確認は優先されるべき情報ですが、重症度にかかわらず、以下の情報も必ず確認する必要があります。
また、情報は患者さん本人から取ることが基本ですが、意識障害のある患者さんや言語が未発達な小児では、家族や付き添いの方から情報を取る必要があります。得た情報は医師やコメディカルなど、かかわるスタッフ全員で共有します。
暑熱環境
症状出現時の環境(気温、湿度)や、何をしているときに出現したかを確認します。屋内での発症は、高齢者に多く認められます。高齢者は日常生活動作の低下により、外出頻度が低下し、かつ、高温・多湿の夏場でもクーラーを使用せずに過ごしていることが多く見受けられます。その結果、気づかぬうちに熱中症の症状が進行している場合があります。高齢者の問診は自覚症状だけでなく、自宅や施設の環境などを含めた情報を取る必要があります。屋外発症は労働やスポーツに起因することが多いため、仕事の内容、スポーツの種類、水分摂取状況など、発症時の状況を含めた情報を取る必要があります。
熱中症の危険因子
年齢
高齢者や小児といった、熱中症に罹患しやすい年齢層を理解しておくことは、熱中症の早期発見、早期対応につながります。
高齢者は体温調節機能の低下、温度変化に対する感覚の低下、日常生活動作の低下、基礎疾患の増加により熱中症に罹患しやすく、かつ、重症化しやすいという特徴があります。
また、小児は体表面積に比べて発汗能力が低いため、熱が体内にこもり、熱中症に罹患しやすいという特徴があります。
既往歴(服薬歴も含む)
糖尿病、高血圧、循環器疾患、精神疾患、慢性疾患などの疾患に罹患している患者は、疾患や服用している薬剤の影響により体温調節機能の低下や、脱水に陥りやすいなどの特徴から、熱中症を起こしやすく、かつ、重症化しやすいという特徴があります。
患者指導
熱中症は予防することができる疾患です。自宅の環境調整、労働・スポーツを行う際にとるべき行動など、患者自身ができる予防策を指導することも、看護師の重要な役割です。
自宅で過ごすことが多い患者さん
エアコンや扇風機を使用して、室内温度・湿度の調整と水分摂取を指導します。
屋外や屋内で活動することが多い患者さん
屋内外での労働やスポーツを行う際は、日陰や風通しの良い場所での休息と水分摂取を指導します。
水分とナトリウムの補給
水やお茶類には塩分が含まれていないため、塩分を含んでいるお茶(梅茶など)やスポーツドリンク、市販の経口補水液の摂取を指導します。合わせて、スポーツドリンクは糖分が多いことも伝える必要があります。
熱中症治療のポイントは、医療者全員の協力
熱中症患者さんは、重症度が高くなればなるほど多くの合併症を併発し、時に死に至ることもあります。医師・看護師・コメディカルが、それぞれの役割を果たすだけでは患者さんの重症化を予防することはできません。重症化を予防するためには、すべてのスタッフが協力し、患者さんの治療を行う必要があります。そのためには、患者さんの情報を医療者全員で共有し「患者さんがもとの生活に戻れる」ことを目標に、治療や看護を行う必要があります。
[引用・参考文献]
- (1)日本救急医学会.熱中症診療ガイドライン2015.(2017年4月閲覧)
- (2)三宅康史.金澤一郎ほか編.熱中症Heat Illness.今日の診断指標第6版.医学書院,2011,538-9.
[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長
[Design]
高瀬羽衣子