麻しん(はしか)【疾患解説編】|気をつけておきたい季節の疾患【3】
来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。
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辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
〈目次〉
- 麻しんってどんな疾患?
- 麻しんの発生状況
- 麻しんの感染経路
- 麻しんの臨床症状
- 妊婦への感染
- 麻しんの検査所見
- 麻しんの合併症
- 麻しんの処置・治療法
- 麻しんの予防接種
- ナースに気をつけておいてほしいポイント
麻しんってどんな疾患?
麻しんの発生状況
麻しんは「ワクチン接種で予防できる疾患」です。日本国内で年間に報告されている麻しんは1万~3万例で、2歳以下での罹患が約50%です(1)。 報告されていない麻しんも多いと推測され、麻しん患者の実数はその10倍くらいではないかと言われています。2歳以下の麻しん患者は95%が予防接種未接種です。
麻しんの感染経路
麻しんには飛沫感染、接触感染のほか、空気感染などの感染経路があり、潜伏期間は10~12日です。麻しんウイルスは感染性が強く、罹患すると重症化する疾患です。しかし、通常1回の感染で終生免疫を得るため、一度麻しんに罹患したら再度罹患することはまずありません。
麻しん患者から他者へ感染する時期は、皮疹の出現する前のかぜ症状の時期が最も強いとされています。ただし、皮疹が出現している間も感染性はあります。
麻しんは時に散発的な流行があります。これは地域の集まり、イベント開催などが要因となることもあります。
麻しんの診断は臨床的に行われますが、水痘や風疹、EBウイルス感染など、ほかのウイルス性疾患との鑑別は困難で、麻しんの罹患を見過ごされてしまうこともあります。
麻しんの臨床症状
前述した通り、麻しんは感染後、10~12日の潜伏期を経て発症します。麻しんは、前駆期(カタル期)、発疹期、回復期に分けられます。
前駆期(カタル期):発症~4日
潜伏期の後、最初の症状が出る期間を前駆期(カタル期)と呼びます。麻しんの前駆期には、発熱と全身倦怠感といったかぜ症状が出ますが、いずれも非常に強く出現します。
かぜ症状(鼻閉、鼻汁、咽頭痛)は気道感染症と区別がつきません。咳は強く出ますが、喀痰は多くありません。また、結膜は充血・腫脹し、眼脂、羞明が出現します。
なお、発熱は38℃を超え、前駆症状(カタル症状)出現から皮疹出現まで、およそ5~7日間持続します。
皮疹が出現する2日くらい前に、粘膜にコプリック斑と呼ばれる、小さな赤く不整の斑点が出現します。コプリック斑は1~4日持続し、麻しん診断の重要な所見となりますが、皮疹出現後、2日以内に急速に消褪します。
コプリック斑は、特に口腔粘膜に見られるのが有名ですが、膣粘膜にも見られます。
このような症状は日ごとに増強し、2~4日続いた後に皮疹が出現します。全身症状のピークは皮疹が出現したときと言われています。
発疹期:発症後5~8日
前駆期の熱は一旦解熱し、皮疹出現に一致して再び発熱します。その際の発熱は39℃を超えることもあります。これを二峰性発熱と言います。
麻しんに伴う皮疹は顔面から始まります。この時期にも高熱や全身症状は強く続いています。
皮疹出現初期にはごく小さな鮮紅色丘疹ですが、癒合し、赤色の斑状疹となります(図1、2)。重症例はそれらも癒合し、紅斑(赤い地図状の皮疹)となることもあります。
皮疹の拡大は顔面に始まり、体幹を上から下に広がり、そして四肢末梢に向けて拡大していきます。また、発疹期にカタル症状は一層強くなり、特有の麻しん様顔貌が見られます(図3)。
皮疹は3~7日ほど持続し、出現した順に消褪していきます。
回復期:発症後9~14日
回復期に入ると、発熱もなくなり、カタル症状も治まってきます。皮疹の消褪とともに、皮膚落屑が見られます。重症例、色白の患者には色素沈着が残ります。
その他の身体所見(前駆期から回復期)
咽頭発赤、扁桃の黄色分泌物、全身リンパ節腫脹、時に脾腫が見られます。
妊婦への感染
麻しんは、風しんとは異なり、感染による胎児奇形を生じることはありません。しかし、妊婦が麻しんに感染することにより、早産や流産の可能性が高くなります。
麻しんの検査所見
麻しんに罹患している場合、血液検査では白血球減少が早期から見られます。また血小板減少、蛋白尿も見られます。
前述した通り、麻しんは通常は臨床的に診断されますが、麻しんの血液学的な診断方法としては、麻しんウイルスの培養、抗体価測定があります。
麻しんの合併症
麻しんの合併症は麻しん患者の約30%に生じると言われています(2)。麻しんによる合併症として、特に肺炎と脳炎(中枢神経合併症)が2大死因であり、注意しなければなりません。
気管支肺炎・細気管支炎
麻しん経過中、前駆期から発疹期に発症する気管支肺炎・細気管支炎は、麻しん罹患患者の約5%に発症すると言われています。麻しんそのものが重症である上にさらに発症するため、肺炎は重症化することが多く、治療に難渋することもあります。
脳炎(中枢神経合併症)
麻しん後髄膜脳炎は小児よりも年齢が上(若年~成人)の患者に発症する率が高く、また皮疹が出現してから2~6日で発症することが多いとされています。
脳炎の発症率は麻しん罹患患者の1,000例に0.5~1例の割合と決して高くはありませんが、死亡率は10~20%と高く、たとえ治ったとしても20~40%に神経学的後遺症(精神発達遅滞や痙攣など)が残ります。
亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis;SSPE)
亜急性硬化性全脳炎は、麻しん感染後5~15年経過して発症する脳炎です。発症率は麻しん罹患患者10万例に1人と低いものの、発症した場合、知能障害や運動障害などが徐々に進行し、発症から平均6~9カ月で死の転帰をとる予後不良疾患です。
二次性細菌感染症
麻しん罹患患者の約15%に、発症早期から細菌感染が生じます。二次性細菌感染症には、頸部リンパ節炎、中耳炎、肺炎などがあります。
麻しんの処置・治療法
麻しんの治療は、カタル症状への対症療法と合併症に対する治療が重要となります。麻しんと診断したら、解熱後3日までは学校や職場などからは隔離することが必要です。発熱が収束するまで安静を勧めましょう。
麻しんは皮疹が出現するまでの全身症状(カタル症状)が強いため、患者の約50%が入院治療を要します。必要時には輸液、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンを投与します。
もし、肺炎を発症していれば適切な呼吸管理や抗菌薬投与が必要です。また、神経学的合併症を生じた患者は対症的な治療(例:脳圧降下薬、抗痙攣薬投与など)しかありません。
麻しんの予防接種
麻しんの予防接種効果は明らかで、ワクチン接種を受ければ約95%で免疫を獲得すると言われています(1)。
2006年より、1~2歳時期と5~6歳時期の2回、MRワクチン(麻しん風しん混合の生ワクチン)の定期接種制度が導入されています。
麻しんは、飛沫感染力の強い疾患であるため、まず、麻しんを疑う患者が来院したら感染予防策を考えましょう。また、患者が予防接種を受けているかどうかの確認は、麻しんの可能性を知る上で有用なため、必ず確認してください。
麻しん患者の約半数は入院加療が必要となります。さらに、来院時にすでに肺炎を発症していたり、意識障害を来している場合には、死亡率が高くなるため、直ちに入院させて治療を開始する必要があります。
また、医療者自身が過去に麻しんに罹患しているかどうか(自身が抗体を持っているかどうか)を知ることも重要です。抗体がない医療従事者が麻しんを発症した場合、ほかの患者に感染させてしまう可能性があるためです。抗体がない医療従事者は、予めワクチン接種を行っておきましょう。
なお、通常、5類感染症は7日以内に最寄りの保健所に届け出る必要があり、麻しんは5類感染症ですが、24時間以内の届け出が求められています。
[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 看護副部長
[Design]
高瀬羽衣子