小児の呼吸器系の生理学的・解剖学的特長は?
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『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「小児の呼吸器系の生理学的・解剖学的特徴」に関するQ&Aです。
三浦規雅
東京都立小児総合医療センターPICU主任
小児の呼吸器系の生理学的・解剖学的特徴は?
上気道が閉塞しやすく、気道は細く脆弱・過敏です。呼吸不全に対する許容量が狭いのが特徴です。
〈目次〉
小児の呼吸器系の生理学的特徴
小児では頭部、特に後頭部が大きいため、仰臥位では気道が屈曲され、閉塞傾向になる1(図1)。
頭部を支持する筋肉が弱く、呼吸窮迫患者では、頭部を上下させるような呼吸を認める。
新生児では、鼻呼吸優位のため、鼻腔の閉塞により、呼吸が障害される。
口腔容積に比べて、舌が大きく、唾液等の分泌物が多い。これらにより、気道が閉塞されやすい(図2)。
小児の呼吸器系の解剖学的特徴
新生児では、肋骨の角度が水平で呼吸筋が未発達のため、腹式呼吸優位である。肋骨の傾斜が成人に近づき、呼吸筋が発達してくるのに合わせて、乳幼児では胸腹式呼吸、3歳ごろから胸式呼吸優位となってくる(図3)。
横隔膜は、水平に近い角度であり、収縮によって得られる陰圧も小さい。また、小さい胸郭に対し腹部臓器は大きく、腹部膨満により容易に横隔膜の動きは制限される(図2)。
小児の肺コンプライアンスは低く、肺胞を膨張させるための呼吸仕事量は、成人よりも大きい。一方で、呼吸筋は未発達であり、呼吸不全状態の持続により、容易に呼吸筋疲労を生じる。
小児、特に乳幼児では、胸郭のコンプライアンスが大きい。つまり胸郭が非常に柔らかいため、上気道の閉塞や肺コンプライアンスの低下から吸気努力が生じても、横隔膜の下降によって得られる陰圧は、胸郭の内側への変形により打ち消されて、陥没呼吸となり、有効な換気が得られない(図4)。
虚脱しやすい肺胞に対して、呼吸回数の増加や呼気時に声門部を狭小化(呻吟)することで肺胞の虚脱を防いでいるが、鎮静や麻酔によってこの機能が障害されると、容易に肺胞虚脱が生じる。
乳幼児では、側副気道の発達が未熟であるため、中枢寄りの気道の閉塞に対して無気肺が生じやすい。特に、解剖学的に右上葉に無気肺が生じやすい。
胸郭が小さく、機能的残気量が小さいのに対して、酸素消費量は大きく(エネルギー代謝量が大きい)、無呼吸に対する許容時間は、成人と比べて短く、短時間の無呼吸によっても容易に低酸素血症に陥る。
体重当たりの一回換気量は、成人とほぼ同じであるのに対して、二酸化炭素排泄量は大きく(エネルギー代謝量が大きい)、呼吸回数の増加によって、二酸化炭素排泄を補っている。
幼児・小児の気道の特徴は表1に示したように、細く、短い。
Lerman J,Cote CJ,Steward DJ著,宮坂勝之,山下正夫訳:小児麻酔マニュアル改訂第6版.克誠堂出版,東京,2012:15.より引用
[文献]
- (1)Lerman J,Cote CJ,Steward DJ著,宮坂勝之,山下正夫訳:小児麻酔マニュアル改訂第6版.克誠堂出版,東京,2012.
- (2)American Heart Association:PALSプロバイダーマニュアルAHAガイドライン2010準拠.シナジー,東京,2013:46.
- (3)Silverman WA, Dunham’s Premature Infants. 3rd ed. New York:Harper & Row;1961:144.
- (4)志馬信朗,橋本悟,問田千晶:小児ICUマニュアル改訂第6版.永井書店,大阪,2012
- (5)日本呼吸療法医学会・多施設共同研究委員会:ARDSに対するClinical Practice Guideline第2版.人工呼吸2004;21:44-61.
- (6)Curley MA:Japanese Version SBS. http://www.marthaaqcurley.com/uploads/8/9/8/6/8986925/sbs_japanese.pdf(2014年11月18日閲覧).
- (7)志馬信朗:小児人工呼吸管理中の鎮静・鎮痛.救急・集中治療2010;22:407.
- (8)McGrath PJ, Johnson G, Goodman JT, et al. CHEOPS:A behavioral scale for rating postoperative pain in children. Adv Pain Research therapy 1985; 9: 395-402.
- (9)小宮山明子,魚住知恵:人工呼吸療法中の子どもの口腔ケア.小児看護2012;35(9):1203.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社