小児の呼吸フィジカルアセスメントのポイントは?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「小児の呼吸フィジカルアセスメント」に関するQ&Aです。
三浦規雅
東京都立小児総合医療センターPICU主任
小児の呼吸フィジカルアセスメントのポイントは?
小児の心停止の最大の原因は、進行性の呼吸不全です。呼吸不全に至る前に、その徴候を発見し、早期の適切な介入が求められます。
〈目次〉
小児の呼吸フィジカルアセスメント
小児は、呼吸機能が未熟で、容易に呼吸不全に陥りやすい。
進行性の呼吸不全が、小児の心停止の最大の原因である。しかし、小児は、呼吸困難を他者に伝えることが困難であるため、呼吸不全に至る前に、その徴候を発見し、早期に適切な介入をすることが求められる。
小児のフィジカルアセスメントの第一段階として「なんとなくおかしい(not doing well/ノットドゥーイングウェル)」ことに気づくことが重要である。
生体モニタから得られる情報は有用であるが、生体モニタに現れないサインを見逃さないことが、異常の早期発見につながる。
呼吸フィジカルアセスメントの評価項目
1呼吸回数
30秒間数え、2倍することで測定する(表1)。
年齢 | 回/分 |
---|---|
乳児(1歳未満) | 30~60 |
幼児(1~3歳) | 24~40 |
就学前小児(4~5歳) | 22~34 |
学童(6~12歳) | 18~30 |
思春期(13~16歳) | 12~16 |
2努力性呼吸
努力性呼吸の種類を表2に示す。
鼻翼呼吸 | 気流を最大化するため吸気時に鼻孔が拡大する。通常は呼吸窮迫の徴候である |
陥没呼吸 | 吸気時に胸骨上の軟部組織、肋骨間、肋骨弓下の軟部組織が陥没し、呼吸仕事量の増加を示す。重篤であると、陥没は胸骨上・鎖骨上にまで及ぶ |
頭部の上下首振り | 呼吸の補助に頸部の筋肉を使用するため、吸気時には顎先を上げて頸部を伸展し、呼気時には顎先を前方に落とす。呼吸不全の徴候である可能性がある |
シーソー呼吸 | 吸気時には胸部が陥没して腹部が拡張し、呼気時には胸部が拡張して腹部が内側に動く。呼吸窮迫の進行を示す |
呻吟(しんぎ) | 末梢気道や肺胞の開存性の維持を目的に、声門を部分的に閉じた状態で呼出するため、呼気時に短く低い音が生じるもの。肺の虚脱を示唆する |
呼吸困難の程度と部位を表3に示す。
3換気量
換気のめやすを以下に示す。
胸郭の動き
吸気時の胸郭の拡張が左右対称であり、十分である。
エア入り
両腋窩下で末梢気道への空気の流入を聴取できる。
4呼吸音
異常呼吸音の種類を表4に示す。
Wheeze | 主に呼気相で聴取される高音性の連続音。末梢気道の狭窄(気管支喘息・細気管支炎など)を示唆する |
Rhonchi | 主に呼気相で(あるいは吸気相でも)聴取される低音性の連続音。中枢性気道の狭窄(分泌物・炎症など)を示唆する |
coarse crackles | 吸気相、呼気相ともに聴取される、粗く低く長めの断続音。分泌物の存在を示唆する |
fine crackles | 吸気相終末で聴取される、細かく高く短い断続音。虚脱と再拡張を繰り返す肺胞の存在を示唆する |
Stridor | 通常は吸気相(呼気相でも)で聴取される甲高い音。上気道閉塞の徴候である |
5呼吸パターン・リズム
呼吸パターン・リズムの種類を表5に示す。
無呼吸発作 | 20秒間呼吸が停止した状態。徐脈、チアノーゼまたは蒼白を伴う場合は、20秒未満でも無呼吸という |
呼気延長 | 下気道、末梢気道の狭窄を示唆する |
吸気延長 | 上気道の狭窄を示唆する |
チェーンストークス呼吸 | 多呼吸から次第に呼吸が減弱し、無呼吸となり、弱く呼吸を再開し、再び多呼吸となる過程を繰り返すもの。呼吸中枢の障害で認める |
ビオー呼吸 | 不規則に無呼吸と多呼吸を繰り返すもの。脳圧亢進でみられる |
クスマウル呼吸 | ゆっくりとした規則的な深い呼吸。代謝性アシドーシスに対する代償性呼吸として認める |
小児の呼吸障害
呼吸障害は、呼吸窮迫と呼吸不全に分類される(表6)。
呼吸窮迫
呼吸回数、仕事量の増加を認めるが、酸素化と換気が維持されている状態である。
呼吸不全
酸素化または換気、あるいはその両方が維持されていない状態である。その変化は経時的に現れる。
呼吸障害の原因は、上気道閉塞、下気道閉塞、肺実質病変、呼吸調節障害に分類できる。しかし、これらは必ずしも単独で生じるとは限らず、呼吸窮迫や呼吸不全の原因が1つであるとは限らない(表7)。
呼吸障害の重症度判定基準を表8に、呼吸不全の診断基準を表9に示す。
表8呼吸障害の重症度判定基準(Silverman’s retraction score)
Column:異常呼吸音って?
呼吸音は、正常呼吸音(健常な肺・気道で聴取される音)と、異常呼吸音(肺・気道に何らかの異常がある場合に聴取される音)に分けられる。
異常呼吸音は、呼吸音の異常(減弱・消失、延長、増強)と、副雑音に分類される。
聴診による呼吸音聴取は、必ず前胸部と背部で行う。なお、仰臥位での人工呼吸器装着中は、背側の呼吸音は弱く聴こえることを知っておくとよい。
[Profile]
道又元裕
杏林大学医学部付属病院看護部長
注釈
[文献]
- (1)Lerman J,Cote CJ,Steward DJ著,宮坂勝之,山下正夫訳:小児麻酔マニュアル改訂第6版.克誠堂出版,東京,2012.
- (2)American Heart Association:PALSプロバイダーマニュアルAHAガイドライン2010準拠.シナジー,東京,2013:46.
- (3)Silverman WA, Dunham’s Premature Infants. 3rd ed. New York:Harper & Row;1961:144.
- (4)志馬信朗,橋本悟,問田千晶:小児ICUマニュアル改訂第6版.永井書店,大阪,2012
- (5)日本呼吸療法医学会・多施設共同研究委員会:ARDSに対するClinical Practice Guideline第2版.人工呼吸2004;21:44-61.
- (6)Curley MA:Japanese Version SBS. http://www.marthaaqcurley.com/uploads/8/9/8/6/8986925/sbs_japanese.pdf(2014年11月18日閲覧).
- (7)志馬信朗:小児人工呼吸管理中の鎮静・鎮痛.救急・集中治療2010;22:407.
- (8)McGrath PJ, Johnson G, Goodman JT, et al. CHEOPS:A behavioral scale for rating postoperative pain in children. Adv Pain Research therapy 1985; 9: 395-402.
- (9)小宮山明子,魚住知恵:人工呼吸療法中の子どもの口腔ケア.小児看護2012;35(9):1203.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社