硬膜外カテーテルによる硬膜外血腫は、いつ発生しやすいの?
『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「硬膜外カテーテルと硬膜外血腫」に関するQ&Aです。
上田真美
大阪市立総合医療センター麻酔科医長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
硬膜外カテーテルによる硬膜外血腫は、いつ発生しやすいの?
挿入後にも抜去後にも起こる可能性があります。病棟での抜去後にも注意が必要です。
〈目次〉
硬膜外血腫とは?
硬膜外麻酔施行患者で、病棟で見られる主な合併症として、低血圧・背部痛・硬膜穿刺後頭痛・カテーテル遺残・硬膜外血腫・硬膜外膿瘍などがあります。
硬膜外血腫は、硬膜穿刺時やカテーテル挿入時に血管を損傷することによって発生します(図1)。
カテーテルが挿入されている場合は、それによって止血されていることもあり、抜去によって再び血管が破綻し出血することがあります。出血が止まらず、硬膜外腔に血腫ができてしまうと、その奥にある脊髄を圧迫し、痛みや麻痺といった症状が出現します。Wulfらの集計では、38人の硬膜外血腫を発症した症例で、25人がカテーテル抜去前、13人がカテーテル抜去後であったと報告しています(1)。
硬膜外腔には血管が多く、硬膜外麻酔に伴う血管穿刺の発生率は2.9%程度とされます。ただし、血管を損傷したからといって、全員に硬膜外血腫が発生するかというとそうではありません。通常であればすぐに止血され、血腫を形成することはありません。しかし何らかの理由で血が止まりにくい場合、出血が止まらず、血腫を形成することになります。
硬膜外血腫はどういった場合に起こりやすいの?
硬膜外血腫が発生しやすいのは、まず血が止まりにくい場合です。具体的には、
- ①凝固能障害
- ②血小板減少
- ③抗凝固薬・抗血小板薬
の使用です。術前から前述のような検査データや薬の休止が不十分な場合は、麻酔科は硬膜外穿刺を行いません。しかし、術中大量出血をした場合は、術後に血小板数の低下や凝固能障害が発生する場合があります。また、深部静脈血栓症・肺塞栓症の予防のために、術後に抗凝固療法を行う場合にも注意が必要です。
硬膜外血腫の発生頻度は15万回に1回程度とされますが、穿刺が困難であった場合や高齢者では、発生頻度は高くなります。
硬膜外血腫の症状・診断・治療法は?
硬膜外血腫の症状としては、急激に発症する重篤な背部痛・痛覚運動麻痺*1があります(2)。これらの症状が認められた場合は、すぐに麻酔科医に連絡をしてください。
確定診断にはMRIが必須となります(疑わしい場合は、すぐにMRIを!)。
Wulfらの報告では、硬膜外血腫発生後8時間以内に手術(除圧術)を行った場合の回復率は8割以上であったのに対し、24時間以上経つと1割程度にまで下がってしまいます。早期発見・診断・治療が重要です。ただし最近では、神経学的症状が軽度の場合(下肢の痛覚・運動麻痺が見られない場合など)は、保存的に見られる場合もあります。
硬膜外カテーテル抜去後、12時間以内の発症が多いとされますが、24時間は特に注意が必要です。ただし数日が経過してからの発生報告もあり、抗凝固療法を行っている場合は特に注意する必要があります。
硬膜外血腫は早期発見が重要です! 患者さんから症状の訴えがある場合は、 まず早めに麻酔科に連絡してください。
[文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典]『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(編著)西口幸雄/2014年5月刊行
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社