腹腔ドレーンの排液の観察ポイントって何?
『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「腹腔ドレーン排液」に関するQ&Aです。
山中英治
若草第一病院院長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
排液の性状と量です。性状と量の異常を知っていることで、出血、縫合不全、感染を発見できます。
〈目次〉
腹腔ドレーン留置の目的
腹部の手術の多くは臓器を切除して縫合または吻合します。
切除した部位の止血と縫合部の漏れがないことを確認してから閉腹しますが、術後に予期せぬ出血や縫合不全が起こる可能性があります。ドレーンが入っていれば、出血や消化液の漏れを早期に発見できて対処できます(情報ドレーン、表1)。
また、縫合不全ではドレーンから排液できることで、腹腔内に膿瘍を形成することなく、保存的治療で治癒することもあります(治療的ドレーン)。
種類 | 目的 |
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治療的ドレーン | ● 血液、膿、消化液などの体液を排出するため ● 洗浄液、薬液を注入するため |
予防的ドレーン | ● 死腔が形成されているか、またはその可能性がある場合 ● 感染・縫合不全の危険性がある場合 |
情報ドレーン | ● 術後出血、縫合不全などを早期発見するため |
出血や漏れの心配がない場合は、患者の不快感と逆行性感染を防ぐためにも、ドレーンを挿入しないケースも増えています。
腹腔ドレーン排液の正常と異常
手術では組織を切るのでいくらか出血を伴います。止血を確認し洗浄して閉じても、手術当日のドレーン排液は血液が混じります(図1)。
図1正常な排液(胃切除当日)
術後出血がなければ、徐々に赤い色は薄くなり量も減ります。やがて紅茶のような濁りのない排液になります。正常の排液の変化の経過を知らなければ異常を発見できず、また正常を異常と誤りあせってしまうことにもなります。
大きな手術ほど排液がきれいになるのに時間もかかります。また、切ってつないだ臓器によって漏れる液体の性状が違うので、術式ごとに排液の正常と異常を知っておかなければなりません。
術後出血の判断
ドレーンからの濃い血性排液が100mL/時以上のときは、緊急再開腹止血術が必要になることがあります。
出血量が1000mL以上になると血圧が低下しはじめ、心拍出量を確保するために頻脈になります。腎血流が低下して尿量も減ります。ショック状態になってからでは遅いので、特に術後1時間はドレーン排液の性状と量、そしてバイタルサインの変化に注意し、持続出血と判断したらただちに医師に報告しましょう。
また、排液が減ったと思ったら、ドレーンが屈曲していることもあります。体位の変化によっても量が変化するので注意が必要です。
縫合不全で漏れる液体の術式による違い
胃全摘術では左横隔膜下やウインスロー孔にドレーンが留置されます。縫合不全では、腸液、胆汁、膿汁などの混じった排液(茶色、黄色、緑色などが混ざった混濁した液)になります。
術式 | 排液の性状 |
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胃全摘術 | 混濁液 |
低位前方切除術 | 便汁 |
肝臓切除術 | 胆汁、血液 |
胆嚢摘出術 | 胆汁、血液 |
膵頭十二指腸切除術 | 血液、混濁液 |
低位前方切除術ではダグラス窩に留置され、便汁が漏れます。
肝臓、胆管、胆囊の手術では右横隔膜下やウインスロー孔に留置され、濃黄色の胆汁が漏れます。また肝硬変があると腹水の排液がなかなか減らないこともあります。
膵臓の手術では、膵液が漏れると組織を溶かします。血管壁が溶けると出血して赤ワイン色の排液になり、ときに大出血の危険もあるので医師に報告します。白濁した甘酸っぱいにおいの排液も膵液が漏れたときの特徴です。ガーゼ交換のときに、ドレーン刺入部の周囲やガーゼから特有のにおいがします。
縫合不全の多くは術後1週間以内に発生し、消化液が腹腔内に漏れると、腹膜刺激症状と感染のため、腹痛と発熱(38℃以上)はまず必発で、他に頻脈、麻痺性イレウス、嘔気、ドレーン刺入部の皮膚のただれなどが生じます。
注意すべきはドレーンの先端が移動したり閉塞したりして、漏れた液がドレナージされずに腹腔内にたまる場合です。
漏れた消化液に含まれる消化酵素や細菌、毒素などが排出されないため、重篤な腹膜炎になることがあります。排液が少ない、あるいはきれいだと安心していると、ドレーンが機能していなかったということもあるので、X線などでもドレーンの位置を確認しましょう。
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社